陥入爪の治療・アクリル固定ガター法

本邦では、新井裕子先生が長年に亘り、研究改善してきた方法です。
「陥入爪の治療に手術は不要。陥入爪はアクリル固定ガター法とアンカーテーピング法の単独/併用により、簡単確実に治療可能な疾患である。筆者らは、過去30年間に約1500例以上の陥入爪の症例を主にアクリル固定ガター法とアンカーテーピング法を用いた保存的療法で治癒に導いてきた。また一方では、世界各地でこの方法を広めてきた。近年、これらの陥入爪の保存的治療法は欧米をはじめ世界的にも確立しつつあり、標準的な治療になる日も近い。(新井裕子ほか、皮膚臨床52(11)特:50;1604-13,2010)」
その総説に従って、方法をまとめてみます。

【施術前の麻酔】
施術による疼痛を軽減し、患部の観察を容易にするために簡単な局所麻酔を行います。(必要のない場合もあります。)
2%メピバカイン(カルボカイン)を用い、さらに痛みを緩和するために炭酸水素ナトリウム(メイロン)を30%添加し組織の酸性度を減弱させます。30ゲージほどの細い注射針を使って、ゆっくり注入すれば痛みは少なくてすみます。
図のように遠位翼状ブロック(distal wing block)を行います。痛みの強い近位リングブロックは必要ありません。
【肉芽組織】
アクリル固定ガター法、アンカーテーピングによる牽引、圧迫でいずれ消退に導くことができます。ただ急ぐ場合は電気焼灼、炭酸ガスレーザー、切除などの方法をとります。
【アクリル樹脂】
ネイルアートの人工爪用、義歯用の材料を用います。アクリルパウダーとアクリル液を混合して、短時間に重合・硬化させ、プラスチックチューブの強力な接着剤となります。また欠損した爪を補うための人工爪の素材となります。除去する場合はアセトンを用います。
【治療の実際】
点滴用チューブ(直径1.5~2.5mm)を長さ1~2cmに切り、図のように縦に切れ目をいれ、さらに挿入を容易にするために先端を斜めに切ります。爪の先端をモスキートペアンで持ち上げて、爪縁に沿わせて挿入します。この際に爪棘など異物を残さないようにこれも含めてチューブに包み込むことが重要です。挿入が完了したら、チューブの中、外側の爪上にもアクリル樹脂を塗り、専用の紫外線で固定します。
医療用のアロンアルファでも代用できますが、熱に弱く入浴などで溶けて外れやすいのが欠点です。固定されたチューブは自爪が伸びるまで数週間から数か月据え置きます。
ただ、実際には外れることが多いですが、一旦挿入できたら道筋ができているので再挿入に麻酔は不要です。アロンアルファ、場合によってはチューブを渡しておき、固定・入れ替えが可能です。しかし、感染の有無のチェックなど定期的な再来診察は必要です。
【アクリル人工爪法】
東先生が報告した方法です。前述の種々の方法で肉芽を処置、小さくしてから始めます。局所麻酔後に欠損した爪の下にプラスチックフィルムや人工爪用の台紙を置きます。東先生は不要になったレントゲンフィルムを折り曲げて使っています。
爪の表面をアルコールで拭き、乾燥させた後にプライマーを塗ります。アクリル樹脂を台紙の上に広げて塗り、爪を造形します。
約10分硬化後にヤスリをかけて形を整えます。
ケースによってはガター法とアクリル人工爪法は併用することができます。

新井先生はガター法とテーピング法の単独あるいは併用によりほとんどの陥入爪の症例は治療可能であると述べています。

しかし、糖尿病、動脈硬化、膠原病などで末梢の血流が悪い症例の患者さんでは本法で皮膚壊死を起こす可能性もあるとされているので注意は必要です(原田和俊ほか日皮会誌:123(11),2069-76,2013)。

参考文献

新井裕子、新井健男、 Eckart HANEKE: 治療にてこずる皮膚疾患 5 陥入爪・巻き爪 3)陥入爪の簡単、確実な保存的治療法 皮膚科の臨床52(11)特:50; 1604~1613,2010

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで 金原出版 2013

麻酔ブロック新井裕子ほか:皮膚臨床52(11)特:50;1604~13,2010より
Haneke先生  原図

チューブ新井裕子ほか:皮膚臨床52(11)特:50;1604~13,2010より

ガター法1

ガター法2炭酸ガスレーザーで肉芽を焼灼後にチューブを挿入、アロンアルファ使用

ガター法3

ガター法4挿入したチューブを正面からみたもの

ガター法5

ガター法6チューブ挿入後紫外線でアクリル固定

ガター法7爪の欠損がみられたために、欠損部をアクリルで補強しました.