薬疹ー軽症から重症、ウイルスの関与までー

2020年度日本皮膚科学会研修講習会 ー必須(冬)ー
薬疹ー軽症から重症、ウイルスの関与までー
杏林大学医学部皮膚科 水川 良子

薬疹の総説ですが、広範囲な内容になりますし、当ブログでも過去に詳細にアップしましたので、そちらも参照して頂き、本講演での骨子、新たな知見をまとめてみたいと思います。薬疹のトピックスは日進月歩です。
2017.2.5 薬疹の分類
2017.2.24 播種状紅斑丘疹型・多形紅斑型薬疹
2017.2.21 固定薬疹
2017.3.30 SJS/TEN型重症薬疹
2017.4.20 SJS/TEN発症機序
2017.5.29 薬疹と感染症
2017.8.11 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
2018.12.30 重症薬疹の講演
2015.2.21 分子標的薬による皮膚障害
2016.11.11 メラノーマの薬物療法(6) 免疫療法4.

講演の骨子
🔷薬疹の概念は変化してきている。
・発症におけるウイルスの関与の重要性
・Regulatory T細胞(Treg)による免疫抑制作用の関与
・Resident memory T細胞(Trm)の働き
・SJS/TENの新たな発症メカニズムの研究進展
・薬疹とHLA研究の進展
🔷薬疹の臨床型
<軽症型>
播種状紅斑丘疹型
扁平苔癬型薬疹/苔癬型薬疹
固定薬疹
多形紅斑
<重症型>
薬剤性過敏症症候群(DIHS)
Stevens-Johnson症候群
中毒性表皮壊死症(TEN)
🔷薬剤とウイルス
・見分けがつきにくい、見た目だけではほぼ不能な場合もある。(麻疹と薬疹など)
・鑑別のポイントとして・・・薬物の内服歴、感染機会の有無、表在リンパ節腫脹、白血球・血小板減少、好酸球増加、ウイルス抗体価、DLST
・特殊ながら典型的な場合・・・アンピシリン疹と伝染性単核球症、ピロリ菌除菌後の発疹、COVIDの際の多剤薬剤感作
・(DIHSなど)薬疹の発症にウイルス感染は密接に関与している可能性がある
🔷固定薬疹
・原因薬を内服すると、同じ場所に赤みが出る
・飲んでないときは、灰褐色の色素斑で、飲むとすぐ赤くなったり水疱を生じる
・全身どこにでもできるので、他疾患と間違え易い(やけど、老人性色素斑、ヘルペス、蕁麻疹など)
・市販薬でも出る・・・風邪薬、鎮痛剤(生理痛の薬など)
・抗生剤、鎮痛剤など多いがまさかと思う胃腸薬、去痰薬、漢方薬などでもでる
・Resident memory T細胞(Trm)が皮膚に常在していて、そのために繰り返し同一部位に出現する
・Trmは元々病原体、外傷などから皮膚を守る自然免疫の役割を持つCD8T細胞、αEβ7,CD69の表面マーカーを持つ
・皮疹部に薬剤、食物などの刺激が再度加わると肥満細胞➡TNFを介しTrmが活性化される
・Trmが関与する代表疾患であり、薬剤中止によりTregが局所に浸潤して治癒する
🔷中毒性表皮壊死症(TEN)
・最重症の薬疹で死亡率は20~30%
・全身の10%以上の面積の皮膚が剥がれる(10%以下ではSJS)
・高熱がでる。進行が急速で入院治療が必須
・眼、口腔、陰部などの粘膜がただれ、剥がれる
・病理組織学的に顕著な表皮の壊死を認める
🔷Stevens-Johnson症候群
・眼、口、陰部などの粘膜に出血・充血を生じ、粘膜症状が強い
・皮疹は非典型的なターゲット状多形紅斑の形をとる(平坦で浮腫あるいは水疱を持つ)
・皮膚の一部が剥ける(10%以下)
・高熱がでる
・後遺症で失明することがある
・TENへ移行することもある
🔷SJS/TENの治療
・入院が必須
・副腎皮質ステロイド内服療法
・ステロイドパルス療法
・免疫グロブリン製剤大量静注療法
・血漿交換療法
🔷薬剤過敏症症候群(DIHS)
・通常の薬疹よりも長く、内服後数週間~数か月後に発症
・皮膚症状は播種状紅斑丘疹型に近い、のちに紅皮症に移行することがある。顔の浮腫、口囲の紅色丘疹、膿疱、小水疱、鱗屑が特徴。
・高熱と肝機能異常などの全身症状がある
・原因薬を中止しても良くならなかったり、再燃する
・白血球の増多、異型リンパ球の出現、好酸球増多がある
・HHV-6の再活性化がある
・その他のヘルペスウイルス属の再活性化がある EBV, HHV-6, HHV-7, CMV
・原因薬・・・抗てんかん薬(テグレトール、アレビアチン、フェノバール、ラミクタール、エクゼグラ) 痛風治療薬(アロプリノール)
サルファ剤  不整脈治療薬(メキシチール)  抗生物質(ミノマイシン、バクタ) など
・DIHSにおけるCMV(サイトメガロウイルス)感染・・・高齢者、ステロイド減量後、発症4~8週後、白血球、血小板減少時に生じやすい。
消化管出血は致死的になるので重症例では抗ウイルス療法を行う。
・初期にTregが増加することにより免疫抑制状態となりヘルペスウイルスの再活性化がみられるとされる。後半ではTregが減少し免疫抑制状態から回復すると再活性化したウイルスが生体に認識され様々は臨床症状を呈する。
🔷新しいタイプの薬剤による皮膚障害
・分子標的薬によるもの・・・必ずしもアレルギーによらない
・免疫チェックポイント阻害薬(immune check-point inhibitor:ICI)
Niborumab(オプジーボ:抗PD-1抗体) 悪性黒色腫 非小細胞肺癌 腎細胞癌
Pembrolizumab(キイトルーダ:抗PD-1抗体)悪性黒色腫 非小細胞肺癌
Ipilimumab(ヤーボイ:抗CTLA-4抗体)悪性黒色腫
・ICIは細胞障害性Tリンパ球を再活性化し、腫瘍細胞を破壊するのが主な機序だが、腫瘍以外の全身の臓器に対しても自己炎症反応、いわゆる免疫関連有害事象(immune-related adverse event: irAE)を引き起こす。
・抗PD-1抗体使用例の49%に皮膚障害が出現
・開始から8カ月以内に生じる
・苔癬型皮疹、湿疹皮膚炎、白斑の出現頻度が高い
・ICIと分子標的薬(BRAF阻害薬)併用では有害事象の発症期間はより短く、より重症になり易い
・対処法
皮膚障害ではGrade1,2では続行、Grade3-4では投与中止(臓器により指標は異なる。)
・水疱症、SJSを疑った場合は中止する。
1.0-2.0mg/kg/日のメチルプレドニゾロンや副腎皮質ステロイド使用
・皮膚障害以外では下痢が最も頻度が高く重篤になり易い。その他内分泌障害、肺障害、肝機能障害、腎障害、神経毒性など全身の臓器障害が生じうる。
・NLRNeutrophil-tolymphocyte ratio(NLR;好中球・リンパ球比)は薬剤継続の目安になり得る
・皮疹の出現はIFN-γなどのサイトカインの増加による抗腫瘍効果をみている可能性がある、従って必ずしもすぐ薬剤を中止する必要性はない

