薬による光線過敏症

先日の横浜での日本皮膚科学会総会では、久しぶりに光線過敏症のセッションを覗いてみました。光線過敏症UPDATEという教育講演でした。
皮膚科医なら誰もが知っておくべき光線過敏症の基礎的知識を最近の話題を交えて提供する、というものでした。
光線過敏症には、色素性乾皮症などの遺伝性光線過敏症やポルフィリン症などの重要な疾患もありますが、極まれです。日常診療で出会うのは、日光蕁麻疹や、多形日光疹、それにこれから述べる外因性光線過敏症などです。
外因性光線過敏症:最近の話題という演題で金沢赤十字病院の川原繁先生の講演がありました。その内容をまとめてみました。
主な外因性光線過症には薬剤性光線過敏症と光接触皮膚炎があります。
1) 薬剤性光線過敏症
2000年以前はニューキノロン系抗菌薬や非ステロイド抗炎症薬による報告が多かったのですが、2006年以降、高血圧の治療薬として、チアジド系降圧利尿薬であるヒドロクロロチアジドとアンギオテンシン2受容体拮抗薬(ARB: Angiotensin ⅡReceptor Blocker)を含む合剤が発売された結果、ヒドロクロロチアジドによる光線過敏症が増加してきているとのことです。
ARBは血管を収縮させるアンギオテンシンⅡという物質の受容体を阻害することによって血管を拡張させ、水分や電解質を調整し血圧を下げる効果があります。
また、ヒドロクロロチアジドは昔から使われていた降圧利尿薬で、体の余分な水分を塩分とともに尿に排出して血圧を下げる効果があります。
この合剤はそれぞれの効果の相乗作用と、副作用を相殺する効果より、高血圧のガイドラインでも推奨されているとのことです。
プレミネントは日本で初めて発売された合剤でARBのロサルタン(ニューロタン)と通常の1/2量(12.5mg)のヒドロクロロチアジドからなっています。
同剤の発売以降、光線過敏症の報告が多数みられています。以前はサイアザイド系降圧利尿剤が多く使われていたので、これによる光線過敏症が多かったのですが、その後は使用が減ったので、報告例も減少していました。
 プレミネントに引き続き、コディオ、エカード、ミコンビ、さらに最近イルトラが発売され、今後さらにこの手の薬剤性光線過敏症が増えることが危惧されるとのことです。
 ヒドロクロロチアジドは基本骨格がスルフォンアミド構造( -S(=O)2-NR2や-S(-O)2-NH2 )を持ち、他にもラシックス、アマリール、サルファ剤、セレコックスなどがありやはり光線過敏症を引き起こすことがあります。
 小生の医院でもプレミネント、エカードなどの光線過敏症の例を経験しましたので、一般にもかなりの例があるかと推測されます。患者さんは当然のこととして、処方した内科医師も薬疹の認識がないことが多いようです。この種の降圧剤に限らず、血圧の薬、高脂血症の薬、糖尿病の薬なども光線過敏症の例が多く報告されていますので注意が必要かと思います。
 これらを内服していて、腕、手の甲、顔、首のVネック部位に日焼け様の赤みが出た場合は薬剤性の原因も考える必要があります。
 検査は、光線照射テスト、光パッチテストなどを行いますが、必ずしも陽性に出るわけではなく、試薬の濃度、照射光線量も決まったものはありません。最終的に被疑薬のみを飲んで光を当てる内服照射テストで確認します。ただ、高齢者などは多数の薬剤を飲んでいることが多く、また全ての内服を中断することはまず無理なので、実際は困難です。結局過去の報告例などから疑わしい薬剤を除去していくことになりますが、内科などの担当医と密に連携しないと難しいことになります。
 薬剤は時代とともにどんどん新薬が出てきます。最近では抗線維薬であるビフェニドン、悪性腫瘍の治療に用いられる分子標的薬(イマニチブ、エルロチニブ)による光線過敏症の報告もあるとのことです。

2) 光接触皮膚炎
最近、ケトプロフェンを含むテープ剤による光接触皮膚炎がしばしばみられます。
一般名でモーラステープといい、結構皆さん使っていらっしゃいます。他にもエパテックゲル・クリーム、セクターゲル、ミルタックス、ケトプロフェンなどの名前で整形外科などから処方されています。
ケトプロフェンについての光過敏性は製品に注意書きが書いてありますが、意外と正確な情報が伝わっていなかったり、また家族、知人間での使い回しがあったりして光線過敏症の情報を全く知らずに使用しているケースもみられるとのことでした。
 最近は指定第2類医薬品に指定され、登録販売者であれば薬剤師でなくてもOTC(Over the Counter) 製品として販売できるようです。インターネットでもオムニードケトプロフェンパップとして購入できるそうで、更なる光線過敏の例が増える恐れがあり、注意が必要です。
 小生の医院でも、先月梅雨の晴れ間で真夏のような好天が続いた日々の後、数名のモーラステープによる光かぶれの患者さんが来院されました。
 皮膚科専門医ならば、一見して診断がつくのですが、意外と患者さんはそう思っていないようでした。その理由はやはり家族からもらって貼っていたり、貼ったのは数か月も前なので、まさかそれはないだろうと思っていたりでした。
 注意書きには黒っぽい服やサポーターで遮光すること、剥がした後も少なくとも4週間は遮光に努めることなどが書いてありますが、数か月前に貼った部分でも日に当たることで光線過敏を起こす例もあるそうです。当院の例もそうでした。
モーラスを使う人は高齢者だけではなく、スポーツをする人にも多くみられます。
テニス、ボート、ゴルフ、野球、ランニングなどで腱鞘炎を起こし使用しているケースが多いです。ということは必然的に大量の紫外線を浴びる人たちということにもなります。
昨日関東地方にも梅雨明け宣言がでました。暑い夏がやってきますが、ケトプロフェン貼り薬による光線過敏にはくれぐれもご注意下さい。

追記:
調べていましたら、平成22年7月欧州医薬品庁医薬品委員会ではケトプロフェンによる光線過敏症に関する更なる注意喚起を行うこととして、一般用医薬品については販売を中止する発表を行ったとのことです。それには紫外線防止剤として化粧品に広く含有されているオクトクリレンとケトプロフェンとの共感作例が報告されたことも関係があるようです。
 その他にもチアプロフェン酸、スプロフェン、フェノフィブラート、オキシベンゾン(これも日焼け止めに多く含まれています)との交差過敏性もあり、これらの過敏症の人も使ってはいけないということです。
 個人的には日本での第2類医薬品としての販売は大丈夫かとの心配はありますが、有害事象の頻度はそれ程高くないとのことです。いずれにしても注意してご使用下さい。