リウマトイド血管炎/悪性関節リウマチ

関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)は関節滑膜炎と骨・軟骨破壊を特徴とする全身性自己免疫疾患ですが、関節以外にもさまざまな臨床症状を伴います。
1951年 SokoloffらはRA患者の筋生検で約1割に動脈周囲炎がみられたことを報告し、1954年にはBevansらが急性の関節外症状によって死亡したRAの2剖検例を悪性関節リウマチ( Malignant RA: MRA)の名称で報告しました。
病理学的に血管炎を認めたものをリウマトイド血管炎(Rheumatoid Vasculitis :RV)と呼びます。RAの関節外症状には血管炎と似た症状を呈する病態が多くみられます。
膠原繊維の変性、血管内膜の線維性肥厚、動脈硬化および動静脈の血栓形成によってもたらされた潰瘍、網状皮斑、これらは臨床的には血管炎と区別がつかない場合も多々あります。したがって真の血管炎と診断するには病理診断が必須となってきます。
その後、欧米では血管炎を伴ったRAはRVと呼ばれるようになり、MRAという呼称は用いられなくなって日本独自の呼称となりました。
厚労省研究班の定義によればMRAとは「血管炎をはじめとする関節外症状を認め、難治性もしくは重篤な臨床病態を示すRA」と定義されていて、1973年から特定疾患(現指定難病)として公費負担の対象となっています。MRAの診断項目には血管炎との関連が明らかでない肺線維症、間質性肺炎、胸膜炎などが含まれており、MRAとRVは同一ではありません。しかしながら、MRAの病態の中核をになうものはRVであることは事実であり、MRAはそれを包括した概念といえるかと思われます。
Chapel-Hill分類(CHCC2012)ではRVとして記載されていますが、実臨床に即して、本邦の血管炎症候群の診療ガイドラインにならってMRAについてまとめてみました。
【疫学】
MRAはRA患者の0.6-1.0%にみられ、医療費助成受給者数は平成25年度で6697人となっており、年々増加傾向にあります。診断時の年齢のピークは60歳代で男女比は1:2で女性が多いです。ただし、MRAとしてみると男性が多い傾向にあります。近年ではMTXをはじめとした早期治療の進歩によって、RVの発生頻度は減少傾向にあるとのことです。
【発症機序】
不明ですが、血管炎の発症には、血管を標的にする自己抗体の関与、免疫複合体沈着による炎症の惹起、局所における細胞性免疫の活性化などが関与していると考えられています。それで、炎症局所においては免疫グロブリン、C3,C4の沈着があり、血清中のリウマトイド因子(rheumatoid factor: RF)が高値を示し、免疫複合体陽性、低補体価がみられます。
RVの遺伝的因子として、HLA-C*03が独立した危険因子で、KIR2DS2を介してナチュラルキラーT細胞活性化に関与していると考えられています。RVではRAよりもHLA-DRB1*0401との関連が強いとされます。また環境因子としては喫煙が強い関連があるとされます。
【病理所見】
MRAのスペクトラムは広く、末梢の小血管炎から中枢の中型血管炎にまで及びます。侵される血管炎の大きさによって、臨床症状も多彩となります。
血管炎の所見は今まで述べてきたものと同様ですので、詳記しませんが、小型では白血球破砕性血管炎で免疫複合体性血管炎を、中型動脈の血管炎ではPANに類似するpauci-immune 型血管炎を呈します。また一部では、リウマトイド結節様の肉芽腫性血管炎(palisading granuloma)を呈します。
またMRAには血管炎に関係しない間質性肺炎や肺線維症が主体の肺臓炎もあります。
【臨床症状】
皮膚では真皮細静脈から皮下組織の筋性中型血管まで幅広いレベルを障害するために、紫斑、網状皮斑、白色萎縮、爪下出血、爪周囲血栓、皮膚潰瘍、指趾壊疽、壊疽性膿皮症など様々な皮膚症状がみられます。多発神経炎、上強膜炎、臓器病変を反映して、発熱、体重減少、漿膜炎、腸管、腎、脾臓、膵臓、睾丸などの血管炎による炎症症状を呈します。また血管炎以外に間質性肺炎・肺線維症、リウマトイド結節などを認めることもあります。通常肘などにできますが、後頭部、まれには肺内にできることもあります。
【検査所見】
RVに特異的な検査はありません。白血球、血小板増多、CRP上昇、赤沈値亢進などの炎症症状を認めます。高ガンマグロブリン血症、抗シトルリン化ペプチド(cyclic citrullinated peptide: CCP)抗体陽性、RAHA, RAPAテストが2500倍以上、RF 960 IU/ml以上が診断基準の1項目となっています。抗CCP抗体はRAの早期診断に有用なマーカーで、さらにこれの陽性例は陰性例と比較して関節破壊が進行し易いとの報告があり、EULAR/ACRから出されたRAの新分類基準に取り入れられています。

