MTX乾癬に保険適用

メトトレキサート(methotrexate:MTX)が最近乾癬治療薬として保険診療で使えるようになりました。
MTXは元々乾癬治療薬としてずっと以前(1960年代)から世界中では使われていました。しかしながら本邦では一部では使われてはいたものの、未承認薬でした。安価で効果がある薬なのに適応外使用なのでもしも重篤な副作用が発現すると救済されず、下手をすると訴えられかねず、学会で話題にはなるものの誰もが顧みなくなったMTXを発掘、蘇生させることは、「誰が猫の首に鈴をつけるか」の例えのごとく実現は困難と思われていました。自虐的に「日本はガラパゴスだから」といわれることもあったようです。
 その流れが変わってきたのは、種々の要因があるようです。一つは海外では乾癬標準薬として使われていて、日本だけが取り残されていた現状です。関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)や乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA)によく効き、1988年には米国FDAでRA薬として承認され、海外ではRA治療の第一選択薬となり、本邦でも1999年にRA治療薬として承認されました。ただすでに1963年にはMTXは経口白血病治療薬として本邦でも発売されています。
 そして、更に乾癬でのMTXの存在意義を高めたのが、近年(日本では2010年から)使用されるようになってきた生物学的製剤との併用療法でしょう。レミケードなどのバイオ製剤とMTXを併用することで、その効果が高まり、抗薬剤抗体出現による二次無効を減らせることがわかり、この治療は全世界的にスタンダードとなってきました。
そのような現状を踏まえ、日本皮膚科学会から2014年に厚生労働省にMTX(リウマトレックス)の乾癬への適応拡大を求める要望書が提出され、公知申請が了承されて本年春に晴れて承認の運びとなったということです。
【公知申請とは】
臨床での使用実態がある未承認薬・適応外薬のうち、科学的根拠に基づき医学薬学上公知と認められた薬剤について、新たな臨床試験の全部または一部を行うことなく新規に効能効果等を追加する承認申請様式のこと。

その困難な申請の長い道程をリードしてきたのが自治医科大学の大槻マミ太郎先生でした。近着のMTX特集号のVisual Dermatologyの巻頭言の最後に苦労話が書いてありました。
「今あらためて感謝したいのは、5年前寿司屋のカウンターで背中を押して(火を焚き付けて)くれた佐野栄紀先生、孤独な一人旅の途中から手を貸して一緒に歩んでくれた五十嵐敦之先生、いつも見守って優しい言葉をかけてくれた森田明理先生、PMDAに出向以来裏で支えてくれた種瀬啓士先生である。そして古い症例を掘りおこして本号に寄稿してくださった執筆者の先生、二度のアンケートの調査に快くご協力いただいた生物学的製剤使用承認施設の皆様にも、心からお礼申し上げたい。」

大槻先生の渾身の特集号となっている雑誌からMTXについてその一部をまとめてみたいと思います。(次回)

特集 皮膚科で使うMTXの完全マニュアル 責任編集 大槻マミ太郎 Visual Dermatology Vol.18 No.1 2019