日光皮膚炎

日光皮膚炎などとあえて疾患名を書くよりも、日焼けといえばそれで事足ります。
あまりにも日常茶飯事の事柄であえてブログに書くまでもないかもしれません。
しかしながら結構皮膚科の中では重要な項目でしかも奥の深い病態を内包しています。
太陽光線は、紫外線、可視光線、赤外線からなる連続スペクトル光線です。紫外線には短波長、中波長、長波長紫外線がありますが、人体に有害な短波長紫外線(C域UV,190~290nm) はオゾン層によって吸収され、地表には届かずおよそ300nm以上の中波長紫外線からより長い波長の光線が届いています。
(ただし、フロンガスなどで人為的にオゾン層が破壊されるとより危険な紫外線が地表に降り注ぐ危険性も指摘されています。)
日焼け(急性日光皮膚炎)は主に中波長紫外線、UVB(ultraviolet B, sunburn band,erythemal band、B域UV, 290~320nm)によって生じます。日光に当たった後、数時間後から赤み(紅斑)が始まり、12~24時間後にピークに達します。眼で確認できる最小の照射量を最少紅斑量(minimal erythema dose:MED)と呼びますが、真夏の伊豆では腹部でおよそ20分程度とのことです。(無論スキンタイプ、身体部位によって異なってきます。)
スキンタイプはFitzpatrickによりtypeⅠ〜Ⅵ(日焼し易い型〜し難い型)に分けられていますが、我々日本人の分類には不向きです。
日本人では佐藤によるJapanese skin type(JST1~3)がよく用いられます。紫外線高過敏型、中間型、低過敏型に分類されます。
一方長波長紫外線(UVA: ultraviolet A、320~400nm)は一般に紅斑は生じませんが、大量に照射すると紅斑を生じるとされます。また PUVA療法や薬剤性光線過敏症ではUVAが作用波長となりますので注意が必要です。
そしてUVAは窓ガラス越しでも通過するので車の運転中でも浴びることになります。
軽い日焼けならば、そのまま放置しても数日で軽快しますが、長時間日光に当たり激しい日焼けになると、紅斑、浮腫、水疱を生じ疼痛を伴います。広範囲に及ぶと発熱、悪心などの全身症状も伴うこともあります。
こうなると熱傷と同様の病態を取ります。
日焼け(sunburn)のあとはサンタン(suntan)炎症後色素沈着をきたしますが、これもUVBの作用によるとされます。強い日焼けをすると、1−3ヶ月後に両肩から上背部にかけて金米糖状、花弁状の褐色の色素斑を残します。これを光線性花弁状色素斑と呼びます。
慢性的に太陽光線を浴び続けていると肌の光老化が起きてきます。これにはUVAが大きな影響を及ぼします。紫外線は波長が長くなるほど、皮膚の深部にまで到達します。UVBは主に表皮内まで透過しますが、UVAは真皮まで透過します。真皮には膠原線維(コラーゲン)や弾性線維(エラスチン)が張り巡らされていて、肌はピンと張り、弾力が保たれていますが、UVAや近赤外線を浴び続けるとこれらが変性し、お肌の張りがなくなりシワ、タルミを生じてきます。これを光老化といいます。
さらに進むと光発がんの可能性も高くなってきます。日光角化症、有棘細胞癌、基底細胞癌、悪性黒色種などのリスクも出てきます。
【特殊なケース】
一般的な日焼けの他に、日焼けサロンなどでの人工的な日焼けのケースもあります。またPUVA療法など光線治療を受けていて、なおかつ太陽に当たったケース、薬剤性に光接触皮膚炎を起こしたケース(モーラステープなど)、降圧剤などを服用していて光線過敏性皮膚炎を生じたケースなどもあります。
その他の光線過敏症は当ブログに順次挙げています。太陽に当たった後どうも様子が変な場合は皮膚科受診することが肝要かと思います。
【治療】
軽度の日焼けであれば放置していても数日で軽快します。
高度な日焼けで紅斑・浮腫・水疱などを生じ痛みが強ければ氷水などで冷却します。治療は熱傷に準じます。アズノール軟膏やステロイド外用剤の塗布を行います。触ることすらできないほどの痛みの場合は一時的にはステロイドのスプレー剤の噴霧やローション剤が使いよいです。水疱、びらんとなった場合ではトレックスガーゼやポリウレタンなどの創傷被覆剤も使用し、湿潤環境を維持します。痛みには消炎鎮痛剤を内服します。早晩乾燥し、強いかゆみを訴えることが多いので抗ヒスタミン剤、保湿剤などを使用します。二次感染には十分注意が必要です。
【紫外線予防】
*当たり前のことですが、過度の紫外線に当たらないようにすることが大前提です。特に10-14時は紫外線が強いのでこの時間帯の太陽光線は避けることが大切です。
*戸外でも木立などなるべく日陰を利用することは日射病、熱射病の予防にも繋がります。
*日傘、帽子、襟のついた衣服で覆うこと、キャディーさんの衣服、格好が良い参考になります。
*眼の保護も必要です。特に日差しの強い海や山などでは必須です。
*日焼け止め、サンスクリーン剤を上手に使用することが大切です。
【日焼け止めの使い方】
先に述べましたように、主な日焼けの作用波長はUVBです。しかしながらお肌の老化防止にはUVAもしっかりカバーする日焼け止めが必要です。
UVBに対する日焼け防止の程度を表示する指標にSPF(sun protection factor)があります。これは例えば日光で15分で赤くなる人が日焼け止めを塗って150分まで赤くならない場合は10倍赤くなるのを延ばせたということでSPF10と表示されます。しかしこれは普段一般に使用される量よりもかなり多い厚塗りでの評価です。
この表示通りの効果を期待するには、顔にパール1個分のクリームを取り、数カ所に分散して満遍なく伸ばし塗ります。さらにパール1個分を同様に重ね塗りします。髪の生え際、うなじ、耳や目や鼻の周りなどは塗り忘れし易い部分です。
しっかり塗ったとしても汗をかいたり、こすれ取れたり、水に浸かったりすると効果はなくなってしまいます。こういった場合には2、3時間おきに付け直す必要性があります。
SPFは15~50+のものまでありますが、通常は15程度で十分です。海山などあるいは光線過敏症の患者さんではもっと数値の高いものを使うこともありますが、逆に紫外線吸収剤などによる光かぶれ(接触皮膚炎)のケースもあり注意を要します。
UVAに対してはPA(protection grade of UVA)という表示がなされます。こちらの方はPA+から++++までのものがありますが、通常は+ないし++でも十分かと思われます。
日本臨床皮膚科医会では「保育所・幼稚園での集団生活における紫外線対策に関する統一見解」をホームページ上に掲載していて、プールでも耐水性またはウォータープルーフのサンスクリーン剤を使うことを推奨しています。

参考文献

光線過敏症 改訂 第3版 監修 佐藤吉昭 編集 市橋正光 堀尾 武 東京: 金原出版;2002

錦織千佳子 日光皮膚炎. 皮膚科診療カラーアトラス体系7 編集/鈴木啓之・神崎 保 東京:講談社;2011.pp94-95