巻き爪と陥入爪の治療2022

先日、慶應大学の齋藤昌孝先生による巻き爪と陥入爪の治療のWEB講演がありました。陥入爪の治療法は様々な方法があり、歴史的にも変遷を経てきており、またそれぞれの専門家によって治療法の位置づけ、取捨選択が微妙に異なったりします。当ブログでも種々の治療法を紹介してきました。
最近のトレンドとしては、爪母温存爪甲側縁楔状切除術がお勧めとの報告が散見されるようです。その中でも爪の専門家として理論的に研究し、積極的に豊富な治療例を提示されているのが齋藤先生です。
第118回日本皮膚科学会総会の齋藤先生の講演、齋藤先生の指導を受け北大で爪外来を立ち上げた椎谷千尋先生の第121回日本皮膚科学会総会の講演内容も参考にして、巻き爪と陥入爪の治療について紹介してみます。
🔷巻き爪
爪甲の両側縁が内側に向かって過度に彎曲した状態のことです。欧米ではpincer nail, trumpet nailとも呼ばれます。足の拇趾が最も多いです。原因としては、窮屈な靴などの慢性的な圧迫、乾癬、爪白癬などの皮膚疾患、長期臥床や麻痺による歩行量の不足、薬剤、更には足趾の変形性関節症による末節骨の変形などがあげられます。
治療法は、骨棘、皮膚、爪の切除を伴うような外科的処置、手術の適応はごく一部で、ほとんどが保存的に対処されます。
形状記憶合金製のワイヤー、クリップ、プラスチックプレートなど種々ありますが、外すと元に戻るという欠点もあります。また爪甲側縁の硬い角化物を取り除いたり、側爪郭の胼胝様角化を取り除いたりすることで痛みが軽減することもあります。
痛みがなければ、敢えて巻き爪の治療はせずに正しいネイルケアを指導することもあります。
🔷陥入爪
爪甲の側縁が皮膚に刺入して炎症をきたした状態をいいます。足の拇趾に生じることが多く、日常的に他の足趾に比べて機械的な外力を受ける機会が多いことがその理由としてあげられます。そして、悪化させる最大の原因が深爪です。歩行時に大きな荷重のかかる拇趾に深爪による(爪の角の切り残しによる)爪棘が形成されると、鋭い爪棘が皮膚に埋まり込んで刺入し、刺激し反応性に出血し易い肉芽が形成されます。悪化因子としては更に、窮屈な靴や、足趾の先端を刺激する激しい運動(テニス、卓球、バスケットなど)が挙げられ、また扁平で薄い爪の人がなり易い傾向があります。
治療法としては外科的には爪母の一部を切除してしまう方法や、化学的に腐食させるフェノール法がありますが、いずれも爪甲の幅を永久に狭くする方法で、過剰な治療といえます。しかも術後に爪甲鉤彎症、爪甲編位、側縁に取り残しの爪が生えてくるなどのリスクもあります。その点、爪母温存爪甲側縁楔状切除術はどのタイプ、重症度にかかわらず適応となりえます。以前は爪切除は一時的な方法でまた再燃、悪化するために行うべきではないとする意見が多くありました。小生もそう教わってきました。斎藤先生の意見では切り方の問題ではないかとの考えです。爪はただ斜めに切ればよいわけではなく、切った後に角や棘が残らないように、爪甲側縁ができるだけ滑らかに注意して切れば再燃のリスクは少なくなります。さらにもし再燃してもまた切除しなおせばいいわけです。この際、爪母は傷つけていないのでうまく処置すれば手術、フェノール法と異なり正常な爪が戻るわけです。一方、テーピング法、パッキング法、ガター法、アクリル人工爪療法などの保存的治療法は、爪甲側縁の刺入を軽減又は回避するという点では合目的的ですが、確実性、即効性という観点からは爪甲側縁部分切除術には及びません。勿論、齋藤先生も従来のガター法やフェノール法を全く否定されているわけではないものの、その適用範囲はかなり少ないのではないかとの考えです。
🔷爪母温存爪甲側縁楔状切除術のtips
@局所麻酔・・・指先は神経の過敏な部位であり、患者をリラックスさせて保冷剤で局所を冷やし、術者の指がジンジンとしびれた時点で、指の根元の方から麻酔する。指先は知覚が鋭敏なので先にしない。伝達麻酔の必要はなく、近位爪郭と側爪郭の合流部分からやや近位からwing blockを行う。先端なのでEなしの1%キシロカインを皮下注射する。
@爪甲側縁楔状切除・・・手前の爪棘であれば、曲剪刃のカーブを利用して爪の切口が滑らかで角がなくなるように目視下で切除する。大きな肉芽が形成されて爪母近くまで刺入している場合は、まず肉芽をよけて近位爪郭の下にもぐり込むように直剪刃を進めて爪側縁を切り切る。剪刃が「パチン」と音をたてて閉じるのを目安にする。また引き抜かれた爪の切口が鋭角に確実に切り切れていることを確認する。
@肉芽切除・・・剪刃で肉芽を根元から切除する。5-10分程度の圧迫で止血は十分である。抗生剤の内外用、ガーゼ保護を行う。
確実に爪棘がとれ、かつなだらかに側縁が処理されていれば再発のリスクは少なくなる。しばらくしてまた骨棘が刺入したら再度繰り返すことも可能である。
@術後フォロー・・・術後しばらくの間は拇趾に負担がかからないように日常生活動作(歩行や運動)や靴などにも注意を払ってもらう。

参考文献
Monthly Derma 2017年6月号 No.258 さまざまな角度からとらえる爪疾患の多角的アプローチ
◆編集企画◆ 慶應義塾大学専任講師 齋藤昌孝