浅在性血栓性静脈炎

浅在性血栓性静脈炎は下肢を中心とした皮下組織の浅在性静脈に好発し、表在静脈に沿って索状、または指頭大までの有痛性の浸潤性紅斑または結節を形成する疾患です。
その原因は多くありますが、大きく分けると(1)凝固線溶系の異常に伴って生じるもの、(2)膠原病やベーチェット病などの炎症性疾患、感染症、悪性腫瘍、静脈瘤、静脈損傷などの原因があって、それに伴って生じるもの、(3)原因の不明なものに分けられます。
一般的には安静と消炎剤などの治療で数週間以内に治癒し、予後は良いとされますが、一部では深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis :DVT)を合併し、その際は心臓、肺などの塞栓、血栓に対する予防、治療が必要となってきます。
【病因】
いわゆるVirchowの3原因が基になって発症しますが、原因不明なものもみられます。
(1)静脈内膜の炎症、外傷および感染による損傷
(2)血液の凝固能の亢進
(3)血流の停滞または緩徐
【臨床症状】
主に下肢の表在静脈に沿って索状の硬結、浸潤性紅斑を認めますが、指頭大までの紅斑、結節を散在性にみることもあります。またときに上肢、躯幹にもみられる場合があります。急性期では紅斑と疼痛が強く、慢性期になると網状皮斑が混在してきます。皮疹の発現とともに発熱、足や膝などの関節痛を伴うこともあります。
青壮年に多い多発性浅在性血栓性静脈炎は、臨床症状も病理所見も結節性多発動脈炎に類似しているために皮膚型結節性多発動脈炎(cPAN)によく誤診されるとのことです。
胸部や陰茎に生じた索状の硬結はモンドール病(Mondor病)ともよばれますが、経過観察のみで消退することがほとんどです。
【病理所見】
動脈炎と同様に急性期、修復期および瘢痕期に分けられます。これらは混在してみられることが多いです。
(1)急性期・・・血管腔内にフィブリン血栓があり、血管壁、腔、周囲に核塵を伴う好中球主体の細胞浸潤を認めます。
(2)亜急性~修復期・・・細胞浸潤は組織球、リンパ球が主体となり、好中球も混じています。また血管壁、周囲に新生血管や膠原線維の増生がみられます。
(3)瘢痕期・・・細胞浸潤が乏しく、新生血管や膠原線維の増生がより顕著にみられます。血管の再疎通を示す器質化像がみられます。
【治療】
急性期には安静時下肢挙上(15~30度)、長時間の立位や座位を避けます。非ステロイド抗炎症鎮痛剤を投与します。筋痛など疼痛が強い場合は2週間以内のステロイド剤の投与(プレドニン20mg/日程度)を行います。
原因が明らかなものはそれに対する治療を行います。
大腿部のもの、腫瘍随伴性のもの、ベーチェット病に伴うものなどではDVTを伴いやすいので、弾性ストッキングの着用、抗凝固剤やヘパリンの投与などをおこないます。

線溶系の異常によって生じるものは頻度は少ないものの青壮年の繰り返し発症する血栓性静脈炎ではプロテインCやプロテインS欠乏症、ファクターVⅢの上昇、プロトロンビン、ファクターⅤなどの遺伝子の異常による線溶系の異常も疑ってみることも大切です。
また基本的には血管炎ではありませんがその類似疾患として抗リン脂質抗体症候群では動静脈の血栓症や習慣性流産をきたしますのでそのような場合には抗リン脂質抗体の測定が重要になってきます。

また先に述べたように青壮年の多発血栓性静脈炎は臨床症状も組織所見もあたかも結節性動脈炎の像と類似していますので注意が必要です。(「皮膚血管炎は下腿に多いのが特徴である。その原因が動脈炎か静脈炎かによって治療方針は大きく異なるので、動脈炎と誤認された場合の過大な治療を避けるためにも正確な病理組織診断が大事である。したがって、皮下組織における下腿小動静脈炎の鑑別は血管壁の厚さ、内弾性板の有無だけでなく、血管壁の弾性線維および筋層構造の評価を加えて診断を下すべきである。」
動脈・・・平滑筋細胞の走行が同心円状。隙間の少ない緊密な筋層構造、弾性線維が乏しく、1本のはっきりした内弾性板を有する。
静脈・・・平滑筋細胞が索状構造を呈し互いに隙間を有する。時に静脈弁を認める。豊富な弾性線維に挟まれて平滑筋細胞は不規則な索状を呈する。1~数本の弾性線維がみられる外膜は動脈の内弾性板と誤認されやすい。

腫瘍随伴性血栓性静脈炎では膵癌が有名です。再発性、難治性の場合はそれを否定しておくことも重要です。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013  より抜粋 まとめ

参考文献

下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田泰之 Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 中山書店 東京 2011