爪白癬の新しい外用薬

昨日は千葉県皮膚科医会の講演会がありました。「感染経路に基づく白癬治療と爪白癬治療の新しい展開」という演題で、講師は埼玉県済生会川口総合病院皮膚科の加藤卓朗先生でした。
このところ爪の疾患について書いてきましたが、実はこれらの爪疾患をみるときに常に考えておくべきなのは真菌感染症がないかどうかということです。
当日は真菌感染症全体とともに、新たに発売になった日本初の爪白癬の外用薬クレナフィンについての講演でした。

皮膚眞菌症については過去に当ブログ、ホームページに書きましたのでそれも参照して下さい。
2011.4.3 水虫 4.21 爪水虫内服 4.30 カンジダ症 5.5 マラセチア感染症 5.14 スポロトリコーシス
6.8 クロモミコーシス
(思えば当初はホームページの「皮膚疾患解説」を重点的に書いていたのですが、その後ブログの方のみになってしまい、すっかりホームページの方はご無沙汰になってしまっています。計画性のなさをさらけ出した感じです。)

今回の講演の内容で重点となると思われる部分をピックアップしてみます。

*癜風(Malassezia furfur)菌はヒトの常在菌で皮脂の多い所に多くみられますが、普通の真菌培養では増殖せず、オリーブ油重層で増えてきます。しかし、胞子形しかみられません。生体では毛包周囲では胞子形で開口部分では菌糸形となり癜風を発病してきます。これを避けるように外用療法を行います。
*カンジダ症では、日和見感染症として全身免疫低下を考慮する必要があります。特に舌カンジダ症を見たときは以下のことを念頭におくことが必要です。多い順に、ステロイド剤内服、膠原病、悪性腫瘍、糖尿病などです。(HIV感染症などは免疫不全の最たるものでしょうが、例数が少ないのでここにはでていませんが)
*カンジダ性指間びらん症・・・一般的に水仕事の多い主婦に多いと成書にありますが、その他の上記などの全身的な要因も考慮したほうが良いとのことでした。
*浅在性皮膚真菌症にはカンジダ症、マラセチア感染症(癜風)などがあり、稀なものでは黒癬、アスペルギルス症などもありますが、圧倒的に多いのが皮膚糸状菌症(白癬ーいわゆる水虫)です。その原因菌は白癬菌(Trichophyton)、小胞子菌(Microsporum)、表皮菌(Epidermophyton)の3属に大別されます。
*Microsporum gypseum・・・好土壌菌で、なかなか治らない外傷ではこの菌が関係していることもあります。たまには頭皮の毛に寄生するケルズス禿瘡(とくそう)の原因菌になることもあります。(多いのはMicrosporum canis, Trichophyton tonsurans)。培養すると白、または黄白色になります。
*Microsporum canis・・・好獣性菌で、ペットのネコやイヌから感染することが多いです。ペットを抱っこした部分にできることが多いです。またケルズス禿瘡の原因菌にもなります。培養すると菌糸は放射状に伸び、綿毛状、羊毛状になります。
*Trichophyton rubrum・・・好人性菌で足白癬の多くを占めます。この菌とTrichophyton mentagrophytes(好獣性菌)で99%を占めるそうです。
*加藤先生はフットプレス法といって、足を乗せられる大きさの真菌培養板を用いて、各地のいろいろな場所での真菌の検出率を検討されています。それによると銭湯や旅館、健康ランドなどでの足拭きマットでは多くに検出されるとのことです。ただ、足に菌が付着することと発病することは別だとのことです。自分の足で実験してみたところ24時間もすれば検出できなくなるそうです。足拭きマットの後で靴下を履く前に再度足を拭くことで付着率は随分減少するそうです。日本のように多くの場所で裸足になる機会がある環境では菌の付着を防ぐことは容易ではありませんが、乾燥させて蒸れないようにする、清潔にしておくことで予防効果はアップするとのことです。ただ、洗いすぎて足などに細かい傷をつけることは逆効果になりますので注意を要します。清潔にした上で蒸れない素材の5本指の靴下をはくのが良いそうです。
*足白癬、爪白癬は靴の中での高温、多湿の環境が大きな発症因子となり、工業国など長時間靴を履き続ける環境は真菌にとっては発育に好都合です。逆に付着しても低温で乾燥した状態では発症は少ないそうです。
*室内などの水虫から落ちた皮(鱗屑)中の真菌はなんと半年以上も生息するそうです。ですから普段のお掃除は大切ですし、家族内に水虫の人がいれば同時に治療する必要があるということです。
*爪白癬・・・足白癬が先行するのが普通です。正確な頻度は不明ですが、Japan Foot Week研究会の調査では人口の約20%が足白癬に罹り、その45%に爪白癬がみられたとのことです。欧米、アジアでの調査もほぼ同様の成績とのことです。高齢になるにつれて頻度は高くなります。T. rubrumが85%程度、T.mentagrophytesが15%程度だそうです。(東 禹彦)
*爪白癬の治療・・・内服薬が原則です。テルビナフィン250mg連日6ヶ月内服、イトラコナゾールパルス療法(1日400mgを1週間内服、それを1ヶ月ごとに3クール施行する)が行われています。日本ではテルビナフィンの使用量は125mgとなっていますが、加藤先生によると、治験中の成績で両者の治癒率に大差がなかったことと、当時治験薬剤などで副作用がいろいろ問題になった時期でもあったことが関係しているようです。
内服は有効で、治療法も簡単という長所もありますが、また逆に使用禁忌があること、副作用のリスクがあること、高価なことなどの欠点もあります。また高齢者はいろいろな薬をすでに飲んでおり、さらに飲むことへの抵抗感も大きいようです。
ここにきて、日本で初めて爪白癬に適用のある外用剤クレナフィンが発売になりました。1g中にエフィナコナゾール100mgを含む外用液でハケと一体型のボトルになっています。
これはケラチンとの親和性が低く、爪甲での透過性に優れているために爪の下層の(爪床)の白癬菌をも殺菌するというものです。効果の程度はこれからの評価に待たなければなりませんが、内服できない患者さんにとって朗報であることにはまちがいないでしょう。当院でも使い始めてからの患者さんの反応は従来の外用剤と比べて比較的良いようです。

