フッ化水素による化学熱傷

フッ化水素酸系の洗浄剤による化学熱傷の患者さんが受診されました。 建物の外壁の洗浄をしていて、手袋に穴が開いていて洗浄剤が手にしみ込んだとのことでした。見ると右手の親指の先端が赤く腫れています。爪も白~黄色く変色しています。かなり痛みがあるとのことでした。一見して、フッ化水素酸によるものかと思いましたが、患者さんの同僚はフッ素ではないと言ったとのことでした。いずれにしても化学熱傷には違いないので、意外とひどくなる可能性もあること、もし再確認してフッ素系ならば、救急外来でもよいからすぐ受診するように指示して、抗炎症処置をして紹介状を持たせて帰っていただきました。 翌日、早速病院から返信がきましたが、やはりフッ素系の洗浄剤(酸性フッ化アンモニウム)とのことでした。爪の下には血膿がたまっていて、穴を開けて洗浄したとのことですが、抜爪の予定だ、とありました。 フッ化水素酸系の洗浄剤による化学熱傷はたまに見ますが、皮膚組織のCaと結合して不溶性の物質(CaF2)を形成するまで、深部の組織まで破壊して浸透していきます。そして深い潰瘍を作ったり、骨までにも達することすらあります。 これをくい止めるためには、グルコンサンCaの局所注射や、それによる洗浄が有効とされます。しかし、指先では循環障害を起こすので局所注射もできない場合があります。特に爪には血流がないために、爪下にフッ素がたまり、潰瘍を形成し易くなります。フッ化水素は、石材、金属、タイル、外壁などの洗浄に用いられ、石材、ガラス、陶磁器には作用する唯一の洗浄剤とのことです。これは業務用の洗剤として広く用いられている割にはその危険性が十分に認識されているとは言えません。このことでビルメンテナンス業界では問題になっているようです。 2000年以前では、25%以上の高濃度のものが多かったのが、それ以降はむしろ低濃度の被害が多く報告されています。低濃度のものは、皮膚にすぐに傷害を現わさず、遅れて皮膚障害や爪下の潰瘍、壊死などが現れる傾向があります。  今回の患者さんも爪の下は血膿とのことですので、深い潰瘍が生じる可能性があります。 この洗浄剤は業界用で、家庭用には販売されていませんが、近年はインターネット経由で手に入るともいいます。 硝酸、石油ベンジン、氷酢酸、石灰硫黄合剤、苛性ソーダなどいろいろな化学熱傷がありますが、フッ化水素酸系の熱傷は、皮膚深く浸透、傷害していきますので、早急な治療が必要な緊急性の疾患であることを知っておいて下さい。 化学熱傷.JPG

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