【診断基準・重症度】
臨床症状、組織所見、検査所見などを総合して診断基準が設けられています。また血管炎症状、心肺症状、腎臓、視力、関節、神経症状などの程度により、1度から5度までの重症度に分けられており、3度以上が厚労省MRAの認定対象となっています。
【治療】
MRAやRVは病態や重症度が多彩であるために、個々の病態ごとに治療薬が選択されます。
・活動性のRAがあり、メトトレキサート(MTX)の禁忌がなければ、軽症の血管炎に対してはMTXをはじめとする抗リウマチ薬(disease-modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)が用いられます。
・皮膚病変や漿膜炎のみの場合は中等度ステロイド(PSL換算0.5mg/kg/日)を使用、多発神経炎、多臓器障害、急性・亜急性間質性肺炎などでは主にステロイドパルス療法(mPSL 1000mg 点滴静注 3日間)を含む高用量ステロイド(PSL換算 1mg/kg/日)が施行されます。
・重症の全身性血管炎では以前から静注シクロホスファマイド(IVCY)(500-750mg/m2/月)または経口CY(1-2mg/kg/日)が用いられています。しかし副作用として、重症感染症、膀胱がん、血液系悪性腫瘍の報告もなされていますので、使用に際しては注意が必要です。軽症例、維持療法としてはより安全なアザチオプリン(1-2mg/kg/日)が用いられています。
・近年はTNF阻害薬などの生物学的製剤も重症例に用いられています。またリツキシマブ(抗CD20抗体)、トシリズマブ(抗IL-6レセプター抗体)、アバタセプト(CTLA-4Ig)なども有効との報告がなされてきています。
しかしながらTNF阻害薬をはじめとした生物学的製剤による血管炎発症の報告もあり注意が必要です。
RVに基づかないリウマチ肺への抗TNFα製剤の使用はコンセンサスがなく、少なくとも進行性の間質性肺炎を伴う場合は使用しない方がよいとされます。
・保険適用外ながら、治療抵抗例では血漿交換療法や高用量ガンマグロブリン静注療法(IVIG)がRVに有効との報告もあります。
【RAによる下腿足部潰瘍】
RAの約10%に足部潰瘍が生じると報告されています。好発部位は中足趾節間(MTP)関節、趾節間(IP)関節、次いで第1足趾MTP内側です。多くは表層性の潰瘍で、多発再発し易いです。足変形、感覚脱失、足関節/上腕血圧比(ankle brachial pressure index: ABPI)の低下は足部潰瘍のリスクを上昇させます。原因は多彩で血管炎によるものは少なく、末梢循環障害、疾患活動性、ステロイド内服、感染症などの原因の精査が必要で、その上で一般的な創傷治療の手順によって治療を行います。治療では血管炎の有無を見極めることが大切で、そのためにも病理所見が必要とされます。非血管炎の場合は多くは強い循環障害と考えられ、「静脈うっ滞による下腿潰瘍」「圧迫に伴う軟部組織の虚血性壊死による潰瘍」(関節の変形や拘縮および装具の不適切な装着などが原因)、「皮膚の脆弱性を基盤とした外傷性潰瘍」などが原因となってきます。

血管炎症候群の診療ガイドライン (2017年改訂版)ⅩⅣ.悪性関節リウマチ ー 日本循環器学会  より 抜粋 まとめ

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

血管炎・血管障害診療ガイドライン 2016改訂版 日皮会誌:127(3) 299-415,2017(平成29)

創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン4:膠原病・血管炎にともなう皮膚潰瘍診療ガイドライン 日皮会誌:127(10), 2239-2259, 2017 (平成29)

関節リウマチに伴う皮膚病変 池田 高治 pp262-265
皮膚科臨床アセット 7 皮膚科膠原病診療のすべて 総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一 東京 中山書店 2011