【爪白癬の治療での要点】
・まず、何よりも真菌症であることを確かめること、乾癬、掌蹠膿胞症、鉤彎爪、扁平苔癬、爪異栄養症など白癬でない疾患での爪異常は多数あります。
・内服薬剤が原則、テルビナフィン250mg内服のほうがイトラコナゾールパルス療法より成績が良い(Robertsら、 東 禹彦 著書より)
・白癬菌以外ではテルビナフィンは無効なので、イトラコナゾールにきりかえる。
・楔型に混濁している爪白癬は白癬菌腫(dermatophytoma)を形成して、白癬菌が胞子になっている可能性が高い。休眠中の胞子の場合はMICは1000倍にもなっているそうで、薬剤は効かない。このような場合はグラインダーやヤスリなどでその部分を削りとる。
・外用薬の浸透を高めるためにいろいろな工夫が考案されています。
重層法・・・抗真菌剤に尿素軟膏やサリチル酸、ビタミンD3軟膏などを重ねて塗り、爪を軟化させます。
密封療法(ODT療法)・・・上記薬剤をラップで包むやり方です。
爪削り術・・・ヤスリやドリルで削る、穴をあける方法です。テクニックが難しく、面倒ですが慣れれば100円ショップの手回しドリルなどでも上手に穴をあけている人もいます。
・レーザー療法・・・先日の学会で順天堂浦安病院の須賀先生はエルビウムヤグレーザーでの有効例を呈示されていました。

参考文献

皮膚科臨床アセット 4 皮膚眞菌症を究める
総編集◎古江増隆  専門編集◎望月 隆 中山書店 2011

東 禹彦 爪 基礎から臨床まで 金原出版 第7版 2013

表在型爪白癬 表在性白色型爪白癬(superficial white onychomycosis :SWO)

全爪型爪白癬 深在型白色型?爪白癬(proximal subungual onychomycosis : PSO)

遠位爪白癬 遠位部および側縁部爪甲下爪白癬(distal-lateral subungual onychomycosis : DLSO)

全爪型爪白癬2全爪型爪白癬(total dystrophic onychomycosis : TDO)

爪白癬図 爪白癬の感染経路  東 禹彦著 爪 基礎から臨床まで p117 より

爪乾癬 爪乾癬(psoriasis)  見た目では爪白癬と区別がつかないケースもあります。真菌検査が重要なことがわかります。

鉤わん症 鉤彎爪