薬疹については救済制度があるので、困った時、詳しく知りたいときはネットのHPから下記を見て下さい。

医薬品副作用救済制度

救済制度相談窓口 0120-149-931

以下は個人的な思い

@DIHSという比較的新しい病名は日本で提唱された概念で、日本の教科書にはしっかりと記載されている。しかし欧米、特にフランスなどではどうもそうではないらしい。EADVなどにいくとDIHSという病名は聞かず、かわりに同様な薬疹にDRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms)という言葉がよく用いられる。ある皮膚科学者に質問したところ言葉の響き、ウイルスをきちんと調べてないなどからDIHSが普及していないとのこと。なるほどそういうこともあろうかと思ったが、一番の違いはDRESSでは診断基準にヘルペス属ウイルス再活性化の項目が含まれていないこと。
釈然としない気持ちはあるものの、小生の頭ではよく理解できない。
どうやら鶏と卵ではないが、DRESSでも調べるとヘルペスウイルスの再活性化は起こっているがその現象が、薬剤によって引き起こされた免疫異常の結果として単に再活性化しているのか、薬剤とウイルスの両者が直接病態に関与していると考えるかの違いのようだ。
世界的には皮膚科学会ではこの両者の関係はどのように考えられているのだろうか。医学は自然科学の一分野だから政治とは違う。名称をどう付けるかはともかく、ここのところを明確にしていって頂きたい。