ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome: SSSS;4S)は黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin:ET)によって全身に表皮剥離、びらんが生じる疾患です。
細菌の産生する毒度によって生じる全身性疾患を細菌毒素関連感染症と呼び、SSSSの他にはトキシックショック症候群(黄色ブドウ球菌)、トキシックショック様症候群(溶連菌)、猩紅熱などがあります。この中で頻度の最も高いものがSSSSです。
主に乳児から幼児期に見られ、発熱を伴って顔面の特に眼瞼周囲、鼻、口囲に紅斑、水疱、ビラン、痂皮を生じ口囲に放射状の亀裂、眼脂が見られます。次いで頚部、腋窩、鼠蹊部などの間擦部に潮紅が見られ、数日内に躯幹、次いで四肢と下降性に熱傷様、猩紅熱様の紅斑が広がり、小水疱、表皮剥離を生じてきます。接触痛があります。表皮は一見正常でも摩擦によって容易に剥がれます(Nikolsky現象)。体幹部は米糠様、小葉状ですが、手足では膜様の落屑を生じます。5、6日目を極期として数週間内には治癒に向かいます。全身性に紅斑が拡がる典型例の他に限局性の表皮剥離に留まる型もあります。一般的には適切な治療を行えば予後は良好ですが、一部新生児、免疫低下の成人などでは重篤になる事もあります。
黄色ブドウ球菌は顔面のビラン、痂皮部位では陽性ですが、躯幹四肢の紅斑、水疱、落屑部では基本的に陰性です。これは皮疹が細菌感染そのものによるものではなく血中から全身に波及した表皮剥脱毒素(ET)によるものだからです。ETはデスモグレインIに特異的に作用するセリンプロテアーゼで、この酵素作用により落葉状天疱瘡と同様に表皮角化細胞の顆粒層レベルで棘融解が生じ浅い水疱を形成します。
治療は軽症例を除いて、原則的に入院治療を行います。黄色ブドウ球菌に有効な抗生剤を用いますが、近年MRSA(多くはCA-MRSA)によるものの割合が増加傾向にあるので、培養結果、あるいは治療効果をみて、数日後に薬剤変更も考慮します。軽症ならば第一世代のせフェム系抗菌剤などを使用しますが、重症のMRSAではバンコマイシンの点滴静注などが用いられます。外用は特に必要はありませんが、皮膚の保護のために顔面はワセリン、アズノールなど、びらん、痂皮、水疱にはアクアチム、ゲーベンなどが用いられる事もあります。また同時に脱水などに対し、補液などの全身管理も重要となります。
診断は顔面体幹の典型疹や黄色ブドウ球菌の検出でできますが、時には薬疹、中毒疹、Stevens-Johnson症候群、TEN(中毒性表皮壊死症)などとの鑑別が難しいケースもあります。それらの場合は、薬剤使用歴、臨床症状、検査所見、組織所見などを総合して判断します。
近着の皮膚科雑誌に、高齢者でTENとの鑑別が困難なSSSS患者の症例報告が出ていて、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン療法、MRSAに対する抗菌剤の治療など懸命な入院治療を行ったにも拘らず不幸な転帰をとったとの事でした。やはり高齢者では薬疹などの可能性も多く、免疫力は低下していて、典型的でないコースをとることもあり、十分な検討が必要であること、それでもなお予後の悪いことを認識し、家族へも重篤な事を十分に丁寧に説明しておくことが重要だと認識させられました。
さらに、初期治療としては両者の鑑別が困難な例では、両者に対して共通の治療になりうる血漿交換療法を出来るだけ早く導入する事が、治療の選択肢であると述べられていました。