セツキシマブと牛肉アレルギー

セツキシマブ(アービタックス)は抗ヒト/マウスキメラ型EGFRモノクローナル抗体です。頭頸部癌、EGFR陽性の治癒切除不能な進行性、再発結腸、直腸癌に用いられます。通常成人には週1回、初回は400mg/m2(体表面積)を2時間かけて、2回目以降は250mg/m2(体表面積)を1時間かけて点滴します。
セツキシマブの可変部(Fab部分)の30%はマウス由来で残りはヒト由来です。
セツキシマブにはたまにアナフィラキシーが起きるのですが、その原因が、Fab部分のα-galという物質にあり、それはまた、牛肉成分、マダニの成分にも共通して存在するということが分かってきたそうです。
アメリカ東南部地方にこれらが多く見られたことから明らかにされたそうですが、日本でも島根大学のグループの研究で島根でのマダニによる日本紅斑熱、牛肉アレルギー、セツキシマブの関連性が明らかになってきたそうです。
ことは、セツキシマブという聞きなれない薬だけの話ではなく、牛肉、豚肉アレルギー、魚卵アレルギー、マダニ咬傷という身近な話に拡がってきたようです。そこでその話題を紹介したいと思います。

2008年、米国東南部でセツキシマブによるアナフィラキシーが多くみられ、その原因がセツキシマブのFab部分のgalactose-α-1,3-galactose(α-gal)に対する抗糖鎖IgE抗体によることが解明されました(Chung)。現地では住民の20%が抗体陽性だったそうです。
牛肉摂取後3〜6時間後に生じる遅発性蕁麻疹、アナフィラキシーがセツキシマブのアナフィラキシーが多い地域と合致していること、牛肉アレルギーの原因もα-galであることが判明しました(Commins)。
これは牛肉だけではなく、豚肉、などの哺乳類(四つ足)の肉、カレイ魚卵とも交差アレルギーを生じることがわかってきました。
これらの情報を受け、島根大学ではセツキシマブ使用予定の患者さんについて調査をして同様の結果を見出しました。
すなわち、セツキシマブでショックを起こした患者さんのうち、牛肉アレルギーが1名、牛肉アレルギー特異的IgE抗体陽性が4名でした。要するに全例で陽性というわけではなかったそうです。
しかし、ウシサイログロブリンを抗原としたα-gal特異的IgE抗体(CAP-FEIA法)やウエスタンブロット法では全例陽性にでました。事前にこれらの検査を行うことで、セツキシマブを使用予定の患者さんのアナフィラキシーを予知、予防することが可能となってきたそうです。
マダニについてはロッキー山紅斑熱は、キララマダニがリケッチャを媒介して発症するのですが、マダニの消化管にα-galが存在することが証明されたそうです。そして、マダニの咬傷とともに、α-galのIgE抗体価が上昇していたそうです。
島根大学では日本紅斑熱を媒介するフタトゲマダニを調べ、その唾液腺にα-galが存在することを突きとめたとのことです。

牛肉や豚肉のアレルギーがマダニ咬傷と関連しているなんて驚きでした。
お茶石鹸や、アニサキスアレルギー、花粉症や口腔アレルギーなど食物アレルギーの複雑さ、奥深さを考えさせられる話題でした。

参考文献

千貫 祐子 ほか. セツキシマブによるアナフィラキシーの予知予防. 日皮会誌:124(13),3090-3092,2014