酒さ(1)

にきびの鑑別で、酒さをあげましたが、これについて考えてみたいと思います。
酒さはいわゆる「中高年の赤ら顔」をイメージしていただければよいかと思います。
実は酒さで悩んでおられる患者さんは意外と多く、しかも皮膚科に罹っていてもその病態を念頭に置いていないと専門医でも見逃されやすい疾患です。
 本邦では酒さの頻度は欧米と比較するとそれ程高くなく、病因、病態も明らかではなかったので皮膚科教本でも詳しい記述はなく、皮膚科研修・教育でもそれ程重要視されてこなかったように見受けられます。
 ただ、欧米では(特に色白の白色人種では)以前より重要で高頻度な疾患であり、数回の経験しかありませんが学会などでもニキビのセッションに遜色のないほど大きなセッションで参加者も多数なことに驚いたことがあります。
白人の罹患率は10%にも及ぶともいわれ、米国皮膚科医は毛細血管拡張や顔面の発作性の発赤(flushing)があるだけでも酒さと診断するともいわれます。病因も不明で、ニキビ、アトピーなどの除外診断でないとなかなか酒さという診断をつけない本邦の皮膚科医との違いもあり、本邦での認知度は必ずしも高いものではありませんが、埋もれていたり、見過ごされているケースは意外と多いようにも見受けられます。
 我々の周辺では、以前東邦大学佐倉病院皮膚科主任で膠原病を専門にされていた現千葉中央皮膚科の田辺恵美子先生が、本邦での酒さの多さと見逃されているケースの多いことを医師仲間に伝えておられました。その目でみると確かに結構多くの患者さんが疑わしいことを再認識させられました。
 2011年東京支部総会の際に「Common diseaseをどう考えるか」というテーマがあり、各県に演題を依頼されたのですが、千葉県からは推薦され田辺先生が 「顔のトラブル:酒皶を見逃すな」という演題で講演されました。
 その時の講演では多くの皮膚科医が参加し活発な議論もありました。
 身近にありながら意外と見逃されている酒さ、についてまとめてみました。

 《酒さの症状》
本邦では従来より、重症度に応じてⅠ度からⅢ度に分類されてきました。
第Ⅰ度酒さ・・・紅斑性酒さ
第Ⅱ度酒さ・・・酒さ性痤瘡
第Ⅲ度酒さ・・・鼻瘤
酒さ様角膜炎、結膜炎、眼瞼炎など眼症状を合併することがある。
しかし、必ずしもⅠ度からⅢ度へと進行するわけではなく、いろいろな皮疹が混在することもあります。それで近年ではステージ分類に変わって症状によって亜型に分類するsubtype分類が提唱されています。

米国の分類は下記のようになっています。
Subtype
1. Erythematotelangiectatic type  (紅斑毛細血管拡張型)

2. Papulopustular type (丘疹・膿疱型)
3. Phymatous type (鼻瘤型)
4. Ocular type (眼型)
米国では診断指針では皮膚科専門医以外でも診断できるように簡略化、単純化されスコア化がされているそうです。
<主症状>
ほてり(一過性紅斑)
持続性紅斑
丘疹・膿疱(面皰があるときは痤瘡と考える)
毛細血管拡張
*主症状の1個以上が顔面の中央部にみられると酒さと診断
(ただ、これだけでは酒さ以外の疾患も入ってきてしまいますが、簡便な見分け方かもしれません。)
<副症状>
灼熱感、チクチク感、乾燥、浮腫、眼症状、鼻瘤
*主症状に伴うこともあるが、別箇に生じることもある。

◆赤み(紅斑)は顔面中央部の膨らんだ部分(頬、額、眉間、鼻、頤など)に生じることが多く、初めは一過性でも次第に持続性になってきます。そして、仔細に観察すると毛細血管拡張を伴っていることが多いようです。そして、ピリピリ感、チクチク痛痒さを訴えることも多いようです。
◆浮腫も酒さの皮疹の特徴の一つで、初期の血管の変化から引き続き、リンパ浮腫を引き起こし、一過性から持続性に変わっていきます。繰り返しの血管拡張や炎症によって血管支持組織が脆弱になるためと考えられています。
◆化粧品に対して易刺激性になっていることが多く、つけるとチクチク、ピリピリと痛かゆさを訴え、化粧品かぶれと診断されることも多いようです。しかし、このような場合で、パッチテストは陰性であり、化粧品を中止しても症状は改善しない時は酒さを疑う必要性があります。
◆丘疹は頬や頤に多いですが、唇紅周りにできることもあり、また幅の狭い帯状紅斑がみられることもあります。丘疹・膿疱はニキビでもみられますが、酒さでは面皰がみられません。また、必ずしも毛孔一致性でないことも、ニキビとの違いです。
◆眼型は少ないですが、結膜充血、眼囲の紅斑、ドライアイ、角膜炎、麦粒腫、霰粒腫などがみられるそうです。
◆典型的なものは、顔中央の皮疹で30代から50代の女性に多く、鼻瘤は男性に多く見られます。しかし中には小児期からのものもあり、額、頭部、耳前部など辺縁部の皮疹もあるそうで、見逃されやすいようです。
◆酒さは一寸した刺激によって悪化、誘発されます。日光、急激な温度変化、アルコール、香辛料、ストレス、薬剤(血管を拡張させる薬、ステロイド剤)などがその誘因ですが、特に日光での悪化は特徴的で、遮光に努める必要があります。

次回は複雑でまだ不明な点の多い酒さの原因、病態などについて触れてみたいと思います。

参考文献

田辺恵美子:◆特集/ここが聞きたい 皮膚科外来での治療の実際 酒皶の診断と治療
MB Derma, 197: 1-8. 2012

山崎研志:酒皶の対処法 37-41
皮膚科臨床アセット 8 変貌する痤瘡マネージメント
総編集◎古江増隆 専門編集◎林 伸和 中山書店 2011

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