イスタンブール(EADV)・爪の病変

学会の続き
◇爪の病変
爪及び爪の周りの皮膚の病変は驚くほど多岐に亘ります。たかが爪、されど爪です。いつか爪のことも調べてまとめてみたいな、などと思っていました。千葉県皮膚科の医会でも時々、巻き爪などの専門の先生に来てもらって、勉強会でもやりたいですね、などと話題になります。そうはいいながらいつも皮膚科の学会でも爪の講演は真面目に聞いたことがありませんでした。何もヨーロッパに来て初めて聞くまでもないだろうとは思いましたが、そういったこともあり出てみました。
現在のトレンドでしょうか、ダーモスコピーの話から始まりました。乾癬、扁平苔癬、膠原病、色素病変、メラノーマなどの紹介がありました。爪囲のメラノーマは診断が難しいものの一つですが、色素線条の途切れ、色の濃淡などで鑑別しますが、肝心な色素病変の発生部位の爪母(nail matrix)が折れまがった形で表面から直視できないためにダーモスコピーのみでの診断の確定はできず、病理組織で最終確認するしかないとのことでした(B.M.Piraccini)。爪乾癬などの炎症性疾患の治療の話、その後、Closure of defects at the nail apparatus(爪器官の欠損創の閉鎖)と題した爪の形成外科の素晴らしい講演がありました。そして最後にお年寄りの先生がでてきて、What I still do not understand in nail disorders after a lifetime career(長年の研究のキャリアを持ってしても爪の病気でなおかつ私の解らないこと)と、難しそうな爪疾患と全身疾患が関連した講演がありました。
 その場はスライドを眺めただけで終わってしまいましたが、後でインターネットなどで調べてみて唸ってしまいました。
それぞれに、その道の大家のようで、爪の教本を執筆している人達でした。特に最後に出てきたR.Baranの教本は何と爪だけで800頁を超える大冊です。爪の研究50余年、その大先生がまだI still do not undersatandとおっしゃるのです。まさにArs longa, vita brevis (人生は短く、芸術(技術)の道は長し)です。
ネットにでていた教本は下記のようでした。
Bianca Maria Piraccini: Color Atlas of Nail
Dermatologic Therapy(Dermatoscopy of non-skin cancer nail disorders
Robert Baran, Dimitris Rigoulos: Nail therapies
Bertrand Richert: Nail Surgery
Robert Baran et al: Baran & Dawber’s Diseases of the Nails and their Management,Fouth Edition
とても手にできるような本でもありませんが、日本に帰ってから爪ってこのように奥の深いものなのかと驚きを感じました。日本ではなかなか爪の本は目にしなかったように思います。かつての西山茂夫先生のカラーアトラス位かなと思いましたが、丸善で爪の大家の東禹彦先生の「爪 基礎から臨床まで」という本を知り買いました。日本にも素晴らしい本があるのに感心しました。(10年もまえの初版なので買うのが遅すぎたきらいはありましたが)。
従来の皮膚科の教科書の爪の項目は皮膚付属器の一項目で、ほんの数頁のものがほとんどだったように思います。
日常診療でよくみる陥入爪(巻き爪)についてもごく簡単な記述しかありませんでした。雑誌での特集などありますが、系統だった教本はあまりありません。そのせいか、ネットなど内容、治療法など千差万別です。方法としては手術療法、フェノール法、ガター法、アクリル人工爪法、VHO法、マチワイヤー法、レーザー法など聞きますがどのような選択肢をとるかやはりその道の専門家を招いて聞いてみたいと思いました。
それにしてもほんの小さな爪が講演を聞いてから更に大きく目の前に立ちふさがってきてしまいました。