新型コロナの不安に答える 宮坂昌之 著

新型コロナウイルスの蔓延は相変わらず続いていますが、さすがに3年目にはいるともう、慣れっこになったか、報道も感染状況を淡々と知らせるだけで、一時のパニック的なセンセーショナルな報道はなくなってきました。あるいは自分自身の受け取り方が麻痺しかかっているせいでそう感じるのかもしれません。
ただ、仔細にみると相変わらず、高い感染状況で、死者も一定数積み重なっていてとても危機を脱したとは思われません。
現状認識、将来の予想も専門家ごとに言うことが一律ではなくて、時には正反対の意見を聞くこともあり、何が本当で、何がフェイクなのかさっぱり分かりません。
様々な情報が洪水のように押し寄せる中で、専門家の中でも免疫学の大家でウイルス学に造詣の深い宮坂昌之先生の近着の本を読んでみました。科学的で事実に裏打ちされた情報を基にした解説はこの混沌とした状況のなかで最も信頼のおけるものの一つと思われます。その骨子を抜き出してみました。ただ、一部の引用が全体の言わんとする内容からずれていることを危惧しますが、興味を持たれた方は原典に当たってみて下さい。

以下は本の帯のキャッチコピーです。≪ ≫は本文中から小生が抜粋した著者のコメントです。
最新科学データで「フェイク」を論破!

【ウソ】オミクロンにはワクチンはまったく効かない
【ホント】追加接種で重症化リスクを下げられる
≪追加≫中和抗体活性は確かに低く、時間と共に低下しますが、それ以外の多様な抗体があり、またT細胞の活性化もあり重症化を防ぐ効果はかなり有効であることがわかっています。さらに追加接種で有効率は大きく回復し、感染の広がりを阻止する効果があります。

【ウソ】自然感染すれば、二度とコロナにかからない
【ホント】自然感染しても得られる免疫は弱くて短い
≪追加≫新型コロナウイルスは変異株が多く、自然免疫にしてもワクチン接種でも免疫は長く続きません。一度感染するとしばらくは感染しませんが、数か月たつと再感染のリスクは高まります。また自然免疫の感染予防効果はワクチンよりも低いです。一時的に集団免疫はできますが、長続きしないはずです。全員がコロナに罹ればもう新型コロナは終息というわけにはいかないはずです。これは終生免疫を持つ、破傷風や風疹や麻疹(はしか)、ジフテリアなどとは異なる点です。

【ウソ】ワクチン接種が原因で死亡者が急増中
【ホント】そのようなエビデンスはない
≪追加≫ワクチン接種後の死亡例の報告はあります。中には明らかな副作用とされるものもあります。しかしながらほとんどのケースはワクチン副作用と症状の因果関係が認められないもの、評価できないものとされます。たとえば高齢者で癌や心臓病や糖尿病を患っている人の死亡は判断がつかない「灰色判定」になってしまいます。心筋梗塞、動脈瘤破裂、脳出血などの突然死は一定数あるので大人数の統計的なビッグデータを用いないと分かりません。これらのデータの解析で米国のCDCは2021年6月時点で「死亡事例とmRNAワクチン接種には明らかな因果関係はない」と評価しています。ただ、これらの評価は予断を持たずこれからも続けていく必要性があるのは当然です。

【ウソ】ワクチンを接種すると不妊症・流産になる
【ホント】むしろワクチンを打たないほうが危険
≪追加≫一時、ワクチン接種で、不妊・流産が増えるとの噂が広がりましたが、実際にはこのようなことはないことが統計上明らかにされています。スコットランドの18000人の妊婦での調査では、ワクチン接種を受けていない方が感染し易く、重症化率も死亡率も高いことが明らかにされました。また米国の約87万人の妊婦の調査ではワクチン済みの妊婦の方が、コロナ感染による死亡率が約15倍少なく、早産も約22倍少ないことが示されました。

