東京支部総会–血管炎

日本皮膚科学会東京支部学術大会がありました。
今年は日本医大の川名誠司教授が会長です。先生は血管炎の専門家で、学会は2月16日、17日の2日に亘って、血管炎や下肢の循環障害をメインテーマに据えた、一寸マニアックな学会でした。
実は、下肢の血管病変による皮膚の病気はかなり多く、日常の外来でも毎日のようにみるものです。若い頃、ベルリンの国際皮膚科学会にいった帰りに助教授について、ハイデルベルグ大学を訪問したことがありました。そこで、ドイツの皮膚科事情を知ったのですが、古く有名な皮膚科のせいかもせれませんが、皮膚科の病棟は入院ベッドを何十床も持っていました。そして、一番多い病気が下腿潰瘍だったのです。
ドイツ人は体重の重い人が多いためかもと思っていましたが、日本でも食生活の西洋化や高齢化なども相まってか、年ごとに下腿の皮膚のトラブルを抱えた患者さんが増えてきているようです。
下肢、足の血管病変はひどくなれば、潰瘍、壊疽となって足切断などという重篤な経過を辿ることもあります。原因も多彩で皮膚科だけの対応ではどうにもなりません。
例えば閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obriterans)の臨床症状はⅠ度からⅣ度に分けられ、Ⅰ度は無症状、Ⅳ度は潰瘍・壊死とされます。Ⅱ度だと間欠性跛行、Ⅲ度だと虚血性安静時疼痛が生じます。ただ、Ⅰ度の無症状期こそ皮膚科医の出番だということです。患者さんはいろいろな皮膚病で皮膚科を受診しますが、足をみて、水虫が悪化したり、皮膚に傷が出来やすかったり、触った時の皮膚温が冷たかったり、脈が弱かったりとⅠ度の無症状期でも早期に発見出来得るのは皮膚科医ならではというのです。ASOで下肢切断に至ると、その予後は肺癌の予後よりも悪いとのことでした。早期発見、早期治療が重要ということです。
足の小さな赤い斑点だけでも、膠原病や細菌性心内膜炎やコレステロール結晶塞栓症などを疑うことができるのも皮膚科医の強みです。(ただ、知識として知っていても確定診断はとても難しそうですが)
治療は内科、血管外科、整形外科、形成外科などのチーム医療が必要ですが、初期病変を早期に見つけ出し、各専門医と連携を取ることが皮膚科医の役目かと認識させられました。(この項、壽順久先生)
沢田泰之先生は都立墨東病院で下肢の血管病変を精力的にみている先生ですが、外科の出身だけあって一般皮膚科を越えた治療も行っています。そのグループの大久保佳子先生の静脈性循環障害による皮膚症状の講演は分かり易いものでした。皮膚科では静脈性の循環障害をみることが最も多く、下肢静脈瘤、血栓性静脈炎、深部静脈血栓症をレビューしていただきました。
西山茂夫先生は、川名教授の北里大学時代の上司ですが、血管炎の大家で血栓症・塞栓症の数々(血管炎と似ていて非なる疾患)を面白く見せていただきました。
陳科榮先生の病理の講演も目からうろこでした。「血管炎の診断は洋の東西を問わず、間違いやすい、Leverの教本のこの写真も、Rookの教本のこの写真も間違いです。これは壊死性動脈炎ではありません、静脈です。」エエー、と絶句してしまいました。LeverやRookの本は金科玉条のように信じてきた本だったからです。
石河晃先生の感染に伴う血管炎も見たこともないものでした。心臓疾患があり、感染性心内膜炎や、敗血症からくる電撃性紫斑病など、名前は血管炎でも感染の治療や集学的をしないと大変なことになる病気をみせてもらいました。
光嶋勲先生のスーパーマイクロサージャリーの講演は昨年の日皮総会でも見聞きしましたが、すばらしいものでした。下肢切断を留まる最後の砦です。患者さんがどうしても切断したくない、長年の治らない傷を何とかしたい、という切実な願いをかなえてきた先生の手術は正に神業のようなものでした。0.5mm以下の血管、リンパ管吻合は箸を持つ文化の日本人にしかできず、以前は長いこと欧米の雑誌からはインチキ、トリックだろう、と信じてもらえなかったということです。真実とわかった現在は全世界を講習会で飛び回っているということです。
下肢の血管炎、循環障害をめぐる病気は多岐にわたり、診断も治療もとても難しいものですが、これを機会に遅ればせながら勉強を、と思い川名誠司先生、陳科榮先生共著の「皮膚血管炎」を購入しました。
(肝心の血管炎の分類のこと、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、Henoch-Schonlein紫斑病、皮膚アレルギー性血管炎、リベドのことなどあえて何も触れていませんが、よく分からないのでパスしました。)

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