粉瘤

粉瘤(Atheroma,アテローム)はソラマメ~鶏卵大の皮内~皮下嚢腫で、全身どこにでもできますが、特に顔面、頚部、胸背部に好発します。
ごくありふれた疾患で、外来でも日常的にみられる、いわゆるcommon diseaseですが、結構奥深い疾患です。粉瘤自体もいろいろありますし、似て非なる疾患も多くあり、これが時として怖い疾患だったりします。ありふれた疾患だと安直に対応すると大変な思いをすることもあります。いわゆる地雷を踏む、というような話をときに聞きます。

教科書を紐解くと、割と簡単に記載されていることが多いです。
粉瘤は表皮嚢腫と外毛根鞘嚢腫に分けられ、前者は表皮あるいは毛包漏斗部から、後者は毛包峡部から発生すると考えられていますが、表皮嚢腫が圧倒的に多いです。
粉瘤は表皮毛包から発生するために、手で触り揺すると、表面にくっついていて、下の方(下床)とは可動性で、腫瘤全体が手の中で動きます。稗粒腫、面皰はごく小さいために粉瘤のような腫瘤形成はしませんが、成り立ちとしては同類です。
見た目は表面は皮膚常色か淡い青色をしていて、中央に面皰のような黒点があり、押すとここから臭い匂いのする黄白色の粥状物質がでてくることもあります。これは皮膚表皮からなる壁からでた角化物質が元になります。時に炎症(壁が破れて真皮内に流出した角質ケラチンは強い異物性反応、急性炎症を引き起こす)、二次感染を起こすと赤く腫れあがり、痛みを伴います。こうなると内容物質が粥状になり、ときに化膿して膿がたまり波動を触れます。
【診断】
触診が最も大切です。指でつまんで、皮膚にくっついて、下床と動く感じ、硬さは弾性軟ですが、炎症を起こし粥状になっていれば波動を触れます。視診で腫瘤の中央に面皰様の開口部を認めれば更に確立が高くなります。視診と触診で大よその診断はつきますが、皮膚エコー検査によって更に診断の精度はあがります。典型例では内部エコーは低エコーで、腫瘤側方の陰影、後方エコーの増強がみられます。またカラードプラ像では嚢腫内に血流はみられません。ただ、炎症性粉瘤で壁が破壊され、周囲に肉芽組織が形成されると、上記のような典型像を呈さないこともあります。     
【特殊型】
・たまに母斑(ほくろ)を伴っている場合があります。
・陰嚢に多発する粉瘤はしばしば石灰化を伴います。
・頭部にできるものは毛包峡部から発生したもので、被髪頭部に常色でわずかに隆起した数cmの硬い嚢腫を形成します。外毛根鞘嚢腫とよび、ケラトヒアリン顆粒の形成なしに角化する外毛根鞘性角化(trichilemmal keratinization)の形をとります。
・悪性化・・・ごくまれに粉瘤が悪性化することがあります。上記の外毛根鞘嚢腫と中高年の臀部からのものがみられます。
・外傷性表皮嚢腫・・・足底(たまに手掌)に生じる角質嚢腫。足底には毛包はありませんが、外傷による表皮成分の皮内への埋入が成因とされてきました。しかしヒト乳頭腫ウイルス(Human Papillomavirus: HPV)による表皮の陥入と乳頭腫増殖が原因になっていることも多いとされます。
【治療】
基本的には腫瘤摘出術です。嚢腫壁が破れていない場合は、綺麗に袋ごと摘出できることが多いですが、すでに壁が破綻して、内容物が周囲にもれ、肉芽組織や線維化、瘢痕を形成している場合は袋だけを綺麗に取り除くだけではなく、周囲組織も大きく切除する必要があることもあります。炎症性粉瘤では切開排膿を行い、二期的に切除します。
小型(径3cm以内)のものでは、4mmパンチ(トレパン)によるくり抜き法を行う場合もあります。
【鑑別を要するもの・頭頚部・顔】
一見粉瘤と思われても、似て非なる腫瘍、疾患も多くあります。
・外毛根鞘嚢腫
・石灰化上皮腫
・皮様嚢腫
・外歯瘻
・鰓性嚢腫(先天性耳前部嚢腫、側頚嚢腫、正中頚嚢腫)
・耳介僞嚢腫
・耳下腺腫瘍
・帽状腱膜下脂肪腫
・霰粒腫
・せつ
・(悪性)リンパ腫
・血管腫
・皮膚付属器腫瘍(毛包系、脂腺系、汗腺系)
要するに皮膚の下(皮内、皮下)は直視できないので、内部に血管、内部臓器との交通の有無、悪性腫瘍なども隠れていることも想定して、無神経に穿刺、切開するなということでしょう。特に頭、顔、頚部では脳外科、眼科、耳鼻科、歯科関連の炎症、腫瘍性疾患が多くありますので注意を要します。近年皮膚科領域でも用いられるようになってきた皮膚エコー検査はダーモスコピーと相俟って非侵襲的に外来でできる有用なツールだと思われます。