フケ症(脂漏性皮膚炎)

俗にいうフケ症のことを正式には脂漏性皮膚炎と呼びます。脂腺の活動が活発な時期(生後6ヶ月までの乳児期、思春期)で、脂腺の活動部位に一致してみられることから、皮脂分泌の亢進との関連が考えられていますが、真の病因は明らかではありません。
症状は特徴的で一見して明らかですが、新生児・乳児期と成人期では若干異なります。乳児例と成人例が果たして同一の疾患なのかとの議論もあります。特に乳児例では乳児湿疹、アトピー性皮膚炎、おむつ皮膚炎、ナプキン乾癬、間擦疹などが混在して脂漏性皮膚炎と診断されているケースもあります(典型例では診断は容易です。但し、似て非なる疾患も多く注意を要します。)
【病因】
先に述べたように、脂腺部位に、脂腺の活性亢進時期に生じる疾患であることから、皮脂分泌亢進との関連が考えられています。近年は皮膚常在菌のマラセチア真菌が症状の改善とともに減少すること、抗真菌薬が症状の改善につながることなどから、マラセチア属真菌の病因への関与が考えられてはいますが、発生機序への関与の度合については結論は得られていません。
【症状】
🔹新生児・乳児期
頭部、特に前頭部や額に赤みとカサカサした鱗屑、また時には黄白色の厚いカサブタ、痂皮(乳痂)がみられます。この皮疹が体幹に拡大することもあり、その場合は乳児期のアトピー性皮膚炎、乳児湿疹との区別は困難です。症状の経過や皮疹が脂漏部のみに限定するかなどが鑑別になるかと思われます。
🔹成人期
頭部のフケ、特に生え際の紅斑、米糠様の鱗屑を伴った紅斑がみられます。眉毛、鼻唇溝、外耳道にも同様の皮疹がよくみられます。時には腋窩、乳房下、陰股部などの脂漏部位にも生じることがあります。これらの際はカンジダ症などの真菌症を区別する必要があります。
脂漏性皮膚炎はパーキンソン病、痙攣、心不全、アルコール多飲、亜鉛欠乏、HIV感染者などでは発症頻度が高くなるとされます。
【鑑別診断】
部位からみて、診断はほぼ臨床診断になります。典型例では一見して臨床症状、分布などにより明らかですが、時には診断にまようこともあります。
乳児例ではアトピー性皮膚炎、乳児湿疹との区別が難しいケースがあります。長期持続例、体幹部へ症状が拡大する例ではアトピー性皮膚炎への移行、アトピー性皮膚炎そのものであることを念頭において対処する必要があります。
成人例では紅斑、鱗屑が厚い場合は(尋常性)乾癬との鑑別が難しいケースがあります。また頭部のフケでは毛染めなどの接触アレルギー(接触皮膚炎)との鑑別は特に重要です。
また稀ではありますが、乳幼児ではランゲルハンス細胞組織球症、各種アミノ酸、ビタミン、亜鉛欠乏症、成人では真菌症特にカンジダ症、ケルズス禿瘡、トンズランス感染症、HIV関連皮膚疾患、落葉状天疱瘡、皮膚筋炎なども皮膚科専門医としては念頭において置く必要はあります(皮膚科診断を極める 宇原 久 著 より)。
【治療】
一般的にはステロイド剤含有の軟膏、クリーム、ローションが有効です。但し、長期連用、特に顔面ではステロイド酒さなどの副作用を考慮すると長期では好ましくありません。抗真菌剤のケトコナゾールのクリーム、ローションなどが奏功する場合もあります。
乳児の厚い痂疲(乳痂)などでは、洗髪後に親水軟膏、亜鉛華軟膏をリント布に重曹塗布して数時間後にオリーブ油で痂皮を除去するやり方も有効です。
顔面の皮疹などに対しては適応外ながら、アトピー性皮膚炎に用いられるプロトピック、コレクチムなども奏功することもあります。(但し2歳以上)