皮膚結核(真正皮膚結核)

 かつては国民病として恐れられた結核も、国の予防や治療の取り組みで激減してきました。しかし1980年代になって都市化の影響やかつて高蔓延時代に感染した人々が高齢化し、免疫力の低下や他の疾患なども加味され発病するようになったために、結核の罹患率低下は鈍化してきました。日本は先進国のなかでは中蔓延国からやっと低蔓延国に入ったとの位置づけです。(人口10万人あたり9.2/2021年)
 現在では世の中の結核への関心の低下、高齢者の感染の増加、外国出身者や若者の患者数の増加、HIVなどは、感染者数の低下を阻む要因とされ、なお結核への監視が必要とされています。皮膚結核は全結核の3~4%とされます。(Rookの教本による、但し、国、調査によって差が大きい。日本では年間100名程度、全結核は年間10000名程度)
 結核の分類は、近年では病巣からの結核菌の検出、感染様式によって大きく4つに分類されます。
1)外部からの感染
・・・皮膚初感染徴候、皮膚疣状結核
2)内部の結核病変から皮膚への連続的散布(直接浸潤)・自己接種
・・・皮膚腺病、冷膿瘍
3)皮膚以外の結核からの血行性散布
・・・尋常性狼瘡、皮膚粟粒結核、転移性結核膿瘍(Metastatic tuberculous abscess:MTA)
4)結核疹
・・・Bazin硬結性紅斑、腺病性苔癬、丘疹壊疽性結核疹、陰茎結核疹

1)2)3)が真正皮膚結核で4)は結核菌に対する免疫反応で生じる病型で原則病巣には結核菌は認めませんので、別項で取り上げます。

🔷皮膚初感染徴候
結核に免疫のない人の皮膚初感染。顔、四肢に多く見られます。感染後2週で結節を作り、潰瘍、瘢痕治癒します。ツベルクリン試験は感染後3-8週で陽性化します。
🔷皮膚疣状結核
結核に免疫のある人に主に外来性に結核菌が接種されて生じます。数個の硬い紅褐色丘疹が融合、拡大して疣状になり、紅暈を伴い、次第に中央が治癒傾向や瘢痕化し周囲は疣状、堤防状に隆起してきます。外傷を受けやすい四肢や臀部などに好発します。解剖に従事する技師や臨床検査技師からの報告が見られるそうです。頑癬や深在性真菌症、疣贅などとの鑑別を要します。
🔷皮膚腺病
リンパ節・骨・関節・筋肉・腱などの結核病変が直接連続性に皮膚に波及して生じたものです。健常皮膚の皮下に無痛性の硬結を生じ、増大軟化して膿瘍を形成します。これは痛みや発赤や熱感などの急性炎症症状を伴わないので冷膿瘍(cold abscess)と呼ばれます。内部病変から直接または冷膿瘍を介して皮膚に波及します。皮膚は菲薄化、紅色から暗赤色に変化して軟化し瘻孔を形成、自壊して潰瘍を生じます。潰瘍面は弛緩性の肉芽で覆われます。頚部リンパ節結核に続発することが多いので頚部が最も多い好発部位ですが、腋窩、陰股部などにも生じます。体幹部に生じたものは内科、外科領域では胸囲結核、胸壁冷膿瘍と呼称するようです。真正皮膚結核の中では最も頻度が高くみられます。
🔷尋常性狼瘡
かつては真正皮膚結核の中では最も多い病型でしたが、近年は減少してきています。結核免疫のある人で、結核菌が肺結核など内部から血行性、リンパ行性に皮膚に到達して生じます。稀には外部から皮膚に達して生じます。粟粒大の丘疹から徐々に融合、拡大して紅斑局面を形成し、表面は落屑、痂皮、びらん、潰瘍となり中央は萎縮し瘢痕化傾向を呈します。顔面、頚部に好発しますが四肢などにもみられます。ガラス圧診によって辺縁部にapple-jelly様の小結節が認められ狼瘡小結節とよばれます。臨床的にサルコイドーシス、第3期梅毒、慢性円盤状エリテマトーデス、非結核性抗酸菌症などとの鑑別を要します。
🔷皮膚粟粒性結核
粟粒結核に続発して生じます。結核菌が血行性に皮膚に散布されて、丘疹、水疱、膿疱、紫斑、紅斑を生じ、小潰瘍を形成します。かつては免疫不全のアネルギー状態でツ反陰性の幼児に極く稀れにみられましたが、近年はAIDS、化学療法中などの免疫抑制状態での報告がみられるようになりました。
🔷転移性結核性膿瘍(MTA: metastatic tuberculous abscess)
免疫能の低下した個体皮膚に粟粒結核や多臓器の結核から結核菌が血行性に皮膚に散布されて、皮下結節、膿瘍、潰瘍、瘻孔を形成します。四肢に好発します。頻度は稀れです。皮膚粟粒結核との違いは、MTAはより慢性で、四肢に多く、病座がより深在性で真皮下層からより深部にあり、それに比べて皮膚粟粒結核は真皮上層にあるために丘疹、水疱を形成することなど臨床症状に違いがあります。
【治療】
真正皮膚結核の治療も肺結核の治療に準じます。単剤での治療は耐性菌を生じさせる危険性があるために、多剤併用療法を行います。また可能な限り治療開始前に採取した検体で薬剤感受性試験を行い耐性菌の有無を確認してから治療を施行することが推奨されます。まず最初の初期強化期2か月間にイソニアジド(INH、イスコチン)、リファンピシン(RPF、リファジン)、ピラジナミド(PZA、ピラマイド)、エタンブトール(EB、エブトール)、あるいはストレプトマイシン(SM)を加えた4剤併用療法を行います。続く維持期4~6ヶ月間にINH+RFPの2剤併用療法を行います。但し、抗結核薬には、肝機能障害(INH,RFP,PZA)、腎機能障害(SM,RFP)、血小板減少・白血球減少(RFP,INH)、関節痛(PZA,INH)、視力障害(EB)など種々の副作用があるために注意が必要です。上記薬剤が使えない場合はカナマイシン(KM)、エチオナミド(TH)、エンビオマイシン(EVM)、パラアミノサリチル酸(PAS)、サイクロセリン(CS)、レボフロキサシン(LVFX)なども用いられることがあります。また高齢者などは4剤の代わりにPZAを省いた3剤併用療法も行われます。またINHの末梢神経障害やざ瘡様皮疹の予防のためにピドキサール(ビタミンB12製剤)も用います。
 結核治療では抗結核薬を確実に投与することが重要であり、世界保健機関(WHO)では直接服薬確認短期化学療法(DOTS: directly observed treatment short-course)が推奨されています。そのため原則として1日1回投与、服薬確認とされています。但し、本邦では日本版21世紀型DOTS戦略が提唱され、地域特性や患者利便性などを考慮された方式で服薬確認が行われているそうです。

参考文献

皮膚科学 第9版 著・編 大塚藤男 金芳堂
28 皮膚抗酸菌感染症 大塚藤男 pp811-818 

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石川 晃 医学書院
第25章 皮膚結核および皮膚非結核性抗酸菌症 福田知雄 pp423-428

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治
医学書院 27 細菌性疾患 皮膚結核 玉木 毅 pp909-912

皮膚疾患最新の治療 2021-2022 編集 高橋健造・佐伯秀久 南江堂
XVI 感染症 A 細菌 8 皮膚結核 四津里英 pp194-195

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