尋常性白斑2016

尋常性白斑(白斑、白なまず)については過去に当ブログに書きました。(2012.4.6)。
おおよそのところは繰り返しになってしまいますが、新しい知見も含めて再度書いてみます。
◆名称について
2011年ボルドーのVGICC会議で従来尋常性白斑(vitiligo vulgaris)が白斑(vitiligo)と改変されました。尋常性という文言がやや差別的な不適切な響きを持つからのようです。脱色素斑全体の用語としてはleukoderma(白斑)がもちいられるようです。ただ、我が国ではvitiligoもleukodermaも白斑と訳されます。したがって、白ナマズを白斑と命名すると却って混乱を招きかねません。どのように落ち着くのか、決まるまで従来のように尋常性白斑としたほうが間違いがなさそうです。
◆臨床分類
汎発型、分節型に分けられます。以前は限局型もありましたが、これはいずれは汎発型か分節型に発展するために使われなくなりました。汎発型は全身あるいは左右対称性に発症し、自己免疫アレルギーの関与が多くに認められています。
一方分節型では神経支配領域に一致したかの如くに発症すること、またメラノサイトと神経突起との接触像がみられることなどから末梢神経異常によるとの考えかたが有力です。
VGICC分類では非分節型(nonsegmental vitiligo(NSV))、分節型(segmental vitiligo(SV))、分類不能型(undeteremined/unclassified vitiligo)に大別されました。
ケブネル現象は外力の刺激によって原疾患が生じる現象ですが、病歴によって疑われるものを1型、臨床症状を認めるものを2型、誘発されたものを3型と分類しています。
初期の発疹は不完全な脱色素斑(くすんだ白色)で始まりますが、いずれは境界明瞭な完全脱色素斑(真っ白)となり、逆に周辺部では色素増強を認めることが多くなります。
◆検査所見
特に汎発型ではメラノサイトをはじめ、甲状腺、副腎、胃壁細胞などに対する臓器特異性抗体がしばしば認められます。
液性免疫、細胞性免疫異常を示唆するばかりではなく、近年は自然免疫に関与するNALP1などの疾患感受性遺伝子異常も認められています。
欧米人では甲状腺疾患、関節リウマチ、I型糖尿病、乾癬、悪性貧血、全身性紅斑性狼瘡、アジソン病、クロ――ン病、潰瘍性大腸炎などの頻度が有意に高いことが報告されています。日本人でもその傾向はあり、特に甲状腺疾患、円形脱毛症との合併が多くみられます。
自己免疫異常はメラノサイトのみならず、病変部にCD4,CD8細胞が浸潤すること、種々の炎症性サイトカインが高発現していることなどからも推定されています。
◆疾患感受性遺伝子
ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)やGWASメタ解析によって複数の疾患感受性遺伝子が同定されています。
1.メラノサイトの自己抗原呈示
TYR,OCA2,MC1R
2.局所の免疫応答
CCR6
3.
全身の免疫応答
獲得免疫HLA, IL2RA,FOXp1,FOXP2,FOXP3,TSLP,XBP1,CLNK,BACH2,SLA,CD44,IKZF4,SH2B3,TOB2
自然免疫 PTEN22,NALP1,IFIH1,CASP7,TICAM1
また欧米人での疫学解析によって尋常性白斑のひとは悪性黒色腫を発症しにくいことが明らかになりました。腫瘍免疫と自己免疫の関連を示唆するデータといえます。
◆その他の病因
上記の様々な自己免疫の関与を示唆する所見の他には、色素細胞はNOや酸化ストレスである過酸化水素に対して、非常に敏感であり、病変部ではこれらが増加しているとの」報告があります。また一方でカタラーゼ、ユビキノール、ビタミンEといった抗酸化物質が低下しているとの報告もなされています。また病変局所でEカドヘリンの発現が低下しメラノサイトの皮膚への接着が弱くなり、皮膚から脱落するとの報告もあります。
◆治療(ガイドラインより)
推奨度:A 行うよう強く勧められる
推奨度:B 行うよう勧められる
推奨度:C1 行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない
推奨度:C2 根拠がないので勧められない
推奨度:D 行わないよう勧められる(無効あるいは有害であるエビデンスあり)

1)ステロイド外用薬  推奨度:AないしB
推奨文:尋常性白斑の治療にステロイド外用薬は有効である。
体表面積20%以下の限局型において治療の第一選択肢となる。12歳以下ではクラス4(moderate)のステロイドを1日1回4ヵ月を目安とする。12歳以上ではクラス2か3(very strong or strong)を4~6ヵ月外用する。外用開始2カ月までに効果がみられなければ他の方法を選択する。汎発型にはステロイドの効果は20%以下で効きにくい。
したがって、限局型では推奨度A,汎発型では推奨度B。

2)活性型ビタミンD3外用薬 推奨度:C1-C2
推奨文:尋常性白斑に対してビタミンD3外用薬を単独では効果が弱く、PUVAやNB-UVB療法と併用することは行うことを考慮してもよい。
保険適用はないが、多くの施設で使用されている。露光部、非露光部での成績が異なること、報告によって評価に差があることなどエビデンスレベルは低いがPUVAやNB-UVBとの併用で有効との報告もあり、目立った副作用もないことからC1とする。

3)タクロリムス軟膏 推奨度:B
推奨文:治療効果が高い可能性があるが、長期安全性は不明であり、3~4ヵ月を目処に効果判定を行う。
本邦では70%以上の施設で使用されている。海外から1日1回ないし2回の外用で有効であり、さらに密封療法で効果が増強するとの報告があり、さらに紫外線との併用も検討されている。しかし、長期の観察例はなく、紫外線発癌を検討した例もない、本邦では紫外線併用は認めていない。

