足底の色素性母斑とメラノーマ

昨年の手足のほくろとメラノーマの講演に続いて、今年は浦安で東京女子医大東医療センターの田中 勝先生の足底母斑の講演がありました。 昨年との最も大きな違いは『ためしてガッテン』の収録後の楽しそうな写真があった事でした。というのは冗談で、さらにバージョンアップされた講演でした。 講演の中での肝になりそうな点を箇条書きでリストアップしてみました。
# メラニン色素は皮溝部表皮突起でも皮丘部表皮突起でも増加します。しかしながら、なぜか角層まで色素が上昇するのは皮溝部のみです。 それで良性の足底色素細胞母斑は皮溝平行パターンをとります。
# ただ、子供の母斑や抗がん剤使用例や、Peutz-Jeghers症候群などでは皮丘平行パターンをとります。
# メラノーマでは皮丘平行パターンをとるとされますが、溝、丘のみにこだわるよりも、色素分布や色の濃淡の不規則性を重視することがより重要です。メラノーマでは色素がでたらめに増えるので、色調も不規則になって皮丘でも皮溝でも色素がムラに増えてきます。従って一部だけをみていると判断を誤ることにもなりかねません。
# 子供の母斑では、皮丘部でも色素がみられることがあります。エックリン汗管などの附属器の近くに多くみられるので、皮丘点状パターンをとることもあります。 表皮突起の部分の色素でも、足底は厚いので青くみえることもあります。
# 年をとってくると全体に色が薄くなってきて皮溝の色も薄くなってくるので、はっきりとした皮溝平行パターンがみえにくくなって診断が難しくなることもあります。
# 体重のかかるかかとなどでは、荷重のために角層がずれて斜めに分布するためにそれを真上からみると一見皮丘平行パターンにみえます。(線維状パターン、例えてみれば、ピサの斜塔が一列に並んだ状態です。しかもその始まり部は皮溝にきっちり沿っています)。エコージェルを厚く盛って斜め上から観察すると(斜めダーモ)皮溝平行パターンであることがわかります。
# 体重のかからない土踏まずなどでは、色素は格子状にみえることが多いです。荷重がかからないので、表皮突起の畝は浅くてもよいので色素細胞が畝を乗り越えて移動するからとされています。 # 真皮内にも胞巣のある複合母斑では、中央部分が青白色無構造にみえ、典型的な皮溝平行パターンがみえなくなることもありますが、周辺部でははっきりとした、規則的な皮溝平行パターンや皮丘点状パターンがみられます。
# Spitz母斑では青黒い皮丘平行パターンがみられ、streakというトゲ状の突起も周辺にみられますが、あくまで均一です。
# 趾間部分はダーモスコピーも使えず足底部は平行パターン、足背部は網状パターンとなり、判断が難しい部位です。最終的には病理組織検査の結果によります。
#指紋の間隔は0.5mmですので、ダーモスコピーの画像をみていれば、大きさを図らなくてもほぼ正確にその像の大きさが解ります。
# high dynamic range(HDR)画像変換を行えば画像のコントラストが高まり、構造物を明瞭に認識できるようになり,ダーモスコピー所見の把握が正確になります。しかし色調は変わるために元のダーモスコピー像をチェックする必要があります。

皮膚溝

講演当日の資料より (掲載のお断りはしていませんが、言葉でいうより目で見たほうが断然分かり易いので拝借しました)

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線維状パターンが皮丘平行にみえる理由.荷重で角層がずれると真上から眺めると皮丘に色素があるようにみえる

ALM2

メラノーマでは色素はアトランダムにばらばらに増えるので、色素の分布も濃度もムラのあるものになる

汗管

走査電子顕微鏡で表皮を真皮側から見た図

以下のダーモスコピーの写真は千葉大学医学部皮膚科外川八英先生から提供していただいたもです。

PFP1

典型的なparallel furrow pattern(PFP). 皮溝に一致する平行線状の色素沈着がみられる

fibrilar1

細線維状パターン.始まりは皮溝に一致している.

Fibrillar pattern1

線維状パターン.一見皮丘にも色素があるようにみえる

Fibrillar ななめダーモ1

斜めダーモで傾けて観察すると皮溝一致であることがわかる

Latticelike1

格子状パターン

ALM1

ALM(acral lentiginous melanoma)末端黒子型黒色腫.日本人ではこのタイプのメラノーマが全悪性黒色腫の50%近くを占める.早期は黒褐色斑として生じ、進行すれば結節や潰瘍を生じる.PRP(parallel ridge pattern)皮丘平行パターンがみられる.不規則で無秩序な濃淡差のある色素沈着である.

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ALMの病理組織所見.表皮真皮境界部に黒色腫細胞の胞巣形成が見られる.一部では腫瘍細胞の真皮内への滴落、浸潤もみられる.