天疱瘡診療ガイドラインの内容を基に調べてみました。
【治療指針】
早期診断の必要性、初期治療の重要性を認識することが肝要。
治療は導入期と維持期に分け、方針をたてる。
🔷導入期
病勢を制御でき新生水疱ができなくなり、ステロイドを減量することができるようになるまでの治療初期、通常はおよそ2~4週間。
病勢の評価は主に臨床症状によって行うが、それにはPDAI(Pemphigus Disease Area Index)による評価が有用である。血中IgGは半減期が約3週間あるため、値と症状にずれがある。
初期治療の第一選択薬はプレドニゾロンで重症、中等症では1.0mg/kg/日で、軽症では0.5mg/kg/日で開始することが標準投与量である。2週間経過をみて、効果不十分なら免疫抑制剤、大量γグロブリン療法、(大量IVIG療法)、血漿交換療法、ステロイドパルス療法などを考慮する。
投与に先立って、また投与中も糖尿病、高血圧、消化管潰瘍、感染症などの合併症の検索を十分に行う必要がある。
外用局所療法としては、水疱、びらん面には抗生剤含有軟膏、ステロイド軟膏を塗布する。粘膜部のケアも怠らない。
🔷維持期
プレドニゾロン0.2mg/kg/日またはPSL10mg/日以下を目指す。
臨床的に水疱、びらんを認めなくなってからは血清抗体価(デスモグレインELISA index値)を参考指標にする。
ステロイドの減量は前期(PSL1mg~0.4mg/kg/日またはPSL60~20mg/日)では1~2週で10~5mg/日の減量を目安にする。後期(PSL0.4mg/kg/日またはPSL20mg/日以下)では1~2か月で3~1mg/日の減量を目安にする。
🔷再燃(再発)
月に3個以上の新生病変があり、かつ1週間以上続く場合、または既存病変が拡大する場合と定義される。外用療法で対処できる場合もあるが、なお水疱、びらんが続く場合はステロイド投与量の25~50%, 1.5~2.0倍の増量を考慮する。または他の治療法の併用療法も考慮する。
【難治例に対する治療】
標準治療指針に従っても、軽快しない一群がある。その際はステロイド剤に加え上述したような様々な薬剤、治療法の併用、新規療法が行われている。
🔷治療導入期
標準治療を開始して2週間たってもコントロール不良な場合は追加治療が必要である。
併用療法について、どの薬剤をどのような順番、組み合わせで使うかについては現在エビデンスに基づいた結論は出ていない。治療施設で慣れたもの、使用できる薬剤などを勘案して施行されているようである。ただ、免疫抑制剤のなかではアザチオプリンが推奨度Bとされて他剤(多くはC1評価)よりやや抜きんでている。重症例ではステロイドパルス療法、血漿交換療法、シクロフォスファミドパルス療法などが検討されうる。各薬剤にはそれぞれの副作用があり、使用禁忌もあるので注意して使用する。
🔷治療維持期
時にPSLを減量して10~20mg/日程度になってから再発したり治療効果が進まない例がある。このようなケースでは単にステロイド量を1.5~2倍程度に増量しても治療に難渋する場合がある。その際はIVIGまたはその他の併用療法、新規の治療を考慮する。
🔷将来的な治療
天疱瘡は自己免疫疾患なので、免疫を抑える治療が行われる。
ステロイド剤はあまねく全ての細胞に作用して効果も大だが、その分副作用も大である。免疫抑制剤は標的は免疫関連細胞に絞られてくるがなおターゲットは広すぎる。
自己抗体の上流に位置するB細胞をターゲットにした抗CD20抗体療法が欧米では行われている。CD20はB細胞表面のみに特異的に発現されている分子である。リツキシマブはヒト/マウスキメラ型のモノクローナル抗CD20抗体である。2002年頃より欧州で検討が始まり有効性が確立し、2018年米国でも認可された。本邦でも治験が行われ保険適応への動きが進んでいるとのことである。
さらに将来はターゲットをもっと絞り込み、デスモグレイン(Dsg3)特異的な免疫療法、B細胞をターゲットにしたDsg3 CAART療法、T細胞をターゲットにしたDsg3特異的Treg療法も検討されている。
その他にDsgの接着障害を標的としたり、細胞内シグナルを標的としたり、炎症性のサイトカインを抑えたりなどなど天疱瘡の病態から種々の試みがなされているとのことですが、まだ研究段階のようです。
参考文献
天疱瘡診療ガイドライン 天疱瘡診療ガイドライン作成委員会(委員長 天谷雅行)
日皮会誌 120(7):1443-1460,2010
山上 淳 自己免疫性水疱症 難治例への対処 治療抵抗性の天疱瘡への対処
日皮会誌 129:2735-2740,2019
古賀浩嗣 自己免疫性水疱症 難治例への対処 天疱瘡の病態機序と新規治療法
日皮会誌 129:2741-2747,2019