伝染性膿痂疹(とびひ)

表在性の膿皮症ですが、毛包性のものは毛包炎とよび、毛包一致性の膿疱を作りますが、伝染性膿痂疹はびまん性の表在性膿皮症で毛包や汗孔一致性(化膿性汗孔周囲炎)でないものを指します。
起因菌の種類によって大きく、水疱性膿痂疹(黄色ブドウ球菌による)と痂皮性膿痂疹(化膿レンサ球菌による)に分けます。
🔷水疱性膿痂疹
【病因・症状】
乳幼児、小児に多くみられ夏季によくみられますが、成人にも発症します。
黄色ブドウ球菌の感染によります。擦り傷、虫刺され、湿疹、アトピーの掻把痕などの傷、亀裂部などに菌が定着、増えて感染します。黄色ブドウ球菌は表皮剥脱毒素(exfoliative toxin; ET)を持ち、表皮上層の細胞接着因子であるデスモグレイン1(Dsg1)を融解して、表皮角化細胞がばらばらになる棘融解を生じて表皮内の水疱を形成します。これはセリンプロテアーゼの機能を介して生じます。弛緩性水疱は容易に破れて辺縁に拡大して、びらん、痂皮を形成し、感染力が強いために接触により他部位に”飛び火”し、(いわゆるとびひ)あるいは他の小児などへも伝染します。全身どこにでも生じますが、特に鼻孔部、口囲、四肢、腋窩などに好発します。鼻腔内には特にMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;メチシリン耐性ブドウ球菌)などブ菌の持続し易いので鼻いじりなどはやめさせることが必要です。乳幼児などで水疱性膿痂疹が広範囲、全身に拡大し、ETの産生する毒素により中毒反応を起こし、発熱、全身皮膚の潮紅と水疱、表皮剥離をきたしたものをブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)とよびます。原則入院治療が必要になる全身感染症です。
【治療】
病変が小範囲に限局している場合は外用抗菌薬で治癒しますが、広範囲に散発すると原則内服抗生剤を使用します。黄色ブドウ球菌では薬剤耐性菌の存在が問題になっています。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は近年増加傾向にあり、ペニシリン系、ゲンタマイシンに耐性であることが多く、外用ではフシジン酸軟膏、テトラサイクリン軟膏、ナジフロキサシン軟膏などが使用されます。内服では第一世代セフェム系、ホスホマイシンなどが使用されます。成人ではミノサイクリンやニューキノロンが使用されますが、小児では副作用のため原則用いません。重症ではバンコマイシンの点滴静注が用いられます。
第三世代のセフェム系抗菌剤は腸管からの吸収が悪く、皮膚への移行も低いので皮膚感染症では使用をひかえるべきとされます。
最近は従来の院内感染型MRSA(HA-MRSA: hospital-acquired MRSA)と由来が異なる市中感染型MRSA(community-acquired MRSA:CA-MRSA)が増えてきています。このタイプは白血球破壊毒素PVLが陽性のことが多いです。PVL陽性黄色ブドウ球菌は癤、廱などから壊死性肺炎、骨髄炎、敗血症などの重症感染症を起こすことがあり、問題視されています。家族内での複数感染例も問題です。院内でもこのタイプが増加傾向にあります。但し、HA-MRSAと比べると薬剤の感受性は比較的保たれています。
 上記薬剤の治療とともに、生活面では浸出液や水疱内容から次々に伝染するので、皮膚の清浄を保つことが重要です。鼻周りは原因菌が多いために鼻いじりをしないように指導します。石鹸を用いて優しく丁寧に洗い、シャワー浴を行います。入浴する際は最後にして、タオルを共用しないなど他の兄弟姉妹などにうつらないように配慮することが必要です。登園、登校は全身状態が良く、ガーゼ等で病変部を被覆できれば休む必要はないとされています。ただし、プールや水泳は治癒までは禁止です。
🔷痂皮性膿痂疹
【病因・症状】
化膿レンサ球菌の感染によります。年齢、季節を問わず突然発症することが多いです。溶連菌によるものでは咽頭炎、発熱、リンパ節腫脹を伴うものが多いですが、これ単独のものは稀で、ほとんどが黄色ブドウ球菌が混在して検出されます。小豆大の膿疱から厚く堆積する痂皮性病変が急速に拡大して、さらに大型の病変に進展する場合もあります。手や足では角層が厚いために痂皮形成は少なく、膿疱、水疱のまま留まることが多いです。特にコントロールされていないアトピー性皮膚炎患者では顔面全体が厚い痂皮に覆われたり、広範囲、重症になる場合もあります。こういった症例は日本で1990年代に多くみられました。この時期はステロイドバッシングの時代と重なり、アトピー性皮膚炎の不適切治療、あるいは未治療の例に多くみられた報告が多いです。
痂皮性膿痂疹は明治時代など100年前は多かったのですが、近年は減少傾向にありました。しかし、近年諸外国で増加がみられ、本邦でも増加傾向があるために注意が必要です。全身性に紅斑が拡大したものを猩紅熱とよびますが、現在はほとんどみられません。しかし世界的には増加の兆候があり、また毒性が10倍強の株も英国でみつかっているそうで今後の注意が必要です。それとこれと臨床的に酷似する川崎病との鑑別が必要とのことです。目が充血する、口唇は口紅を塗ったように赤くなる、手がパンパンに腫れる、熱が5日以上続く、周りにうつらないなどが鑑別になります。
【治療】
溶連菌単独であれば、ペニシリン系抗生剤の内服でよいですが、多くが黄色ブドウ球菌との混合感染によりますので、上記の水疱性膿痂疹と同様の薬剤を用います。但し溶連菌感染症では10%程度に糸球体腎炎を発症するといわれますので、10日から2週間の長めの投与を行い、溶連菌感染後腎炎(post-streptococcal glomerulonephritis)の発症に注意が必要になります。但し、リウマチ熱と異なり、抗生剤の治療によって腎炎の発症を予防できるというエビデンスは無いそうです。