日臨皮総会 神戸 の続き
フットケアのセッションでは河合先生がRetronychia(後爪郭部爪刺し)についても陥入爪の中で言及されました。
後爪郭部の炎症の原因は様々あり、日常外来でも時々目にする病態ですが、retronychiaもその一つです。
しかしながらこれについての記載はあまり多くみられません。病名についても1999年初めて海外で報告された新しい概念で、日本名は2011年に東先生が「後爪郭部爪刺し」と邦訳して3例を報告しました。proximal ingrown nailを「後方陥入爪」と邦訳したものもあります。
これについて少し、調べてみました。
Retronychia(proximal ingrown nail)は外傷などが原因で、不完全に脱落した爪甲が、後爪郭部に埋め込まれた状態です。手指爪にも生じますが、最も外力がかかり易い足の第1趾(拇趾)爪に生じやすく、身体活動の盛んな若年層、特に女性に多いとされます。
外力では、ランニング、ダンス、ハイヒール、つま先立ち、つま先座りなど爪先に過度の負担がかかったケースが多いようです。足の形では第1趾が一番長いエジプト型に多くみられる傾向があります。(ちなみに第2趾のほうが長いものはギリシャ型という)。
臨床的な特徴は近位爪甲の肥厚、黄白色化、爪甲が伸びなくなること、後爪郭部の慢性炎症(痛みをとも伴う発赤、腫脹、肉芽腫など)がみられます。
発症機序は以下のように考えられます。特に爪を伸ばした状態でつま先に過度の負荷がかかると、テコの作用により爪の近位端が剥がれます。剥がれた爪は前方に押し出す力は働かずに、爪は遠位端で堅く固着します。下方から新しく伸びる爪は剥がれた古い爪を押し上げ、古い爪の近位端が後爪郭を下から圧迫します。それで、後爪郭部に炎症が生じます。これが繰り返されると、何層にも剥がれた爪が固着して屋根瓦状に重なるケースもあるそうです。
剥がれた爪が脱落しない原因の一つは炎症性の肉芽組織が爪甲を巻き込んで後方に牽引しているからとの説もあります。
治療は新しい爪甲、爪母を傷害しないように注意しながらの爪甲除去術が推奨されます。また手術のあとは正常な爪甲伸長を促すために、趾尖部皮膚を下方に引っ張るテーピング法を併用することが重要です。
参考文献
星 郁里 ほか:Retronychia;proximal ingrown nail(後爪郭部爪刺し)の1例.臨床皮膚科 67:347-352,2013.
上出康二: マルホ皮膚科セミナー 2013年8月1日放送 「第64回日本皮膚科学会西部支部学術大会➂シンポジウム3-2 陥入爪・巻き爪の治療」
星 郁里 原図
追記 2024.11.25
第40回日本臨床皮膚科医会 三ブロック合同学術大会より
たかが爪から、されど爪の時代へ
~ネイルウェルビーイングⓇの実現に向けて~ 東京都済生会中央病院皮膚科 川島裕平
炎症性爪疾患と巻き爪と陥入爪についての講演でした。
その中でレトロオニキアについても解説がありました。
基本的には上記記載の内容と相反する点はありませんが、なるほどと思った点を追記します。
転倒、外力などで爪に外傷が加わることで発症します。
爪の先端に上からの外力が働くと、爪の根本(爪母、爪半月の部分。先の方は爪床と呼びます。)が皮膚から離れて浮きます。シーソーを考えていただければよいかと思います。爪先の方のシーソーに腰かけてドンと腰を下ろすと、反対側が浮き上がります。そして爪の根本の皮膚に下から当たります。同部分は炎症で(必ずしも化膿してはいない)赤く腫れあがり痛みを生じます。爪母は爪の製造部位なので新しい爪が生え始めます。
治療として爪母(爪半月の辺り)は柔らかくなってきますので、ニッパーで短冊型に切除します。その際下方の新しい爪を傷つけないように注意します。
これで爪の根本の発赤部に剥がれた爪が当たらなくなり炎症も治まります。またその前方の爪は自然に脱落します。
この方法であれば、麻酔は不要ですし、元の爪が爪床を保護しますので、肉厚になることも避けられます。麻酔薬を使った手術ではなく簡便な処置で、なかなか良い方法だと思いました。
会場から「発赤で痛み、腫れがある場合、瘭疽、爪囲炎との鑑別はどうしますか?」との質問がありました。演者は視診、触診でかなり分かるが、難しい場合は1週間程度抗生剤を飲ませて治癒傾向の有無をみる、穿刺して排膿の有無をみる、とのことでした。麻酔は不要ですので、ニッパーで切り始めて、硬ければ中止しても構いません。無論、肉芽組織で下床と癒着している場合とか、爪が硬くてニッパーで切れない場合は適応外でしょうが、試してみる価値がある処置法だと思いました。
また巻き爪の高度なトランペット爪についてもマイスターSという形状合金のワイヤーとりネイルゲルによって軽快した例の提示をされました。これは見た目の改善もですが、これによって歩行が改善され、転倒しにくくなったとの声があったそうです。取り入れてみてもよい方法かと思われました。