有棘細胞癌

有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)は表皮角化細胞由来の悪性腫瘍です。
皮膚癌の中で、最も多いのは先に書いた基底細胞癌ですが、前駆状態とも呼べる日光角化症、ボーエン病などを加えると、一番多い皮膚癌は有棘細胞癌(SCC)です。
日光、紫外線の影響を強く受けますので、色白の白人で日照時間の多い地域(北米南部、オーストラリア)に多発しますが、高齢化に伴い近年は日本人でも増加傾向にあります。従って、半数以上が高齢者の顔面に発生しています。
発癌の要因としては紫外線の他に、放射線、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、砒素、タールなどがあります。また局所的な発生母地としては熱傷瘢痕、慢性放射性皮膚炎、白板症、褥瘡、円板状エリテマトーデス、表皮水疱症の瘢痕などがあり、全身的な発生母地としては色素性乾皮症、疣贅状表皮発育異常症、臓器移植、AIDSなどが挙げられます。
【症状】
中年以降の人の主として顔面、手背のような裸露部に不整形の角化性病変、または肉芽腫様の紅色結節としてみられることが多いです。前駆病変がないこともありますが、多くは日光角化症、ボーエン病などの前駆病変から進展してきます。増大すると表面が浸軟、壊死しびらん、潰瘍を伴い乳頭腫状、カリフラワー状となります。壊死が進行すると二次感染を来たし、独特の癌臭を放つようになります。進行すると筋肉や骨などの隣接組織に浸潤し、しばしば所属リンパ節に転移します。血行性に多臓器に転移し予後不良となる場合もあります。
【検査及び治療】
視診、触診(所属リンパ節も含めて)が最も大切です。硬さ、下床との可動性、癒着なども確認します。疑ったら皮膚生検により病理組織を確認します。あわせて病巣の広がりや転移の確認のためにCT,MRI、超音波断層法などの画像検査が行われることもあります。病理組織学的に角化の程度が高~低分化に分類され、低分化、未分化なもの程悪性度が高く、予後が悪いとされます。
治療は基本的に手術ですが、部位、臨床、組織所見によってリスク因子が異なり、切除マージン、リンパ節廓清術など手術法も異なってきます。多臓器転移例に対しては放射線療法、化学療法などが行われています。近年ではこの分野でも分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が導入されてきています。
【有棘細胞癌の前駆症】
上術した局所的な発生母地や全身的な発生母地がありますが、SCCの早期病変(SCC in situ)として日光角化症、Bowen病、放射線角化症、白板症、砒素角化症などがあります。
🔷日光角化症
高齢者の顔、頭、手背などの裸露部に数mmから数cmの疣状局面、あるいは境界がやや不明瞭な角化性紅斑鱗屑局面、時に萎縮性の局面がみられます。しばしば多発しますが、単発の場合もあります。角状に突出していわゆる皮角の臨床像を呈することもあります。臨床的に脂漏性角化症(老人性疣贅)、尋常性疣贅(イボ)、慢性湿疹、扁平苔癬様角化症、乾癬などと似ていて鑑別を要することがありますが、病理組織学的に鑑別できます。治療は切除が確実ですが、液体窒素凍結療法、抗ガン剤の外用(5-FU軟膏)、イミキモド(Toll-kike receptor 7を刺激する免疫調節薬)が使用される場合もあります。
🔷Bowen病
SCC in situと同義語です。
表皮全体が異型表皮細胞に置き換わった状態で表皮内癌ですが、表皮基底層は保たれていて、真皮への浸潤はありません。但し、進行して基底膜を破り、真皮へ浸潤性の増殖をきたすとBowen癌と呼ばれる有棘細胞癌となります。
臨床症状は、日光角化症と異なり全身各所に生じます。1~数cmの境界明瞭な紅褐色調の不整形から環状、連圏状の角化性紅斑性局面で表面にしばしば鱗屑、痂皮を付着します。慢性湿疹、尋常性乾癬、基底細胞癌、パジェット病に似ることもありますが、病理組織で鑑別できます。爪甲下、陰部にも生じることがあります。この際HPV16,18などのハイリスク型のHPVウイルスが検出されることがあります。または症例、部位によっては紫外線、砒素の関与もあり得ます。
🔷放射線角化症
慢性放射線皮膚炎の多形萎縮を伴う硬化した皮膚局面に角質増殖を伴った角化性隆起を伴って発症します。
🔷白板症
口腔粘膜、外陰部にみられる白色の硬化局面を広義の白板症と呼びます。狭義には組織学的に表皮内癌がみられるものを指します。臨床的にはカンジダ症、扁平苔癬、硬化性皮萎縮性苔癬に似ることもありますが、組織所見で鑑別できます。

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