乾癬様皮疹

昨日「栃木県オテズラ錠発売5周年記念Web講演会」があり、聴講してみました。
大阪大学藤本 学先生の「乾癬の病態とPDE4阻害薬のポジショニング」という特別講演はとても興味を惹かれるものでした。
本人も「専門は膠原病で乾癬の講演は自分の分野ではないので乾癬の専門家の前では気がひける、PubMedなどを使った力技で文献的考察を中心に」などとと謙遜されて始まった講演でしたが、その力技の分量、豊富さと免疫学の知識に裏打ちされた講演の内容の深さに感嘆し、久しぶりに興奮を覚えました。
講演の大部分は、乾癬には典型的な乾癬以外にも乾癬様の臨床型を示すことが時々みられるのですが、それを俯瞰的に体系づけての解説でした。大きく分けると乾癬そのものか、ほぼ乾癬様の皮疹を呈する病態と、もう一つは他人の空似というように全く別な疾患なのに乾癬に似た臨床型を示すものの疾患群です。
今までも長年の臨床経験から個々の病態は聞いたり、見たりしたことは多少はありましたが、ここまで体系的な講演をきいたことはありませんでした。
まず前者では、薬剤性のもの、降圧剤特にβブロッカー、精神科薬剤のリチウム剤、これらは有名ですが、近年はTNF阻害剤、IFNα、更には免疫チェックポイント阻害剤によるものも乾癬を誘発することが知られるようになりました。しかしながら統計の手法によっては、有意の差が無しとするものもあるとのことです。
似た病態を示す疾患として、脂漏性皮膚炎、腸性肢端皮膚炎、HIV感染症での乾癬様の皮疹も有名です。また他人の空似、似て非なる疾患で最も有名なものは梅毒でしょうか。手掌の乾癬様の皮疹をみたら専門医なら考えておく疾患です。(特に近年梅毒が急増しているとの報告もあり注意を要します。ただ梅毒はgreat imitatorといわれ、いろんな臨床型を取るためにその気でみないと見過ごす、なかなか視診では分からないことも多いです。ーー個人的感想。)
またときに体部白癬も似た症状を呈します。Th17が関与していることにもよるかもしれないとのことです。また膠原病とりわけ皮膚エリテマトーデス、ハンセン病、リンパ腫、菌状息肉症、IgG4関連疾患、Bazex症候群などでも乾癬様に皮疹がみられることもあります。
これらの他にも、数々の聞いたこともないような疾患の報告例の紹介がありました。
乾癬と膠原病、とりわけLEとの病態の関連では炎症のトリガーとして、自然免疫の関与が近年脚光を浴びていることを述べられました。紫外線、感染症などの刺激がNETs(好中球細胞外トラップ)の関与により、自然免疫を活性化し、炎症を引き起こしていくという病態は近年SLEや関節リウマチ、血管炎などで提唱されてきていますが、乾癬もこのことは当てはまるかもしれない、ただ最近はNETsがブームなので過大評価されているかもしれないがある程度の部分、好中球の関与は間違いないだろう、炎症の上流は似ていても下流は異なるというような話でしたが難しくて完全には理解できませんでした。
また、講演会の主題のPDE4阻害薬の効果、機序については従来の細胞内cAMP濃度を上げるものに加えて、血中LEDが乾癬に効果のある人で有意に変化することからマーカーとして使えるかもしれないとのことでした。
PDE4阻害薬は細胞のミトコンドリア代謝に関連して効果を表しているかもしれないとのお話(大阪大学の渡辺、吉岡両女史の研究)は難しいながら興味をそそられました。
講演の最後に座長の自治医科大学の大槻マミ太郎先生が、藤本先生に乾癬の講演依頼を無茶ブリしたのはたまたまではなく、以前の乾癬学会でもお願いしたこと、乾癬学会理事でもあること、面白い話を聴けると考えてのことだったようですが、十分に堪能されたでしょう。さらに今日の内容の骨子を是非学会誌に特集してまとめてほしいとのコメントをされていました。まさに小生もそう思いました。盛りだくさんすぎて消化不良、理解不能なところをすっきりさせて解説して頂きたいと思いました。