静脈瘤・静脈性潰瘍の診断

下肢の潰瘍を見た場合にそれが、動脈性なのか、静脈性なのかまた血管炎やその他の原因なのかを見極めることは非常に重要です。最終的には血管造影やCT,MRIなどの高度な検査を要する場合もありますが、まずは目で見て簡単な理学的所見からある程度の推定はできます。
動脈性の血行障害による潰瘍では、四肢末端部にできることが多く、深い打ち抜き型をとる傾向があります。足背や下肢の動脈の拍動が手に触れにくくなり、足先は冷たくチアノーゼを生じたり、ひどくなれば赤紫色や黒くなり、壊疽を形成します。
一方、静脈性還流障害による潰瘍であれば、下腿の下1/3にみられることが多いです。痛みも少なく、比較的浅い潰瘍を形成します。
 ですから、典型的な静脈性潰瘍は下腿の下1/3の部分から足背に皮膚炎や脂肪織炎があり、ヘモジデリン沈着による色素沈着を伴います。潰瘍は形は不整形で比較的に浅く、これら皮疹部の上方に静脈瘤を認めます。ただ、穿通枝不全によるものでは静脈瘤ははっきり見えず、脂肪織炎のみのこともあるので注意が必要です。
 視診も重要ですが、静脈瘤の際の問診は下記の項目に注意が必要です。
*静脈うっ滞の左右差
*うっ滞の日内変動・・・浮腫は朝軽く、夕方強くなります。
*職業・・・長時間立ちっぱなしの職業や重いものを持つ職業はリスクファクターになります。調理師、理容師、教師などや工場現場仕事など。
*妊娠出産歴・・・第2子出産後の発症が多い。
*両親に静脈瘤のある人はなりやすい。
*手術、カテーテル検査を受けた人や鼠径ヘルニア、痔などの疾患のある人、整形外科、循環器系の病気、糖尿病、膠原病の人も注意を要します。
*抗血栓薬、ホルモン剤内服などにも注意が必要です。

【静脈瘤の分類】
1994年アメリカの学会で採択されたCEAP分類というのが一般に専門医の間では使われているそうです。専門的になりますが一応下に掲げてみます。
この中で臨床分類が重症度のもっとも簡単な指標として汎用されているそうです。

C:臨床分類(Clinical classification)をC0~C6まで軽いほうから重い方まで分ける
E:病因分類(Etiological classification)をEc, Ep, Es, Enに分ける
A:解剖学的分布(Anatomic classification)をAs, Ap, Ad, Anに分ける
P: 病態生理的分類(pathophysiologic classification)をPr, Po, Pr,o, Pnに分ける

C0:視診、触診で静脈瘤なし
C1:クモの巣状(径1mm以下)あるいは網目状(径3mm以下)の静脈瘤
C2:静脈瘤(立位で径3mm以上のもの)
C3:浮腫
C4:皮膚病変(C4a:色素沈着、湿疹  C4b:脂肪皮膚硬化、白色萎縮)
C5:潰瘍の既往
C6:活動性潰瘍

Ec:先天性静脈瘤  c: congenital
Ep: 一次性静脈瘤  p:primary
Es: 二次性静脈瘤  s:secondary
En: 病因不明静脈瘤 n:no venous cause identified

As: 表在静脈 s: superficial veins
Ap: 交通枝(穿通枝) p:perforating veins
Ad: 深部静脈 d:deep veins
An:静脈部位不明 n: no venous location identified

Pr: 逆流 r: reflux
Po:閉塞 o:obstruction
Pr,o: 逆流と閉塞 reflux and obstruction
Pn: 病態不明 :no venous pathophysiology identified

【検査】
いろいろな検査法がありますが、基本的に専門医が行うことなので参考程度に項目を羅列するのみに留めます。

*トレンデンブルグ検査・・・大・小伏在静脈と穿通枝の弁機能を調べる検査。
 寝たまま、下肢を挙上して大腿部にゴムを巻き、立位になって静脈瘤が再び目立ってくるかどうかをみる。
すぐに目立ってくる場合・・・不全交通枝がある。小伏在静脈瘤の逆流
目立たない場合・・・大伏在静脈瘤のみの弁不全

*ペルテス検査・・・深部静脈の開存と穿通枝の弁機能をみる検査。
立位のまま大腿部にゴムを巻く。そのまま足踏み運動をする。
静脈瘤が軽減・・・深部静脈は開存
不変・・・ゴム部より足側に不全交通枝あり
悪化・・・深部静脈は閉塞
但し、これらの検査は習熟が必要で、しかも結果が曖昧であるために、静脈瘤手術を行っている多くの医師はこれらを行っていないとのことです。(伊藤孝明)

