白馬岳遭難に思うこと

ゴールデンウイーク後半に、白馬岳で6人パーティーが荒天に襲われて遭難、命を落とした事故がありました。海外にいてインターネットで知りましたが、当初のマスコミ報道はTシャツなどの軽装備による不注意な遭難といった感じの報道でした。
そんなものかな、と思っていましたが、当事者などの証言など現場の状況が明らかになるにつれ、だいぶ真相は当初の報道とは異なっていることが明らかになってきました。
しかも、遭難者は北九州の医師を中心とした中高年の登山グループでした。他人事ではないなという思いと一体全体どうしてあのような悲惨な結末に陥ったのだろうという思いがずっと続いていました。最近の登山専門誌に同時刻に同ルートを踏破して白馬山荘に辿りつき翌日下山中に遭難者を発見した単独登山者(T氏,57歳)の手記があり、それをもとに捜索関係者も含めて事故と当時の状況を検証した記事が載っていました。それで大分当時の状況が分かってきました。
6人のパーティーは5月4日の午前5時半に栂池ヒュッテを出発しました。T氏は朝一番のゴンドラに乗り、同所を8時40分に出発しました。青空が広がり、強い日差しがあったのが、10時過ぎから雨が落ちてきました。T氏は午後の悪天候を予想して、白馬大池への夏道コースを取らずに、乗鞍岳からショートカットして稜線へ直登しました。正午過ぎには横なぐりの雨がみぞれに変化、12時45分頃、船越の頭を過ぎてT氏は前を行く6人パーティーを追い越しました。彼らはベテラン風で雨対策はしっかりしていたものの、2番手が空荷、3番手が前後にザックを抱え、皆がばてたメンバーにペースを合わせている様子だったと述べています。それから1時間後にT氏が小蓮華山に立った時は猛烈な風雪が吹き荒れていたといいます。ここで彼は進退の決断に迫られました。附近は凍りつき、雪洞も掘れる場所はない、風速20m以上の吹きさらしの稜線ではツェルトを被っても1晩は持たないだろうと思ったが、体力を全部使ってあと2時間休みなしに歩き山荘にたどり着こうと意を決したといいます。そして、実際に15時40分ほぼ夏時間と同程度の時間で全身が凍りつきながら山荘に着いています。まともに歩けず、両手のストックにすがり、4本足状態で前進したといいます。右腕で口もとを覆って呼吸を確保したといいます。
遭難パーティーのその後の行動は不明ですが、三国境で6人かたまって亡くなっているのが発見されました。小蓮華山から夏時間で30分の所です。無積雪期ならば白馬頂上まではわずかに1時間の所です。
遭難者の服装は当初報道されたような軽装ではなく、上着は3~4枚、中には7枚着込んでいた人もいた、しかも2人は中にダウンを着ていた、とのことです。山岳遭難救助隊の専門家によると低体温症で亡くなる遭難者のグループは一人一人が動けるところまで動き、ばらばらで見つかるケースが多いということですが、今回の事故について「まとまって遺体が見つかるのは珍しく、風が強くて行動がとれなかったか、一緒に動こうという意思があったのかのどちらかだろう」と推測しています。
別の専門家は「若い登山者なら8時間のコース、(6人パーティーはこの1.5倍の12時間の所要時間を見込んで山荘に予約を入れていたそうですが)通常60~70代が1日に歩くのは8時間が限界。体力の限界を超えた所で何かあったら即、遭難だ。今回はその何かが荒天だった。」と指摘しています。
今回のパーティーは海外登山の経験もあるベテランもいたとのことですが、12時間の予定時間はともかく、小蓮華山の手前で空荷で歩く程の不調者がいて、T氏が4時間で到達した所を7時間超かかっています。彼らが小蓮華山に到達した頃にはT氏の後ですので更に悪絶な状況だったでしょう。これだけタイムオーバーして不調者がいて引き返すというオプションはなかったのでしょうか。あるいは想定外の荒天に進むも地獄、退くも地獄といった窮地に陥り必死で山荘に辿り着こうと前進したのかもしれません。ただ、最期まで友を見捨てずに一緒に行動しひと固まりになって死んでいったのには並々ならぬ覚悟を感じずにはおれません。勝てば官軍、負ければ賊軍ではないですが、かなり批難記事もみられましたが最期まで頑張った彼らのご冥福を祈らずにはおれません。
あの山域では、小生も若い頃11月の白馬から蓮華温泉、5月の白馬から五竜遠見まで縦走、正月の遠見尾根、3月の鹿島槍天狗尾根などの経験はありますが、幸いに暴風雪には見舞われずに済みました。つくづく山の天候の急変の怖さに驚かされます。昔とった杵柄は年寄りの冷や水になり兼ねません。体力、気力の衰えは抗いがたいものがあります。
しかし、また一方で三浦雄一郎氏や渡辺玉枝女史など老いてもなおエベレストに登頂するなど元気な人もいます。人間の弱さ、脆さと同時に不思議さ、強さも思い知らされます。
自分の実力・現状を知って行動すること、大切でありながら結構難しいことです。

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