ネイルケア

爪の疾患について、いろいろと書いてきましたが、一般的にはあまり馴染みがなかったり、関係ないかもしれません。むしろ普段の爪のお手入れ、ネイルケア、ネイルアートの方に興味があるのかもしれません。そちらの方面は全く素人ですのでブログに書くのも気がひけますが、一応調べてみました。参考になりますかどうか。
【爪マニキュアの歴史】
爪のマニキュアの歴史は意外と古いそうです。古代エジプトでは紀元前3000年にはすでにヘナによる爪の染色がなされていたそうです。赤系統のマニキュアは王族など高貴な階級しか許されなかったといいます。クレオパトラは濃い赤さび色のマニキュアを好んだとか。しかし本当の爪マニキュアと言えるのは中国に起源があるそうです。また爪を長く伸ばすことも労働をしない上層の社会階級のシンボルとも見做されていたそうです。
 現代のマニキュアが発達したのは、20世紀に入って自動車産業が盛んになり、速乾性のラッカーが開発された1930年代からといいます。日本のネイルケアは戦後ヨーロッパから導入され、美容院、理容院の美容メニューの一つとして普及してきました。
1970代からは主にアメリカで、付け爪(義爪、スカルプチュアネイル)やその上に装飾を施すネールアートが流行し、追って我が国でも普及発展してきました。
日本では、欧米から導入された技術を元に、NPO法人日本ネイリスト協会が日本独自の普及活動をテキストの作成、セミナー、検定試験、コンテストなどを通じて行ってきたそうです。
【ネイルケア施術手順】
1)ファイル(ヤスリ)・・・ヤスリを用いて爪の長さや形を整えて二枚爪になることを防止する。爪に対して45~90度の角度で当てて、一方向に引き、爪の表面を削らないこと。
2)クリーンアップ・・・フィンガーボールなどに微温湯を入れて、指先を数分間浸けてふやかし、メタルプッシャーなどで、甘皮を浮かせて、ささくれや余った甘皮、爪の上の不必要な角質を除去する。キューティクルニッパーなどを用いる。
3)プレパレーション・・・ジェルネイルやアクリル樹脂による付け爪の事前処理。アクリルの持ちをよくするために、爪甲(ネイルプレート)上の不必要なルースクーティクル、汚れ、油分、水分を取り除き、ジェルやアクリル樹脂の密着度を上げるために行う。
3)仕上げ方
  1.パフィング・・・ナチュラルネイルを磨きつやを出す。
  2.ポリッシュ・・・ネイル化粧品でカラーリングして仕上げる。
  3.ジェルネイル・・・UVで硬化する人工爪で仕上げる。
  4.エクステンション・・・アクリル樹脂で長さを出す。
具体的な施術は専門書、あるいはプロの施術者に依るとしても、最近はセルフネイルブームもあり、自己流の間違い、問題点も指摘されています。注意点をピックアップしてみました。頻度的には少ないかもしれませんが、下記のような事例もあることを知ってネイル・ケア、ネイル・アートを楽しむことが大切かと思われます。
【注意点】
・ニッパーなどでカットする際に深爪はしないこと。原則スクエア・カットをする。キューティクルニッパーでのカットで生きた皮膚をカットしないこと、感染症の恐れがある。
・ヤスリ(ファイル)は両方向に引かないこと、二枚爪の恐れがある。角度に注意。目の粗さなど用途に応じて適切に使い分けること。
・メタルプッシャーなどで、過度に甘皮を後退させたり、除去したりすると爪に横溝を形成したり、爪囲炎を生じたりすることがある。
・ネイルラッカーやネイルハードナーなどによる接触皮膚炎の報告がある。日本ではホルマリンの使用は禁止されたそうだが、外国品でそれを含むものもあり、刺激、かぶれなど健康障害に注意が必要。日本人の爪は比較的強く、ネイルハードナーの使用は少ないが、(ホルマリン入りの)ハードナーを繰り返し使用すると、爪の丈夫さや耐久性を劣化させ、脆くなりやすい。
・除光液の主成分としてアセトンが使用されていることが多いが、頻回に使用すると爪甲を乾燥させ、脆く割れ易くなる(二枚爪)。
・ベースコート、トップコート、ネイルハードナー、ネイルラッカーなどはいずれも成分は類似しているので接触皮膚炎をおこす可能性はある。その際は爪甲剥離、爪下出血、爪囲炎、爪甲下角質増殖などの症状を引き起こすことがある。ただし頻度はそれ程多くない。
・濃いネイルエナメルを使用していると着色してくることがある。透明なベースコートを使用することによって防げる。
・スカルプチュアネイル(義爪)による、爪郭の発赤、腫脹、爪甲剥離などの報告がある。
・紫外線で硬化するアクリル樹脂で接触皮膚炎をおこしたケースがある。アクリルモノマーは皮膚から浸透し指の神経を刺激し、しびれ感や疼痛をきたすことがある。
・付け爪を接着する瞬間接着剤(cyanoacrylate glue)での接触皮膚炎の報告もある。
・付け爪や義爪は装着後日数がたってくると爪甲と接着面との間に隙間が生じてくるために、そこから細菌や真菌が侵入して増殖する可能性がある。緑膿菌、カンジダなどの真菌の付着に注意する必要がある。(それぞれの疾患については過去の当ブログを参照して下さい。)
・アクリルモノマーの液を誤飲してメトヘモグロビン血症になったケースがある。
・ジェルネイルやアクリルネイルを取り除く際に必要以上に削ったり、繰り返して過度にアセトンに晒したりすると爪を傷める。

参考文献

東 禹彦:爪 基礎から臨床まで. 金原出版 第1版第7刷 2013

Douglas Schoon and Robert Baran. Cosmetics: the Care and Adornment ofthe Nail. Baran and Dawber’s Diseases of the Nails and their management, Fourth Edition.
Edited by Robert Baran, David A.R.de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas. 2012 John Wiley and Sons, Ltd. p471-483

木下美穂理: ネイルケア,皮膚科医のための香粧品入門.皮膚科の臨床 Vol.56. No.11 p1680-1686, 2014