蕁麻疹って何? 原因は?

前回の蕁麻疹の記事で、自分的(医師的)には十分説明できたと自己満足したかに思えましたが、その後も外来のなかなか治らない蕁麻疹患者さんへの説明でも十分にうまくできなくもどかしい思いがあります。

まず、蕁麻疹って何か、という診断は比較的明確、簡単で専門知識は要りません。
「赤み(紅斑)を伴う一過性、限局性の腫れ、むくみ(浮腫)が病的に出没する疾患」と定義されます。一過性とは数十分~数時間、長いものでは1日、さらに例外的には2~3日までありますが、皮疹消退後は跡形を残さないことが特徴です。
何日もずっと消えないという人がいますが、個別の部位のことについて一過性ということです。こちらは消えてもまた他部位にでてずっと出没が続くことはあります。
逆に同じ場所がずっと赤く、かさかさしたり、ただれたりしていてあとが残り何日も消えないのならばそれは蕁麻疹ではありません。

蕁麻疹の原因は何か? こちらははなかなか難問です。
「そもそもアレルギー(食物)性の蕁麻疹は4-5%とほんの僅かですよ、自分でも原因(誘因)がわからなければそれは特発性の蕁麻疹で1,2か月も続いていれば、慢性特発性蕁麻疹でほとんどの人がそうです。」
ガイドラインにそってしっかり説明したつもりでも、では原因は何ですか、という質問には全く答えになっていないことに今更愕然とします。
「特発性です」というのは原因は分かりませんと答えているのにほぼ等しい感があります。長く説明すればするほど深みにはまり患者さんは困惑していきます。世界中の学者が解明できていないことが一開業医に説明できる(解る)わけがありません。
日本の蕁麻疹の第一人者の秀先生の著書から引用すると
「原因が不明であるという現状は、あくまで現在の医学では蕁麻疹の症状をもたらす他の明らかな疾患ないし病態が明らかにされていないということであって、特発性の蕁麻疹に原因がないということでも、原因を解明することを否定しているわけでもない。事実特発性の蕁麻疹に含まれる慢性蕁麻疹ではIgE(免疫グロブリンE:immunoglobulin E)および高親和性蕁麻疹受容体に対する自己抗体が検出されるものがあり、その頻度は25~50%ともいわれる。」
「抗IgEモノクローナル抗体であるオマリズマブは、アレルギー性の蕁麻疹のはか、ほとんどすべての蕁麻疹の病型に有効であることが明らかになり、蕁麻疹の病態におけるIgEの役割が再び注目を浴びつつある。」
要するに学者(医者)は努力し、研究し続けているけれどもまだその真の原因は分かっていないという現況のようです。
秀先生は更に、一般的に蕁麻疹の患者さんが陥りやすいフラストレーションのたまる思考パターンについて次のように述べています。
次々に出没する蕁麻疹に対し、患者はそのつど新しい原因に遭遇したように感じる。
➡食物や生活の中に原因を探すが、直接的な原因が同定できないことに気付く。
(食物やアレルギーを疑う。)
➡体の内部に継続的な異変を想定する。(内臓疾患の存在を疑う。)
*いずれの場合もある一つの原因があり、それを取り除けば治る、取り除かないと治らないと考える傾向がある。
*その意味で、慢性蕁麻疹における自己抗体は、それを取り除くことができない点で患者の求める原因とはなりにくい。
*物理的蕁麻疹における各物理的刺激(寒冷、温熱、日光など)、コリン性蕁麻疹における発汗もまた同様である。
*逆に刺激誘発型の蕁麻疹でその誘発物質が同定できればそれらを回避できることが多く、これらは原因として受け入れられやすい。

そもそも蕁麻疹の発症は直接的因子だけではなく、背景因子(ストレス、寝不足、風邪、体調不良・・・)など個体側の過敏に反応する異常状態などが複合的にからみあって発症することが多く、単一の原因にのみよらないことが多いことを理解すること、個別ごとにそれぞれの課題を明らかにしていくことが重要です。

全体像は以上のようですが、現代の医学で全く蕁麻疹の病態、原因の解明が進歩していないわけではありません。マスト細胞の脱顆粒をもたらす分子機構、免疫機構、脱顆粒以外の活性化機構もすこしずつ解明されつつあるそうです。
その一端を列記します。

前述のようにIgEを介した反応以外にもさまざまな刺激因子がマスト細胞を活性化して蕁麻疹を起こします。しかし慢性特発性蕁麻疹の患者さんでは血清総IgE値が多い傾向があることや、オマリズマブの有効性からIgEが慢性蕁麻疹の病態に重要な役割を担っていることは疑う余地はありません。
マスト細胞の脱顆粒に関係するIgEとその関連分子について説明すると。
マスト細胞の表面には高親和性IgE受容体(FcεRI)があり、これにIgEが付着した状態を感作といいます。
🔷代表的な活性化機序は、隣り合ったIgEに抗原がくっついて架橋をして、活性化するというものです。その反応で脱顆粒を起こし、ヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)を放出して皮膚微小血管と神経に作用して、血管拡張(紅斑)、血漿成分の漏出(膨疹)、かゆみを生じます。
例えれば、細胞の受容体の上に、Yの字型のIgEがくっつき、その2つのYが抗原で手を繋いだ状態が架橋です。
架橋は外来抗原以外でも可能です。例えば以下に挙げる各種自己抗体などです。
🔷自己抗体について
1983年 甲状腺自己抗体と慢性蕁麻疹の関連報告(Leznoff)
1986年 慢性蕁麻疹患者の中に自己血清の皮内注射で膨疹が誘発される者があると報告(Gruber)
1988年 特発性慢性蕁麻疹患者血清中に抗IgE-IgG抗体の存在を証明(Gruber)
1993年 特発性慢性蕁麻疹患者血清中にFcεRIに対する自己IgG抗体の存在を証明(秀 道広)
しかし、これらの自己抗体は他の疾患でも検出されることもあり、自己抗体の脱顆粒能力には患者間の個体差が大きい、陽性になるのは半数以下など、慢性蕁麻疹における自己抗体の役割は不明な点が多い状況です。

マスト細胞の脱顆粒は上記のアレルギー性の他に、非アレルギー性(物理的刺激、ホルモン、自律神経、薬剤、食物、運動、飲酒)などでも起こることが分かっています。これ等の因子が複雑に絡みあい、その積算が一定の閾値を超えた時に脱顆粒が起き、蕁麻疹が誘発される、逆にいうといずれかの因子を取り除き、反応閾値を下回れば症状はおさまると考えればわかり易いと思います。

さらに近年は、そればかりではなくToll-like receptor(TLR)を介した自然免疫や凝固系の異常、クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)におけるNLRP3 遺伝子変異によるinflammasomeの異常など様々な因子の異常で発症する蕁麻疹もあることなど、一元的ではない、一筋縄ではいかない蕁麻疹の病態解明も進んできているとのことです。

参考文献

皮膚科臨床アセット 16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター 総編集◎古江増隆 専門編集◎秀 道広 東京 中山書店 2013

Derma 2018年11月号 No.276
これで困らない! 蕁麻疹患者の対応法 ◆編集企画◆平郡隆明
葉山惟大 オマリズマブをどうつかうか pp43-50