接触皮膚炎

2020年度日本皮膚科学会研修講習会 ー必須(冬)ー
接触皮膚炎
東邦大学医学部皮膚科学講座 関東 裕美

1)接触皮膚炎の定義と分類
接触した物質によって起こされる皮膚炎のことで一般的には「かぶれ」とよばれる。
発症に免疫が関与するかしないかによって非免疫性(刺激性)と免疫性(アレルギー性)に分けられる。
*急性刺激性接触皮膚炎・・・熱傷様皮膚炎となる。
*慢性刺激性接触皮膚炎・・・バリア機能が低下した状態では外界からの刺激が続き、慢性型となる。
*アレルギー性接触皮膚炎・・・経表皮的に侵入した抗原に対し、ランゲルハンス細胞をはじめとした皮膚の樹状細胞が抗原呈示細胞(antigen presenting cell:APC)として働き、T細胞を刺激することにより細胞性免疫反応が起こり発症する。
一般的にハプテンと呼ばれる低分子化学物質が生体蛋白質と結合して抗原性を発揮し自然免疫系の活性化が起こる。
ハプテンはAPCに補足されて炎症性サイトカイン産生を誘導する。これらがAPCのリンパ節への遊走、成熟を促し感作が成立する。
一旦感作が成立すると再現性のあるアレルギー性接触皮膚炎が成立する。再度抗原に晒されると抗原特異的エフェクターT細胞が活性化され(惹起相)皮膚炎が生じる。
*接触物質と紫外線が関与する場合もあり、ここでも免疫が関与しない、光毒性と免疫が関与する光アレルギー性の接触皮膚炎がある。
*接触蕁麻疹・・・接触皮膚炎の多くは遅延型アレルギー(Ⅳ型アレルギー)であるが、即時型アレルギー(Ⅰ型アレルギー)が関与することもある。接触蕁麻疹は接触部位に蕁麻疹を生じるが同時に慢性の湿疹病変を呈することがあり、職業性などでは診断、治療に苦慮する。免疫が関与しないケースもある。
*空気伝搬性接触皮膚炎・・・スギ花粉皮膚炎やチャドクガ皮膚炎などのように空中に浮遊する花粉や虫の鱗粉、有機溶剤、土埃に飛散する抗原などとの接触による。アレルギー性と非アレルギー性がある。
*全身性・・・上記は局所型であるが全身性に及ぶケースもある。
・接触皮膚炎症候群・・・アレルゲンが特定されずに局所で生じていた接触皮膚炎が全身に拡大したもの、職業性、ヘアダイなど。
・全身性接触皮膚炎・・・局所で感作され、皮膚炎を生じていたものが皮膚以外の場所から吸収されて全身性に播種、中毒疹を生じる場合、例えば抗菌薬など。
*特殊病型・・・色素沈着型、多形紅斑様、紫斑型、苔癬型、リンパ腫様など

2)診断のための検査
即時型アレルギー・・・プリックテスト
症例によってはアナフィラキシーを誘発することもある。可能性がある場合では静脈確保の上、救急対応ができる体制をあらかじめ準備して行う。
前腕屈側に抗原液を1滴垂らし、その上を垂直にプリック用ランセットで軽く刺す
穿刺15~20分後に判定
膨疹2倍…………………………………………. 4+ 陽性
陽性コントロール(二塩酸ヒスタミン液)と同等…………… 3+ 陽性
膨疹1/2倍……………………………………….. 2+ 陽性
それ以下…………………………………………. 1+ 陰性
陰性コントロール(生理食塩水)と同等………………….. 陰性
(紅斑ではなく、膨疹の長軸、短軸平均径を計測する)
抗原液がない時は食物(果物)をランセットで穿刺して、それを皮膚に穿刺する
prick to prick test

遅延型アレルギー・・・パッチテスト
専用のパッチテストユニットにアレルゲンを乗せて背中に2日間(48時間)貼付して除去後除去後判定を行う。現在は本邦のスタンダードアレルゲンが24種類ついているパッチテストパネルも利用できる(試料がやや高額)。日用品、植物、医薬品、化粧品など皮膚に直接つけられるものはそのまま閉鎖使用、洗浄製品は100倍希釈する。化学薬品、有機溶剤、整髪料、制汗剤などは塗布のみのオープンテストを行う。
判定は72時間と7日後も確認をする。ステロイド剤や金など遅れて陽性を呈するものもある。光パッチテストでは1系列を1/2MEDを24時間後に照射する。光アレルギーでは作用波長はUVAのことが多いが場合によってはUVBも検討する。

3)鑑別疾患
*アトピー性皮膚炎
バリア機能低下で接触皮膚炎のリスクも高く、いずれも湿疹性変化であり鑑別に苦慮することがある。日常生活、職業性などアレルゲンの関与を考えて積極的にパッチテストをする必要性がある。
*金属アレルギー
製品の劣化、摩耗により汗で含有成分が溶け出し感作をしうる。ニッケル・金の陽性率が高いので社会全体への啓蒙、注意喚起が必要である。金属アレルギーの関与が指摘されている疾患として掌蹠膿疱症、亜急性痒疹、異汗性湿疹、多形慢性痒疹、扁平苔癬、紅皮症、貨幣状湿疹、仮性アトピー性皮膚炎などがある。
繰り返しの感作により全身型金属アレルギーが生じることがある。この場合必ずしもパッチテストで陽性とならないこともあり、金属含有食品(チョコレート、ナッツ、貝など)の食事負荷試験で判定する。歯科金属アレルギーで口内炎、口唇炎が生じることもある。
*酒さ
顔面の熱感を伴う紅斑、火照りを主訴とするが難治性で紫外線、化粧が刺激になり胃、肝障害、自律神経の関与で増悪軽快を繰り返す。症状軽減のためにステロイド外用剤を行い、ステロイド皮膚炎、ステロイド酒さを生じているケースもある。積極的にパッチテストを行い、更に増悪因子を把握、軽減すること、また紫外線など皮膚防御目的での遮光化粧品の必要性も重要。

4)治療の考え方と実際
外因性皮膚反応である接触皮膚炎は原因物質を確認しそれを除去することが最大の治療であり、それに成功すれば完治し得る。
ただ原因が解明できても、日常生活や職業柄完全に除去が困難な場合もあるまた金属アレルギーなどは食品など身の回りに多くあり、完全に除去できない場合も多い。職業性では産業医との連携で配置転換などで治癒する例もあるが、小規模事業など必ずしも回避できない場合もある。
時代により新たな物質による接触皮膚炎は現れてくるが、皮膚科医は社会啓発、できる限りの原因物質確認、除去に努めることが求められている。

接触皮膚炎は時代によって、また生活様式の変化によってその原因も大きく変わっていきます。またその発症機序など基礎的な事も科学、医学の進歩とともに新たな知見が生まれてきています。
その全貌を見渡すことなど土台無理ですが、次回聞き及んだ話題をポチポチとアトランダムに書いてみたいと思います。