皮膚科光線療法推進の会セミナー

今年も皮膚科光線療法推進の会主催セミナーがありました。第4回の今回は、乾癬、掌蹠膿疱症の光線療法についてのセミナーでした。4名の専門の先生方によるそれぞれ異なる紫外線照射器による治療報告がありました。
小林里美先生(聖母病院)は局所型TARNABを、新谷洋一先生( シンタニ皮フ科)は半身型ダブリン紫外線治療器を、橋本喜夫先生( JA旭川厚生病院)はターゲット型エキシマライトセラビームを、外川八栄先生( 千葉大学 )はターゲット型エキシマライトVTRAC紫外線照射器を使った治療報告をされました。
それぞれに治療に難渋する疾患ですが、さすが熟練の技を披瀝されました。当院でもダブリン型、VTRACを使用していますので興味深くとても参考になりました。ただなかなか上手く治療効果の上がらないケースも多く、一寸したコツ、選ぶ症例、やり方の巧拙などもあるのかと思いました。当日の講演内容からの要点を。
【光線療法の参考になる点】
🔷各機器の特性(2016.6月2日の記事を再掲)
*VTRACは輝度(照射率)の高いのが特徴で、光線の深達度が深い、短時間で照射できるなどの利点がある一方、周辺健常部への色素沈着が目立つ傾向がある。最大パワーは4500mJと通常ナローバンドUVB照射機の180倍の強さがある。
*ターナブは小型で取り回し易いが、照射に時間がかかる。
*セラビームはエキシマフィルターによって、紅斑の生じやすい短波長側をカットする光学フィルターを付属しているが、ヘッドが大きいために取り回しにくい傾向がある。最近、ハンディータイプのセラビームミニも発売された。
以上の様な点から爪の病変に対してはVTRACは効果が高く、他の機器では低い傾向にあります。但し明確な効果をみた臨床試験はまだないそうです。今後外用剤との比較試験が必要とのことです。
TARNAB,セラビームは紅斑反応をカットするフィルターを備えているために、余計な紅斑、色素沈着反応がでにくいようです。ただ紅斑反応が出にくいために強く当てすぎて光ケブネル現象を起こすことがないように注意が必要です。
🔷光線療法の効果は体幹部とりわけ背部から現れ、最後まで残るのが下肢です。全身型のナローバンドUVBで治療し、残った部分をターゲット型エキシマライトで治療するやり方も一歩進んだテクニックです。
🔷照射回数は、入院の場合は週4,5回でも可能ですが、外来では週1,2回が現実的です。講演の先生方も大方そのようにされていました。照射エネルギーは機器の種類によっても、照射部位によっても異なります。厳密にはまず初めにMED(最少紅斑量)を測定し、その7割程度から開始し、反応の程度を見ながら10~20%ずつ増量していきます。(尋常性白斑ガイドライン)。ただそれぞれの機器に習熟した先生が適量から漸増していくのが良いようです。照射量は個人個人で異なり、また皮膚の状態によっても異なりますが、掌蹠膿疱症ではセラビームだと800~900mJでも良いケースもあります。
🔷掌蹠膿疱症に対しては、まず病巣感染や自己免疫性甲状腺炎などの原因検索と治療が前提として重要です。その先での光線療法は全身性の副作用を伴わず有効です。ただ強力なステロイド剤外用剤で薄くなった皮膚では光線療法は余計ヒリヒリしたり火傷することもありうるので、そういった場合はむしろ弱いステロイド剤やワセリン、亜鉛華軟膏などでラップ療法を行なって皮膚萎縮の回復を待ってから照射するのも一法です。
膿疱にはステロイド剤よりもむしろビタミンD3製剤がよく、針で潰してその部分だけ外用するのが良いです。
🔷小児に対しての使用ガイドラインは乾癬、白斑により、10歳、16歳以上が推奨されていますが、年齢による明確な使用ガイドラインは今後の課題です。白斑や掌蹠膿疱症に対し、小児に使用する先生もありますが、光発ガンなどのリスクを十分に説明した上で期間限定で使用するのが妥当と話されていました。
🔷副作用
急性期では火傷、光ケブネル現象などによる病状の悪化などがあり、慢性期では光発ガンがあります。そのために回数が450回、トータルの照射量が1000ジュールまでとされています。ただし、これはPUVA療法から類推されるもので、ナローバンドUVBでは使用経験年数がそれ程長くないので、今後の検討課題といえます。
長年光線療法を行なった患者さんに免疫抑制剤などの治療を行なった場合などは発癌に格段の注意が必要です。
紫外線療法では汗孔角化症が生じることもあることを知っておくことは重要です。その際には早めに中止することが必要です。
【深紫外線LEDの開発】
今回の講演では第1部で理化学研究所の平山秀樹先生の「深紫外線LEDの開発」という講演がありました。
基礎研究の話で難しく、ごく一部しか理解できませんでしたが、先年日本人がノーベル賞をとったあのLEDの研究の部類といえば皆なんとなくピンとくるかもしれません。
ただし、波長が200~350nmの深紫外線LEDの開発の話でした。殺菌、浄水、空気清浄、LED照明、樹脂加工、印刷、塗装、接着、環境破壊物質の高速分解処置などの幅広い応用分野に期待されているそうです。話はもっぱらUVC領域でしたが、UVB領域の皮膚治療などの医療分野でも今後期待できるとのことでした。
実用化できれば、省エネルギー、小型化、劣化しない、自由に波長を選択できる夢の機器ができるそうです。
もっとも凄いと思ったのが、アメリカとの開発競争の話でした。向こうは軍事産業を見据えて、国の補助金が日本より2桁多いそうです。それをはね返して、世界一の発光効率を叩き出しているのが、理研の窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)半導体をベースとした高効率・高出力・深紫外線LEDだそうです。
日進月歩で発光効率が上昇しつつあり、将来は水銀ランプに置き換わる勢いのようです。
日本のこの分野の素晴らしさを垣間見ることができ、一寸興奮しました。皮膚科の分野でもこのLEDの機器が導入される期待感を抱かせる話でした。