下肢静脈瘤・深部静脈血栓症

深部静脈血栓症・エコノミークラス症候群などは皮膚科開業医とは無縁のものと思っていましたが、先日立て続けに2人の患者さんにぶつかりました。
エコノミークラス症候群とは下肢の深部静脈血栓症を契機にして、肺塞栓を生じたものを呼びますが何もエコノミークラスに限って発生するわけではないので、最近は旅行者血栓症と呼ばれることが多いそうです。

 一人は腰椎ヘルニアで総合病院の整形外科に通院中の患者さんで、年末より左下肢にむくみがでてきました。潮紅、浮腫がみられましたが、整形外科医からは皮膚科に行くように言われたとのことでした。痛みも熱感もないので、蜂窩織炎というよりも血管系の問題ではないかと思い、やはりその総合病院で診てもらった方がいいのではと説明し逆紹介状を付けて戻ってもらいました。後日、皮膚科からの返信をみてびっくりしてしまいました。皮膚科から念のため内科で診てもらったら、深部静脈血栓症に肺塞栓を併発していて緊急入院となったとのことでした。漠然と静脈炎などを想定していましたが、肺塞栓までは考えが及びませんでした。
 もう一人は、乾癬の患者さんで、以前から両下肢のむくみがあり、東京の病院でも血管系の異常はなく、千葉の総合病院の血管外科にも紹介しましたが、血管系の異常はないとのことでした。乾癬の皮疹もひどく、その炎症のせいもあるのかな、と思っていましたが、急に下肢が痛くなり腫れがひどくなったと受診しました。再度紹介するのも気が引けましたが、あまりに痛がり、索状のしこりもあるので紹介状を書きました。返信では深部静脈血栓でワーファリンの投与を始めたとありました。

下肢の脈管系の診断は難しく、我々のような皮膚科開業医にとっては診断、治療も困難です。しかし、それによる下腿の皮膚炎、潰瘍は結構多くみられます。
これを契機にこれらについて調べてみました。たまたま目にした日本医師会雑誌の平成25年12月号に「末梢動脈・静脈・リンパ管の病気update」という特集記事があり、参考になりました。Visual Dermatology [特集]下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 という特集号も参考になりました。

近年、日本は高齢化が急速に進み、生活様式、食生活が欧米化しPAD(peripheral arterial disease)と呼ばれる末梢の動脈硬化症が増加しているそうです。またその中でも重症虚血肢(Critical limb Ischemia: CLI)と呼ばれる下肢切断に至るような重症例も増加傾向にあるそうです。CLIで下肢切断に至った場合はなんと肺癌患者の5年生存率よりも予後が悪いということです。普段患者さんの足を最もよくみる機会があるのが皮膚科医だろうと思います。皮膚科医がこれらを治療することはできませんが、病初期に発見してゲートキーパーとして、コーディネーターとして専門医に橋渡しする役割が重要になるポジションです。
下肢の脈管疾患をここで全部取り上げるのはとてもできませんので、静脈に絞って取り上げてみたいと思います。
前説が長くなってしまいました。本題は次回に。