≪おまけ≫
Q:デルタを制圧した日本で第6波の感染爆発はなぜ起きた?
A:海外諸国に出遅れた日本が第5波を制圧できたのは、東京オリンピック・パラリンピックに向けて政府が国を挙げて接種を推進したことが大きいでしょう。短期間に集中的にワクチンの接種率が上がり、集団内での感染伝播を抑えたと考えられます。ドイツ、イギリスの研究でワクチン接種群と未接種群での伝播率に有意差があることが報告されています。さらに日本ではマスク、手洗い、3密を避けるなどの社会的対策が諸外国に比してしっかりしていたことも急速な制圧の要因と考えられます。
では、なぜ第6波の感染爆発は食い止められなかったのでしょうか。
海外からのオミクロン株が国内に入ってきたのは2022年1月でした。この時期はデルタ株が終息した気の緩みもあり、また年末・年始・成人式などで人出が多くなったことが重なりました。また多くの人が2回目ワクチン接種を終えた8月から丁度6ヶ月たち、予防効果が減弱した時期でもありました。さらにデルタではなくオミクロン株では予防効果はずっと下回りブレイク・スルー感染も起きてしまいました。これらが重なり、土砂降り的な感染爆発となったと思われます。

Q:3回目の追加接種は本当に必要?
A:新型コロナウイルスワクチンの予防効果は数か月単位で減弱してきますので、追加の接種をする必要があります。変異が入り易いウイルスはワクチンの予防効果は短く、メモリーT細胞の数、持続期間も短いとされます。ただし追加接種による抗体、T細胞などによるブースター効果ははっきりしています。更には重症化予防効果はさらに高いことが分かっています。かりにブレイクスルー感染が起こっても重症化、入院のリスクは大きく減らせます(80~90%) 。但しオミクロン株に対しては高齢者と持病がある人以外は3回目の追加接種は焦らなくてもよいと思われます。感染予防対策、行動をしっかり行うことはワクチンと共に重要です。この先も新たな変異株が出てくる可能性はありますが、継続的なワクチン接種は必要かと思われます。ただ追加接種によって、強い免疫効果(ブースター効果)がでてくるので、以前より間隔を開けて、少ない量での接種でもよいかと思われます。

Q:追加接種の副反応と最適なワクチンの組み合わせは?
A:副反応で頻度の高いのは接種部位の痛み、腫れ、発熱、筋肉痛、寒気などです。残念ながら欧米人より日本人の方が副作用の頻度、強さは高くなる傾向があります。モデルナ製のほうがファイザー製よりも副作用は強くでる傾向があります。モデルナ製は含まれるmRNAの量も多く抗体量の産生も多く、現在の4分の1量でも効果があるとのことです。3回目のワクチンは前回と異なるワクチン接種、すなわち交差接種の方が抗体価はあがるとのことです。ただ若年者の男性ではモデルナ製で若干の心筋炎のリスク上昇があるとされています。

Q:爆発的に感染拡大したインドで流行が抑えられたのはなぜ?
A:インドでは4000万人以上が感染するなど、アメリカに次ぐ感染状況でしたが、ワクチン接種率が低いわりに昨年後半にはほぼ感染は収束しました。その時点で感染者の非常に多かったニューデリーではなんと97%の人が抗体陽性になっていました。すなわち一時的に集団免疫が成立したと考えられます。ただ、年末以降は新規感染者が急増しています。すなわち自然免疫による集団免疫は一時的といえます。

Q:ワクチン接種率が非常に低いアフリカで感染が少ないのはなぜ?
A:ワクチン接種率は非常に低いのに、アフリカ諸国の人口100万人当たりの感染者数、死者数は欧米、日本よりはるかに下回っています。考えられる要因の一つは人口構成です。アフリカ諸国は若年者が多く、高齢者は非常に少ないです。すなわち重症化する高齢者が非常に少ないといえます。また若年者は感染しても軽症ですむことが多く、それらが一部統計上見過ごされているのではないかと思われます。高齢者にも感染が広がり始め、これから増えてくるかもしれません。その傾向はチュニジア、リビア、モロッコ、南アフリカ、エジプトでみえつつあるそうです。

Q:どうしてオミクロン株に対する改良型ワクチンがすぐにでてこないのか?
A:新型コロナウイルスのように変異しやすいウイルスは通常一定期間しか流行せず、また新たな変異ウイルスが出現する可能性があります。多額の開発費用と労力をかけて開発し、大規模臨床試験を行っても、もう別のウイルス蔓延に移行しているかもしれません。それで個別の株に対する改良型ワクチンの開発は企業としてはリスクが大きすぎます。