乳房外パジェット病

乳房外Paget(パジェット)病は高齢者の外陰部、腋窩、まれに臍部に紅色から淡褐色の斑状病変として始まり、最初は表皮内腺癌ですが、進行するとリンパ節、内臓などに転移することもあります。細胞の由来は不明ですが、アポクリン汗器官の細胞由来と考えられています。
10万人当たり0.28人/年と比較的稀な皮膚悪性腫瘍ですが、外陰部という部位や湿疹に似た症状から進行するまで放置されることもある癌で、手遅れになることもあり、逆に早期発見では完治も期待でき、その存在を知っておくことは重要です。
【症状】
日本、韓国、中国では男性に多く、欧米では女性に多いとされます。また発症頻度も欧米に比較して本邦は多いとのことです。
(白人は人口10万人当たり0.13人/年)。本邦では皮膚悪性腫瘍の10%前後を占めています。本邦で女性の割合が少ない原因としては陰部発症のため羞恥心から病院へ受診しない可能性が推察されています。
発生部位は、アポクリン汗腺が多く存在する部位に生じやすく、外陰部が最も多く、次いで腋窩、肛囲となります。
乳房外パジェット病は原発性と二次性に分けられることがあります。
二次性とは、肛門管癌、直腸癌、膀胱癌、子宮癌などの内臓悪性腫瘍が外陰部皮膚に波及して恰もパジェット病と類似の臨床像、病理像を呈するもので厳密には別疾患ですが、その類似性から二次性パジェット病(現象)と呼ばれます。
臨床症状は早期から境界不明瞭な紅斑局面として現れ、境界辺縁に脱色素斑を伴うのが特徴です。欧米の教本では境界は明瞭と書かれていますが、本邦では外陰部の色素が濃く、蒸れたり、外用剤などのかぶれ、カンジダの感染が混じたりして浸軟、不明瞭になることが多いとされます。臨床症状も湿疹様でさらに痒みを伴うことも多いために、湿疹として治療されていることもあります。進行してくると、びらん、痂皮を伴い、浸潤、硬結、結節を形成し、リンパ節転移さらに内臓転移、まれに脳転移を起こすこともあります。「パンツ型紅斑」と呼ばれる病態は癌性リンパ管炎を生じたもので予後不良の兆候とされます。
 また、乳房外、という疾患があるからには、乳房パジェット病という疾患があるわけです。そもそも乳房パジェット病とはイギリスの外科医James Pagetが1874年に乳房に湿疹様の紅斑落屑、びらん、痂皮があり、その後乳癌が生じてくる病態に対して名付けたものがこの病気の始まりです。Pagetは当初、皮膚の症状は癌とは認識していませんでしたが、病理組織で見ると、表皮には癌細胞があり、その深部の乳管、乳腺には乳癌がみられます。すなわちこれは乳癌が皮膚に浸潤した状態で乳癌の一型ということが分かりました。その後に、程なくして外陰部、腋窩などにPaget病と似たような症状、病理所見をみる疾患がみられ、イギリスのCrockerはこれを乳房外Paget病と名付けました。すなわち、両者とも名称はPaget病ですが、乳房Paget病と乳房外paget病は別の疾患ということになります。
【鑑別診断】
・湿疹・・・紅斑、落屑など似たような皮疹であり、かゆみもあるので酷似し、皮膚科でも湿疹として経過をみられている例もあります。慢性湿疹では苔癬化を伴うこと、また脱色素斑は伴わない事、などの違いはありますが、湿疹の治療に反応しない場合、長期に続く場合は皮膚生検によって鑑別する必要性があります。
・カンジダ症・・・カンジダ性間擦疹の場合は両陰股部に紅斑をみることが多く、浸軟、びらん、膿疱を認めることもあります。真菌鏡検で胞子、仮性菌糸を認めます。
・硬化性萎縮性苔癬・・・外陰部、肛門周囲に萎縮性の白色局面を生じます。びらん、紅斑、水疱などを生じ、また痒み、痛みを伴うこともあります。女性では陰部、肛門周囲に症状がみられるので8の字型になるのが特徴とされます。
・外陰部乾癬、扁平苔癬も鑑別を要する場合がありますが、それぞれの特徴的な皮疹、その他の部位の所見などで鑑別されます。
【病理】
表皮内に大型の明澄な細胞質を持つ異型細胞(paget細胞)がみられます。この細胞の由来は正確にはまだ不明です。アポクリン腺由来との説が主体ですが、毛への関連もあり、毛器官由来との説もあります。増殖様式は6種類あり、散在型、基底または基底直上部型、胞巣形成型、増殖型、混合型、蕾形成型にわけられます。
乳房Paget病の原発性、二次性の病理組織の違いは免疫組織化学的に区別されます。すなわち前者ではGCDFP15陽性、CK20陰性で後者ではその逆になります。
【病期分類】
欧米ではこの疾患が少ないこともあり、病期分類はありません。本邦では独自にTNM分類を提唱しています。T分類が表皮内癌、真皮内への微小浸潤、結節性の浸潤癌と3分類されています。N分類は片側または両側所属リンパ節転移を分けており、両側はStageIVで予後不良です。
【治療】
1~3cmの切除マージンをとった広範囲切除が基本です。術前に入浴、剃毛と適切な軟膏処置を行い、紅斑だけではなく低色素斑も病巣であることを認識することによって腫瘍境界はより明確にできるようになります。そうするとマッピング生検の必要性も低くなってきます。(村田洋三先生)
リンパ節転移があればリンパ節廓清術、更には放射線療法、進行期になればドタセタキセルなどの薬物療法などが行われていますが、現時点では確立された薬物療法はまだありません。

参考文献

皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版
乳房外パジェット病診療ガイドライン2021  日皮会誌:131(2),225-144,2021

JDA eSchool 乳房外Paget病 村田 洋三

第121回総会 教育講演36 乳房外パジェット病 持田 耕介

皮膚癌の初期症状