今日は千葉市医師会学術講演会で、皮膚外科のエキスパートの虎ノ門病院大原國章先生の講演がありました。対象が、医師会員全体なので皮膚癌の分かり易い、噛み砕いたお話で非常にためになりました。
「皮膚癌の初期症状~放置すればこうなる~」という演題でした。
代表的な皮膚癌を例示して丁寧に解説して下さいました。皮膚科医向けではないのでかえって皆に分かり易い話でした。本当に分かっている人はシンプルな話ができるものなのです。(小生がまとめを書くと却って分かりにくくなりそうで心配です。)
1. 悪性黒色腫(MM: malignant melanoma)
メラノサイトの癌です。癌とはいっても以前はmelanosarcoma肉腫とよばれていました。メラノサイトは表皮基底層に存在します。一般に’黒子の癌’と呼ばれますが、ほくろが癌になるわけではありません。当初から癌なのですが、ほくろと見分けがつきにくいのです。ただ、巨大な黒子からはメラノーマが発生します。
MMは皮膚以外にもできます。鼻腔、口腔内、眼瞼、陰部などの粘膜など。
その特徴は大きさ、形の不整、色の濃淡、多彩さ、などにあります。米国ではABCD基準としてチェックポイントがあげられています。(2012年11月9日の当ブログ参照)
黒子やしみ様のものが、不整に拡大し、中に色抜けしたり、ピンクや白色、赤、青色などを呈し、結節ができていくのが一般のコースです。
一般にMMは足が速く、すぐに転移し亡くなってしまう怖い病気とされますが、表皮内に留まってシミの段階でいる限り意外と数年は平気という場合もあります。例えば高齢者の顔にできるシミのようなlentigo maligna melanoma(悪性黒子型)では5~10年かけてゆっくり進行する例もあります。
MMは年寄りばかりではなく、若い人にもできます。中学生の大腿部の結節、受験のため様子見、20歳の娘さんの陰部のしみ、恥ずかしくて様子見、いずれも手遅れで亡くなった症例の呈示がありました。不安だったら迷わず皮膚科を受診することです。爪の黒色斑がある病院で良性といわれたものが、数年で拡大しMMだった例、口唇の斑が以前の病理検査で良性といわれたため、初診時MMを疑われたものの、以前の検査の結果を思ってか治療を拒否し、2年後には頸にまで転移し治療不可能だった例などの呈示もありました。
症状が進行したら、以前の経緯はどうであれ早めに皮膚科受診が肝要だということです。
最近はダーモスコピーの普及でMMの診断の精度がぐんと上がりました。いろいろな鑑別点はありますが、指紋、掌紋の色素で、皮溝に一致していれば良性、皮丘に一致していれば悪性と原則的には分けられます。
2.有棘細胞癌(SCC:squamous cell carcinoma)
表皮細胞そのものの癌です。表皮細胞にはデスモゾームという棘様の器官があり、隣の細胞が棘どうしで接着しています(細胞間橋)。それで表皮の細胞のことを有棘細胞と呼びます。局所破壊性に進行しますが、早晩リンパ行性、血行性に転移します。
紅斑、潰瘍、隆起結節を作りますが、表面は角化や痂皮を伴い、異臭(癌臭)を発します。盛り上がる場合と、深い潰瘍を作ってえぐれる場合がありますが、後者の方が予後は悪いです。
SCCには前癌症や前駆病変を伴います。以前は熱傷瘢痕からのものが多く見られました。褥瘡や慢性骨髄炎からのものもありますので、慢性の難治性の潰瘍には注意が必要です。それ以外に放射線治療後や、化学発ガン物質やいくつかの特別な疾患からの発生もあります。しかし、最近増えているのが中高年の顔など露光部に紫外線の影響でできる日光角化症由来のものです。(当ブログ2月3日 日光角化症の最新情報参照)
一般に日光角化症由来のSCCは比較的たちが良いといわれていますが、もちろん放置していると転移することもあります。
この癌でも、若い頃やけどをして40歳で膝上に潰瘍ができ、皮膚科で検査してその時は非特異的な肉芽腫という病理診断だったのが2年後に再来した時はSCCで鼠径部にも転移していたという例とか、某大学で顔のケラトアカントーマ(KA)と診断されたものが2年後には顔のSCCとなっていた例などの呈示もありました。(ちなみに以前千葉大での経験を書いたことがありますが、KAとSCCの鑑別は非常に難しいです。小生の経験したものはこの場合と真逆で、顔の巨大なカリフラワーのような腫瘤が自然に消えていきました。)
SCCでもそうですが、ある時点での病理、臨床診断は必ずしもその先のことを予知していないので、何か変だったり、悪化したら何ヶ月も放置しないで再受診することが必要と感じました。
3. 基底細胞癌(BCC:basal cell carcinoma)
悪性のハマルトーマ(過誤腫)で基底細胞に似た形態の細胞の増殖です。悪性度は前2者に比べると低く、局所破壊性ですが、転移は稀です。高齢者の顔に多発し、特にシワの部分、眼、鼻、耳の周囲によくできます。中央部が潰瘍を形成して、縁取りが隆起して表面は平滑で光沢があります。色は白人、色白の人は皮膚色、紅色ですが、どこかに黒色、灰黒色がみられます。触るとしこりを触れます。
ひげ剃り後の傷が治らない、ほくろをいじって傷が治らないなどの症状で受診することも多いですが、癌との自覚もなく、シワに隠れて見つけにくく、特に耳後部などは医師、家族に指摘されて初めて気づくことも多いそうです。
4.Paget(パジェット)病
高齢者の外陰部にできるアポクリン汗腺の表皮内癌として発症します。初期は淡紅色から褐色調の斑状の病変として始まるので診断は難しいです。病理組織像をみるとムチンを含んだ明るいPaget細胞が増殖し、管腔構造がみられます。
肛門周囲、腋窩にもできます。しばらくするとただれ、じくじく、痂皮(かさぶた)などを生じるようになります。症状が湿疹、たむし(頑癬)、外陰部カンジダ症に非常に良く似ているために病院にかかっていても発見が遅れることがしばしばあります。病変が表皮内に留まっているうちは手術で完治できますが、さらに進行して浸潤、硬結、結節を作るようになるとリンパ節転移をおこし、さらに血行性、リンパ行性に全身転移を起こせば予後は不良で、半年から1年で死に至ります。
高齢者の外陰部のなかなか治らないただれは要注意ということです。
当日は綺麗な写真、素晴らしい手術写真などを見せていただき、専門医でない医師にも皮膚癌の見方がわかるように懇切丁寧に講義していただきました。
機会があれば、一般の市民の皆様にもみてもらえば非常に役にたち、癌予防の意識向上にもなると思える講義でした。
MM,SCC,BCCについて参考までに写真を載せてみました。
但し、これは皮膚癌の初期症状ではなく、ほっておくとこうなります、というような進行した例ですが。
paget病については陰部でもあり適当な写真がみあたりませんでした。陰部から股にかけての赤み、湿疹様の変化(紅斑・鱗屑・小水疱・痂皮)の中にただれ(糜爛)、腫瘤がみられれば要注意です。
BCC
MM1
MM2
SCC