癤(せつ)・廱(よう)

毛包炎や伝染性膿痂疹(とびひ)が、皮膚の表在性の細菌感染症であるのに対し、癤(せつ)や廱(よう)はもっと深い皮膚真皮から皮下脂肪織にかけての深在性で毛包性の細菌性膿皮症です。
🔷癤(せつ)
【病因・症状】
1つの毛包を中心とした黄色ブドウ球菌による深在性毛包性膿皮症です(俗称おでき)。毛包を取り巻いて膿瘍が形成されます。症状は毛包一致性に尖型の紅色結節、腫脹がみられ、周囲にはびまん性の潮紅を伴います。自発痛、圧痛を伴い熱感があります。頂点に膿疱を生じ、次第に軟化し膿瘍を形成し時に波動を触れ、膿点から排膿し始めて、膿の排出とともに治癒に向かいます。
顔、項部、臀部が好発部位で、青年期の成人、または糖尿病、免疫不全などの基礎疾患がある中高年にも好発します。
顔面にできたものは以前は面疔とよばれ恐れられていましたが、適切な治療が行われれば治癒に向かいます。
炎症性粉瘤、化膿性粉瘤との鑑別が難しいこともありますが、粉瘤では臍がみられ、また切開、排膿で粥状内容物の排出がみられます。癤が同時に複数個できたものを癤腫症とよび、アトピー性皮膚炎、糖尿病、免疫不全などの人にみられることがあります。
【治療】
起因菌は黄色ブドウ球菌ですから第一世代の経口セフェム系抗菌剤を使用します。第三世代セフェム系抗生剤は生体内利用率が低く、また組織移行が悪く、耐性菌を増やすきっかけともなりますので推奨されません。近年は市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増えてきており、従来のHA-MRSAと異なるメチシリン耐性領域(typeIV SCCmec)を持ち、PVL(Panton-Valentine leukocidin;白血球破壊毒素)を持つ割合も増えつつあります。
膿瘍が波動を触れる程に大きくなった場合は局麻下に切開、排膿を行うことが必要です。また切開後もドレナージ、洗浄を行うことも必要です。
🔷廱(よう)
癤よりもより皮膚の深部から始まる毛包性膿皮症で起因菌はやはり黄色ブドウ球菌です。複数の毛包が侵され、半球状に皮膚から隆起し強い疼痛があります。大きさは鶏卵大、更にはそれ以上の大型の隆起性局面を形成することもあります。重症なものはPVL陽性のMRSAが関与することが多いとされ、健康成人でも壊死性肺炎などを起こすことがあり注意を要します。
治療は癤と同様ですが、細菌培養で原因菌を同定し、症状が強い場合は入院の上、外科的療法、抗菌薬の点滴静注などを行います。MRSAが原因の時はバンコマイシンなどの抗MRSA薬を使用しますが、CA-MRSAではクリンダマイシン(ダラシン)、ビブラマイシン、ミノマイシン、ホスミシン、バクタ等にも感受性がみられることもあります。