4)PUVA療法 推奨度:B
推奨文:尋常性白斑にPUVA療法は有用である。
1960年前後から試みられていた。1996年米国のガイドラインで同療法が推奨された。有効ではあるが、治療後の再発もかなりの率である。また光発癌などのリスクもある。ナローバンドUVB療法のほうが効果、再発率、副作用、施行の簡便性などの点からPUVA療法よりも有意に優れているとの報告が多く、これにとって替わられる傾向にある。

5)ナローバンドUVB照射療法 推奨度:B
推奨文:成人の尋常性白斑の患者に対する治療としてNb-UVBはPUVAよりも治療効果に優れ、保険適応もあり、紫外線療法の中で第1選択としてよい。
Nb-UVBは311±2nmの波長をもつUVB紫外線で1980年代からヨーロッパを中心に乾癬の治療に用いられ始めた。1990年代からは尋常性白斑へも応用されるようになった。PUVAに対する優位性の報告はあるが、一方部位による効果の差があり、躯幹、四肢に対して、手足などのの末端部での効果は劣る。2008年の英国のガイドラインでは、回数の上限をスキンタイプⅠ-Ⅲ(色白)では200回まで、Ⅳ以上では医師と相談の上さらに追加が可能としている。年齢については長期のエビデンスがないものの、小児については紫外線発癌に留意し、1年未満の照射や、200回未満の照射とする考えがある。本邦のガイドラインでは15歳以上を推奨としている。小児に対しては副作用についてのインフォームド・コンセントを得たうえで、施行することが望ましいとしている。

6)エキシマレーザー/ライト照射療法 推奨度:C1
推奨文:308nmエキシマレーザー/ライト治療器の特性を理解した上で、治療効果が期待できる皮疹に対して308nmエキシマレーザー/ライト治療を行ってもよい。
Nb-UVBとの比較において、エキシマレーザー/ライトの治療での色素再生は有意に優れていた。エキシマは紫外線を病変部のみに照射できるために正常部位への紫外線の影響を回避できるメリットもある。しかし一方で広範囲への照射は難しい。(照射口径を考えると労力が大変)
エキシマレーザー/ライトは高額であること、近年の導入であること、機器ごとに照射プロトコールが異なることなどより、厳密なRCT(randomized controlled trial,ランダム化比較試験)はまだない。客観的な治療効果の評価はこれからの研究による。よって推奨度はC1であるが、実際はNb-UVBより優る。

7)ステロイド内服 推奨度:C1
推奨文:進行性の尋常性白斑に対して行ってもよい。
進行性の症例のみに限定して、プレドニン(0.3mg/kg)2カ月、その後漸減5カ月で終了、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン8mg/kgx3days)などが行われるが、エビデンスの高い報告はない。

8)免疫抑制剤
現時点では評価に耐えられる報告はない。今後の研究報告に期待。

9)植皮・外科手術 推奨度:A-C1
推奨文:尋常性白斑に対する外科手術は1年以内に病勢の進行のない症例に対して、整容上問題となる部位のみに行われるべきである。
1960年代から試みられている。(1)分層植皮術 (2)表皮移植術 (3)ミニグラフト (4)培養技術を用いないメラノサイト懸濁液注入法 (5)培養技術を用いたメラノサイト含有表皮移植術/懸濁液注入法 がある。
皮膚移植術でも、吸引水疱蓋表皮移植、1mmトレパンを用いたミニグラフト、エキシマレーザーとの併用など様々な試みがなされているようです。表皮移植は分節型で有効であり、汎発型では移植後再び色素脱失がみられたり、採皮部にケブネル現象としての白斑の新生がみられたりすることがあるので、その適応には慎重であるべきとされます。培養技術を用いる治療は今後の研究課題といえます。

10)カモフラージュメイク療法 推奨度:C1
推奨文:尋常性白斑患者にQOL改善を目的として、白斑専用のカモフラージュ化粧品を用いて化粧指導(カモフラージュメイク)を行ってもよい。但し、尋常性白斑を治療する効果がないことおよび保険適応でないことに配慮が必要である。
種々の化粧品メーカーで肌質にあったメイク化粧品が発売されています。さらに水に濡れても落ちにくいようなスプレーを併用するなどの工夫をする報告もあります。顔面、手など目立つ部位の白斑では良い適応となりえます。

11)脱色療法 推奨度:C1
推奨文:成人の広範囲および治療に反応しない長期間経過した尋常性白斑患者にQOL改善を目的として、脱色療法を行ってもよい。
様々な治療を行っても改善せず、QOLが低下した場合はハイドロキノンモノベンジルエーテルによる脱色療法を考慮してもよい。
ただ、この方法は白斑の治療というより、残存した正常色素を脱色し、永久白斑を作ることになるので、十分なインフォームドコンセントを得ることが必要です。また皮膚の刺激感、接触皮膚炎などの副作用もあります。また逆に部分的な色素再生の可能性もありえます。本邦での保険適応はないために自家調剤もしくは輸入となります。
これらのことにより、本邦ではあまり施行されていません。

参考文献

尋常性白斑診療ガイドライン より
鈴木民夫 ほか 日皮会誌:122(7),1725-1740,2012 (平成24)

大磯 直毅 尋常性白斑研究と臨床的意義 日皮会誌:123(13),2494-2496,2013(平成25)