*ドプラ聴診検査・・・超音波ドプラ聴診器で血流の状態を聴く。
下腿ミルキング法などで逆流性血流を生じさせ、静脈部にプローブを当て、その逆流音の有無を調べる。あれば静脈瘤。
ドプラ聴診については、下肢静脈瘤の専門家の兵庫医大の伊藤孝明先生のHP(http://itotak.m78.com/)にその詳細が記載されています。断ってはいないのですが、その実際がよく解るのでそのまま転載してみます。
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 ドプラ聴診器を用いて、血流の聴診を行う診察法です。私は、おそらく日本で一番、このドプラ聴診器を駆使して診察している皮膚科医だと思います ので、何をやっているのかを観て、聴いて下さい。
 私は普段2つのドプラ聴診器を用意して診察しています。
 1つは、もう随分古い製品ですが、聴診専用の製品で感度と音質が良好です。
 もう1つは、感度・音質は並ですが、血流の方向を検知して液晶に表示できる製品です。
 どちらも「hadeco」ブランド、川崎市の林電気製です。

 立位静止位での、下肢の表在静脈のドプラ聴診による血流音は、「全く何も聴こえない」のが正常です。下腿~足部の静脈還流は、9割は深部静脈を 介して心臓に戻るので、表在静脈は、「ほぼ流れていない」のが正常なのです。
 表在静脈の走行が判りにくいときは、膝近くにゼリーをたっぷり付けたドプラプローブを保持して(皮膚を圧迫してはいけない)、下腿部末梢を揉み ながら(ミルキング法)聴診して静脈の位置を確認します。
 その下腿末梢を圧迫した時に、膝付近の表在静脈を心臓向きに流れる音を聴取するのは当たり前ですが、患者さんが静止している限り、何も聴こえな いのが正常です。
 一方、1次性下肢静脈瘤では、大伏在型静脈瘤では大伏在静脈とその分枝で、小伏在型静脈瘤では小伏在静脈とその分枝で、下腿末梢部の圧迫を解除 した時に、逆流音が「ザー」と聴けるので、これが聴けると表在静脈の弁不全と診断できるのです。
 実際には、まずはじめに、検者が下腿末梢部を圧迫しますから、「ザッ」(用手的上向音)が聴こえて、圧迫を解除すると「ザーー」(弁不全による 逆流音) と逆流音がきこえたら、その静脈の弁不全で、多くの場合1次性静脈瘤です。しかし慢性期の2次性静脈瘤でも深部静脈の再疎通や深部静脈周囲に側副 血行路が 発達した場合では、同様に聴こえます。
 次に、患者さんに腹圧をかけてもらいます(バルサルバ法)。腹圧をかけるだけでさらに逆流音が聴ける場合は、静脈弁不全が高度と判断できます。
 さらにドプラ聴診器のプローブをそのまま保持して、腹圧を解除してもらいます。この腹圧の解除で、深部静脈が良好に開存している場合は、何も聞 こえませ んが、深部静脈の流れが悪い場合は、小さく「サー」と上向音が聴こえます。これが上向音か逆流音かが判らない場合があり、血流方向検知型のドプラ 聴診器で 確認します。
 ただし、前述のドプラ聴診で、何も聴こえず、かつ伏在静脈をよく触診でき、その下肢全体が腫脹している場合は、急性期の深部静脈血栓症 (DVT)を疑っ て、緊急造影CT検査を行うべきですが、緊急CTの連絡をしながら、血液検査でD-dimer、CRP、WBCと、造影しますのでBUNとCRN を調べ て、時間があれば下肢静脈エコー検査も行います。この場合は下肢の広範囲のDVTのことがあり、緊急入院の準備も必要です。
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*下肢静脈造影検査・・・主に深部静脈の開存を調べる方法。

*下肢造影CT検査・・・上枝静脈から造影剤を注入、下肢の静脈相でCTまたは3DCT像を撮る。

*下肢カラードプラエコー検査・・・より精密、確実な超音波検査法。逆流部位、時間、拡張した静脈径の大きさをみていける。逆流が赤く描出。

診断に最も重要な検査法だそうです。但し、検査技師・医師の技量により検査精度に大きな差が出るそうです。血管診療認定技師という制度があるそうです。

*下肢MRI静脈撮影・・・MRIを用いて下肢静脈を非侵襲的に撮影できる。ただし、下肢に浮腫があると良好な結果は出ない。また心臓ペースメーカー装着、金属がある場合は撮影は禁忌。

*下腿静脈脈波検査・・・下腿静脈の還流機能を体位変換や運動、駆血などで調べる方法。

*ABI/ABPI
Ankle Brachial Pressure Index 足関節上腕血圧比。後脛骨動脈や足背動脈の血圧と上肢の血圧を測定します。下肢血圧/上肢血圧比をとり、その値で評価します。
正常値は1.0~1.4 0.9以下は異常で下肢動脈の狭窄(閉塞)が疑われます。また逆に1.3以上の場合は動脈壁の石灰化が疑われます。