医学のトップリーダー

特別企画 Cutting edge:知と技

cutting edgeとは、科学技術・芸術などの最先端、最前線、前衛:流行の先端を行く人のこと

毛包のステムセルエイジングと老化  東京医科歯科大学   西村 栄美
超微小外科手技(スーパーマイクロサージャリー)を用いた美容再建  
                                      東京大学       光嶋 勲

皮膚科学会の大塚会頭のお考えか、皮膚科分野でのトップリーダーの講演がありました。
最初の講演は遅れて入室し、大きな会場の奥の方に座っていただけでしたし、マイクの位置のせいか、一寸聴きとりづらく、難しそうな内容だったし、恥ずかしながら予備知識もなかったのであまり期待もせずにいたのですが、次第にこれはすごいかもしれないと思えてきました。また後で、インターネットで調べて、やっと本当にすごいことが分かりました。自分でうまく解説できないので第8回(平成23年度)日本学士院学術奨励賞受賞の理由文を転載しました。
「組織幹細胞の維持機構の解明は現代生命科学における重要課題の一つです。西村栄美氏は、マウスの毛にメラニン色素を送り込む色素細胞について研究し、その幹細胞を世界に先駆け同定、そして、この細胞を取り巻く環境(ニッチ)が、幹細胞の運命を制御することを明らかにしました。次いで、色素幹細胞に隣接する毛包幹細胞がニッチとして働き、この細胞が合成するTGFβが色素幹細胞の維持のために必要であること、最近では、毛包幹細胞が発現するコラーゲンXVIIが、毛包幹細胞だけでなく色素幹細胞の維持にも必要であることを明らかにしています。さらに、幹細胞維持機構の異常によって色素細胞が不足し、これが白髪化を引き起こすこと、また、色素幹細胞におけるDNA損傷が細胞の自己複製機能を抑制し、老化における白髪化の原因となることを示唆しています。以上、色素幹細胞の維持機構から白髪化の仕組みに至るまで数々の重要な新知見をもたらし、オリジナリティの高い研究である と評価されます。 」
要するに、毛や色素(黒髪)の元になる、色素幹細胞、毛包幹細胞のありかが毛乳頭より上方のバルジ領域に存在することを世界に先駆けて発見し、これらがニッチと呼ばれる微小環境でのみ存在、黒髪の維持に役立っているが、ゲノムストレス(放射線など)や加齢などによって、分化していくと幹細胞が枯渇して、白毛、脱毛になっていくことを解明したものです。
残念ながら17型コラーゲンを食べても「薄毛」は治りませんが、これの発現制御の仕組みがわかれば「白髪」とともに「薄毛」も治せる日がくるかもしれません。さらにこの研究の素晴らしいところは、毛だけにとどまらず、ニッチを含む幹細胞の視点から癌細胞、特に悪性黒色腫などの制御機構なども同様の理論からアプローチして解明していこうとしているところです。
 次の演者の光嶋先生の話はゴッド・ハンドの神業ですので、視覚的に最初から最後まで凄いのが一目瞭然でした。今や直径0.3mmから0.8mm程の血管・神経をつなぐ超微小外科のトップリーダーで世界にその技術を発信し続けている人です。この分野は日本が世界のトップだそうですので、彼が世界のトップリーダーということになります。この技術を使えば大きな皮膚・骨・筋肉・脂肪の塊や神経を生きたままで移植できるそうです。数々のスライドは衝撃的なものでした。事故や病気で欠損した顔やペニスの再建によって人生のクオリティー・オブ・ライフを取り戻したケースが提示されました。また性同一性障害に対する身体の修正術も格段に進歩したとのことです。印象的だったのは、赤ちゃんの顔に大きくできた黒あざのスライドでした。母親はそれをみて自殺を考えたそうです。次に出たスライドはあざのない美しい娘さんの写真でした。何年かぶりに来院した母は、「先生は2人の生命を救って下さいました。」と涙を流したそうです。超微小外科は傷だけではなく、心の傷も癒すということです。
 心に残る2人の講演でした。

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