粃糠疹とは

皮膚科の病名に粃糠疹という述語がよく使われます。長年使っていると自動的になり、あまり深く考えもしませんが、はて粃糠疹(米糠のような鱗屑)pityriasisとは何ぞや。今回は一寸掘り下げて考えてみたいと思います。
皮膚科の教科書を調べてみたら結構この語を冠した病名は多くあります。
◎pityriasis alba(=pityriasis simplex faciei) (単純性粃糠疹、はたけ)
・pityriasis circinata(Toyama)(連圏状粃糠疹)
・pityriasis lichenoides(苔癬状粃糠疹)
・pityriasis lichenoides chronica(慢性苔癬状粃糠疹)
・pityriasis lichenoides et varioliformis acuta(PLEVA)(急性痘瘡様苔癬状粃糠疹)
◎pityriasis rosea Gibert(ジベルバラ色粃糠疹)
・pityriasis rotunda(=pityriasis circinata)(正円形粃糠疹、連圏状粃糠疹)
・pityriasis rubra pilaris(毛孔性紅色粃糠疹)
◎pityriasis simplex faciei(単純性粃糠疹、はたけ)
◎pityriasis versicolor(癜風)
粃糠疹とは字句のごとくに、細かい粃糠(こめぬか)様の落屑のある状態のことをさします。
角化の異常や炎症性角化症でみられます。癜風だけは原因がマラセチア真菌によって生じますのでその他の疾患と一寸違った分野になるかと思われます。
上の◎は日常診療をしていて比較的に多くみられるものです。苔癬状粃糠疹も毛孔性紅色粃糠疹も重要な疾患ですが、そう滅多にはみません。
🔷単純性粃糠疹
小児の顔に生じるほぼ円形の粃糠様の落屑局面です。俗に”はたけ”。ごく軽いアトピー性皮膚炎の部分症状と考えられています。過度の日光浴、入浴などが誘因とされますが詳細は不明です。
どちらかというと色黒の小児に多く、冬季に多くみられます。鱗屑が消退した後もしばらく炎症後脱色素斑が続くこともあります。湿疹等の炎症後色素脱失、脱色素性母斑、貧血母斑、尋常性白斑などとの鑑別も必要です。
🔷ジベルバラ色粃糠疹
比較的日常的にみられる疾患です。
その特徴的な経過、皮疹のでき方から典型例では臨床診断は簡単です。
10~30歳前半の若い人にみられる体幹部に1,2cmの粃糠様の鱗屑をもった紅斑が多発する疾患です。
まず大型(2~4cm)の辺縁に襟飾り様の鱗屑を伴った紅斑(初発疹)が体幹部に1個ないし数個でき、それから数日~3週間以内に小型(1~2cm)の楕円形の紅斑落屑が体幹部に多発してきます。これを続発疹とよびます。
続発疹は初発疹より必ず小型で、その配列は皮膚の割線に長軸を合わせて出現するので、見た目がクリスマスツリー様の配列を呈します。かゆみは無いか、あっても軽度のことが多いです。皮疹はほぼ体幹部に限られていて、四肢ではあっても中枢部で末端までは及びません。1~3か月で自然に消退しますが、早く治すには一般的にステロイド外用剤、保湿剤などが用いられます。
その原因はよく解っていません。一部ではヘルペスウイルス群のHHV-6,7感染、再活性化が関与している、薬剤性に生じるともされていますが、明確なエビデンスはありません。

粃糠疹(米ぬかのようなパラパラ、ポロポロとした落屑、フケ)について臨床と病理組織を対比させて(皮膚科医にとって)とても分かりやすく解説した記事が近着のVisual Dermatologyに出ていましたのでその内容を書いてみます。ただ皮膚病理組織など聞いた事もないような一般の方にとっては、何を言っているのか却って分からなくなるかも知れませんのでこの項目はスルーしても結構です。

基本のPathology(病理)121 今山 修平 Visual Dermatology Vol.21 No.3 2022 p310-316

角層の異常 部分的な/とぎれとぎれの錯角化⇨粃糠疹 pityriasis

ヒトの表皮角化細胞は基底層➡有棘層➡顆粒層➡角層と分化していきます。細胞は次第に薄く扁平になっていきます。最下層から角層が脱落するまでをターンオーバーといいますが、およそ52~75日といわれています。
その間に
A.核を分解し
B.細胞質に、束ねたケラチン線維を張り巡らし、強靭な周辺体を合成して全周を包み
C.細胞接着のデスモゾームを修飾して外れやすくし
D.細胞外に、小器官(層板顆粒のセラミドなど)を放出して、隙間を脂質で埋め尽くす

 A.からD.が正常に進行することによって、正常の角化(正角化,orthokeratosis)が起こります。病理組織をHE標本でみると、角層は無核で均質に好酸性の薄く平たい細胞の重なりで、細胞の上下は、標本作成の脱水処置によって細胞間脂質D.が溶け出して空隙としてみられるためにカゴ編み(basket weave)状に見えます。
 翻って、A.からD.のどこかで角化の異常が起きると無いはずの核が残る錯角化(parakeratosisi)と呼ばれる異常が生じ、細胞間接着が外れにくくなり、有核の平たい角化細胞(HEでは核は青く染まる)が上下に密着したまま次第に厚くなります。
 この錯角化が病変の端から端まで連続して起きると尋常性乾癬のように厚い密着した角層が乾燥や外力などによって、ぺりぺり、バリバリと剥がれる、いわゆる鱗状、雲母様の落屑(葉状鱗屑,lamellar scale)となります。いわゆる厚い、かさぶたのようなフケです。
 これに対して、錯角化が狭い範囲に、一過性あるいは周期性に起きる病態では、錯角化は引き続いて起きる正角化のためにとぎれとぎれになります。とぎれとぎれの錯角化は直下の正角化の面で剥がれるので。それが繰り返されるたびに(数100~1000個と考えられる)密で小さな塊がパラパラ、ポロポロと落ちてこめぬかのような粃糠様鱗屑(pityaiatic scale)となります。それをきたす病態に粃糠疹pityriasisの名称が用いられます。
粃糠疹のなかでも上にあげた疾患の病理組織像に特徴的な違いがあります。
🔷pityriasis rubra pilaris(毛孔性紅色粃糠疹)
とぎれとぎれの錯角化を起こす疾患の代表とされます。水平方向かつ垂直方向に交互に錯角化と正角化が繰り返されるので市松模様(checkerboard pattern)と呼ばれることもあります。病初期は錯角化が毛孔から周囲に拡がる像もみられますが、時期、検査部位によりなかなか典型像がみられないこともあります。
🔷pityriasis lichenoides(苔癬状粃糠疹)
とぎれとぎれの錯角化がみられますが、表皮真皮接合面にさまざまな程度の空砲変性がみられ、(表皮真皮境界部皮膚炎interface dermatitis)が主体でリンパ性血管炎の像を呈します。急性型は細胞浸潤がより密で、空砲変性、真皮乳頭の浮腫、出血、密な細胞浸潤がみられます。慢性型との移行もみられることがあります。
🔷pityriasis rosea Gibert(ジベルバラ色粃糠疹)
餅を置いたような錯角化のマウンドがみられます。限局性の海綿状態(pityriasiform spongiosis)がみられ軽度の表皮内へのリンパ球浸潤がみられます。ときに僞ポートリエ微小膿瘍、花瓶状リンパ球浸潤を呈します。

みき先生とゆう子先生の皮膚病理診断ABC ⓸炎症性病変 著 泉 美貴  檜垣 祐子
上記本も参考にしました。