皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫

皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫(subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma: SPTCL)は皮下脂肪織に限局して浸潤するαβ型CD8陽性細胞傷害性T細胞によるリンパ腫と定義されています。
皮膚リンパ腫全体に占める割合は海外で1%、本邦で2.3%とされ、男女比は1:2と女性に多く発症します。40歳までの若年者に好発します。臨床的には結節性紅斑様の皮下結節を下肢に好発しますが、顔面、躯幹の報告例もあります。
発熱、白血球・血小板減少、肝機能異常などを認めることも多く、また自己抗体陽性例もあり、SLE、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの自己免疫疾患の合併が欧州で19%、本邦で10%にみられます。
近年深在性エリテマトーデスとSPTCLとの類似性が指摘されてきています。20~30%に血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome: HPS)を併発します。一般的にSPTCLの予後は良く、5年生存率は約80%で、HPSを合併しないものでは91%ですが、HPSを合併すると46%と予後不良となります。
【病理組織】
皮下脂肪織にリンパ腫細胞が浸潤し、真皮への浸潤はほぼ認めません。小型から中型の異型リンパ球が脂肪小葉内に浸潤するlobular panniculitisの像を示します。リンパ腫細胞が脂肪細胞を取り巻く”lace-like pattern”が有名ですが特異的ではありません。皮下脂肪織の壊死、核破壊像、組織球による赤血球や核破砕物の貪食像もみられます。
【免疫染色】
CD3, CD8, granzyme B陽性、TIA1陽性 CD4,CD56陰性
γδTリンパ腫を否定するためにβF1陽性を確認する
【その他の検査】
CT,PET-CTで他のリンパ腫と鑑別する。
HPSが疑われれば骨髄検査
【治療】
1)HPSがない場合
 予後は良好なので、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤など侵襲が少ない治療法が第一選択肢となります。
単発あるいは限局性では放射線療法も考慮されます。
2)HPS合併例
副腎皮質ステロイド剤の他に多剤併用化学療法も行われていますが、いずれも奏効率は低く、症例が少ないこともあり、いずれがよりよいか専門家でも意見に差異があり、これからの研究課題です。
【HPS】
HPSは骨髄、脾臓、リンパ節など網内系における活性化マクロファージによる自己血球の貪食を特徴とする疾患です。高熱、血球減少、凝固異常、肝障害などの症状を呈し、しばしば致死的な経過をとります。HPSは大きく一次性と二次性に分けられます。
一次性は遺伝性で家族性血球貪食性リンパ組織球症(familial hemophagocytic lymphohistiocytosis: FHL)、
免疫不全症候群(Griscelli症候群、Chediak-Higashi症候群、X連鎖リンパ増殖性疾患)があります。
二次性は反応性で、感染症関連、悪性腫瘍関連、自己免疫疾患関連、その他が含まれます。
一次性HPSでは、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞の機能に欠損があります。それで、TNF-α、IFN-γ、IL-1, IL-6, IL-18などの炎症性サイトカインが多量に産生され、サイトカイン・ストームを引き起こし、全身性炎症が起こります。
二次性HPSでは感染症関連(ウイルス、細菌関連)、悪性腫瘍関連(リンパ腫、その他の悪性腫瘍)、自己免疫関連、移植関連などがあります。
検査値異常としては、血球減少、凝固異常(PT,APTT延長、低フィブリノーゲン血症、FDP増加)、肝障害、高LDH血症、高トリグリセリド血症、高フェリチン血症、高可溶性IL2受容体(sIL-2R, sCD25)血症などがみられます。
【鑑別診断】
皮下脂肪織中心の浸潤で、従来はWeber-Christian病、cytophagic histiocytic panniculitisなどの炎症性皮下脂肪織炎とされてきました。これらの炎症性疾患、深在性エリテマトーデス、HPSでもリンパ腫を伴わないものとの鑑別が必要となります。その他各種の原因による脂肪織炎は鑑別の対象となります。原発性皮膚γδ細胞リンパ腫も従来は本症に含まれていましたが、細胞由来が異なり、予後、臨床型も異なることより、除外されました。γδ型は稀な型で一般に予後不良で、皮下型もありますが、MFに類似した臨床型を呈することもあり、多彩な臨床症状を示します。なお診断根拠は免疫染色で細胞表面での表現型からのものであり、TCR(T-cell receptor)遺伝子再構成はどのT細胞リンパ腫でもγ鎖陽性となり、それによっては診断できません。EBウイルス関連の節外性NK/T細胞リンパ腫での皮下浸潤型もあり鑑別を要します。

参考文献

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠 日皮会誌:130(6),1347-1423,2020(令和2) 

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2020
戸倉新樹 第23章 D 悪性リンパ腫とその類症 ①皮膚T細胞・NKリンパ腫 pp382-391

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎岩月啓氏 中山書店 東京 2012
大塚幹夫 29. 皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫(subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma) pp132-136

菅谷 誠 32. 原発性皮膚γδT細胞リンパ腫(primary cutaneous γδT-cell lymphoma) pp145-147

長谷哲男 42. 皮膚リンパ腫の鑑別疾患 pp179-185