Tyk2阻害薬 浦安皮膚臨床懇話会

 久しぶりに浦安皮膚臨床懇話会が現地開催されました。
 新型コロナウイルスが蔓延してから、現地開催は中止になり、講演会はすべてWEB開催となりました。そのコロナも5類に移行し、下火となり会員のハイブリッド開催の希望もあり、現地での講演会開催の運びとなったようです。主催者の高森教授、須賀教授らの御尽力に感謝です。
 当初はWEB講演は現地まで出向く必要はなく、自宅でくつろいで聴講できて、とても便利なツールだと思っていました。
確かにそういったメリットもありますが、長く続くうちにだらだらというか、まるでテレビを見ているように流してしまってどうも身につかない、講演会に参加しているという実感が湧かないままに終わってしまっていることが多くデメリットも感じるようになってきました。
 やはり現地に出向いて直接講師の講演を聴いたり、質疑応答に参加することは臨場感があり、緊張感もありました。
講演会が終わり、ブライトンホテルの22階の懇親会会場に出向き、外の立ち並ぶ高層ビル群の街明かりを見たとき、ああこの景色は何年ぶりだろう、と懐かしい感慨がありました。
 当日のテーマは今ホットなTYK2についてでした。
 
 「TYK2(Tyrosine kinase 2)はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーに属する非受容体型チロシンキナーゼの1種で、IL-23, IL-12及びI型INFなどのサイトカインの受容体に会合し、その下流の細胞内シグナル伝達を担っています。デュークラバシチニブは、TYK2のキナーゼドメイン内の触媒部位ではなく、機能制御部位であるシュードキナーゼドメイン(偽キナーゼドメイン)に結合し、分子内相互作用により立体構造を変化させ、ATPの触媒部位への結合を妨げることで酵素活性を阻害します(アロステリック阻害)。その結果、IL-23に誘導されるTh17及びTh22経路、IL-12に誘導されるTh1経路、I型IFNが関与する複数の免疫経路を誘導するなど、TK2が介在する炎症や免疫応答を抑制すると考えられます。」(ソーティクツ錠製造発売元のブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 資料より)
 ソーティクツ(デュークラバシチニブ)はこの度、新規に乾癬(尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症)への適応となった内服薬剤です。その薬剤の働き、作用機序が上記の説明ですが、専門的で何やらわけが判らないと思います。
 それをかみ砕いたのが、東京慈恵医科大学名誉教授の中川秀己先生の下記の説明で、これだと分かりやすいかもしれません。
 「乾癬患者さんでは、遺伝的な要因や環境の要因によって免疫が異常に活性化しています。免疫の異常には、複数のたんぱく質がかかわっていることが知られています。その結果、皮膚の細胞増殖が早まり、皮膚の角化や炎症、表面が剥がれ落ちる、といった症状があらわれます。
 ソーティクツは、TYK2というたんぱく質のはたらきを抑えることにより、TYK2がかかわる免疫反応を抑えることで乾癬の症状を改善すると考えられています。」
 
最初の講演は日本医大千葉北総病院の萩野哲平先生の50例以上の使用経験のお話でした。佐伯教授や神田教授など乾癬の専門家の薫陶を受けた若き新進気鋭の先生で、乾癬の生物学的製剤の使用経験は400例以上、ソーティクツの使用経験は50例以上(69例)で日本国内では最多の使用経験があるということです。
 使用経験から見えてきたものは、
 ・効果は即効性のケースもあるが、一般的には4~6週間で効きだし、16週から効果が伸びるので、最低2か月間は頑張ってみること。
 ・効果はヒュミラなど一部の生物学的製剤なみに効く。
 ・他のJAK阻害剤のような血球系の副作用もみられていない。特別な副作用は認められていない。
 ・IL-23製剤と同様に長期間有効性が持続する。
 ・以上の点を勘案すると、ソーティクツは外用剤、オテズラでも効かない人、注射薬の嫌いな人や高齢者には向いていると思われる。

 続く公演は、横浜市立大学の山口由衣教授の「乾癬慢性炎症とTyk2阻害の意義」という講演でした。先生は2021年に教授に就任されたばかりの新進気鋭の先生です。膠原病、乾癬が専門ということですが、免疫疾患全体の話を、autoinflammation, autoimmuneという観点から解説されました。前者はHLA-1に関連があり地中海熱、遺伝性周期熱症候群などが含まれ、後者はHLA2に関連がありエリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症などが含まれます。乾癬はベーチェット病などとともに両者の中間に位置するとのことです。なるほどそういう見方もあるのかと新鮮な驚きでした。
 また乾癬は近年皮膚だけではなく、メタボ、脂肪肝、心血管疾患などの全身性疾患、psoriatic diseaseとしてとらえていくという考え方が主流となってきていますが、そういう観点からの乾癬の病態を解説されました。
またご自身の専門の単球と乾癬での働き、乾癬性関節炎の話もされました。TYK2に関連しては、JAK-STATシグナル経路の抑制系SOCSにも類似したカベオリン(caveolin)が乾癬表皮内で低下しており、動物実験でカベオリンの補充によって乾癬が改善することを示されました。まだ実験段階ながら、このたんぱく質を短くして水溶性ペプチドにして、皮膚に浸透させれば乾癬にも効果が期待できるかもしれないという夢のある話もされました。
また最後にソーティクツを総括して、PASI90が6割程度で、治験段階での効果はなぜか日本人では高めであること、安全な薬剤ではあるが、ノックアウトマウスの実験でリンパ腫の発生率が上昇しているので悪性腫瘍には今後も注意を払う必要性があるだろうということ、オテズラからの切り替えでは効果にタイムラグがあるので工夫、注意が必要だろうということ、この薬剤のpost-Bioとしての可能性について、またPsA(乾癬性関節炎)への効果への期待についてなどを話されました。

久しぶりの対面での講演会は、素晴らしく、期待以上に充実したひと時でした。