色素性乾皮症( 2 )

色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)の臨床症状について

*遺伝的にヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair:NER)の異常で発症するA~G群(XPA~XPG)、損傷乗り越え合成(translesion synthesis:TLS)の異常で発症するバリアント型(XPV)の計8つのグループに分類されています。
頻度はXPAが53%で最も多く、次いでXPVが25%でこの2型が大部分を占めます。以後XPDが8%、XPFが7%でE群G群は稀でB群の報告はありません。 全世界的にはXPCが多く25%で、XPA, XPVも同程度にみられます。

*臨床的には
・皮膚症状のみを呈する皮膚型XP(XP cutaneous disease)・・・日本人では45%がこの型で90%のXPD, XPE, XPF, XPC, 75%のXPG, XPVが該当します。
・皮膚症状に神経症状を伴う神経型XP(XP neurological disease)・・・日本人では55%がこの型でXPA, 10%のXPDが該当します。
・皮膚症状にコケイン症候群(Cockayne syndrome:CS)を合併するCS合併型XP (XP/CS complex)・・・日本では3例
(XPDが2例、XPGが1例)と極めて稀です。
【XPの皮膚症状】
大きく「サンバーン増強型」と「色素沈着型」に分けられます。
(1)サンバーン増強型
XPA>>XPD、XPF>XPG,XPB この順に日焼けがきつく生じます。とりわけA群は修復能も低く、皮膚症状も重症で、皮膚、眼の光線過敏症状は生後間もなくから生じ、高々5分程度の日光暴露でさえ高度の浮腫性紅斑や水疱を伴う激しい日光皮膚炎を生じます。日焼けの特徴は日光暴露後3~4日後まで増強、ピークを迎え、1週間以上持続することです。高度の急性期の日焼け反応は水疱、びらん、痂皮などを伴うために時として細菌感染症と誤診されやすいそうです。
このような急性の日焼け様反応を繰り返した後は露光部に長期に亘って色素沈着を残し、そばかす様の小色素斑が増えてきます。新旧の皮疹が入り混じるために大小不同で濃淡も不揃いなのが通常の雀卵斑(そばかす)と異なるところです。さらに慢性期になると皮膚は乾燥して粗ぞうとなり、毛細血管拡張、色素沈着、色素脱失、皮膚萎縮の混在する多形皮膚萎縮をきたし、年齢不相応の光老化の皮膚症状を呈してきます。
適切な紫外線防御を行わないと皮膚症状の進行とともに、露光部に基底細胞癌や有棘細胞癌や悪性黒色腫を高率に発症してきます。XPに生じる皮膚癌は健常人の種類、臨床像に大差はないとされます。但し発症年齢が20年以上若い方へシフトしています。特に修復能の低いA群とC群では10歳前後で皮膚癌を生じます。
(2)色素沈着型XP(XPV>>XPC>XPE)
サンバーン様皮疹を生じず、前述の慢性期の色素異常のみが徐々に進行し、比較的弱年齢で露光部に皮膚癌を多発してきます。日焼けが目立たないために成人になってから診断されることが多いとされます。
XPVは修復能も比較的に保たれており、日焼け反応の増強や遷延化もみられません。そのために適切な日焼け対策がなされていないことが多く、皮膚癌の多発、色素異常によってはじめて診断されるケースが多いです。そのためにかえって他の群よりも皮膚癌の多発、発症は高頻度にみられます。
XPCはヌクレオチド除去修復機構のうちglobal genome repair(GGR)は低下していますが、transcription repair (TCR)は保たれているために(後述)、異常な日焼け反応はみられないか、あってもごくわずかです。
【XPの皮膚外症状】
本邦では60%の症例に進行性の精神・運動・発達障害がみられます。特に最重症のA群では2,3歳頃までの発達遅延は目立たないものの徐々に末梢性、中枢性の進行性の神経障害が顕在化してきます。10歳までには難聴が進行し、15歳頃には聴覚機能はほぼ消失します。運動機能では徐々に腱反射の消失、小脳失調、痙性麻痺が出現、歩行困難となり、15歳頃には起立不能となります。運動機能は6歳頃がピークとされます。嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎を起こし気管喉頭分離、気管切開や胃瘻が必要となってきます。肺炎などで突然死にいたることもみられます。
これらの神経変性の原因、分子機構は光線過敏機構のようには明らかに解明されておらず、脳のグリアの変性や酸化ストレス、ROSなど想定されていますが、いまだ不明です。従ってその治療は対症療法とならざるをえません。
眼も紫外線の影響を受けるために、結膜や角膜の乾燥、結膜炎、角膜炎、眼瞼外反、内反、角膜潰瘍、涙腺分泌の低下、睫毛消失などが生じます。また眼瞼部悪性腫瘍も生じることもあります。網膜にはUVBはほとんど到達せず、直接的な紫外線障害はおきませんが、神経症状として視神経異常は起こり得ます。
【XPへの対応と患者ケア】
<皮膚や眼への対応>
遺伝性の光線過敏症であるために、根本的な治療法はなく、いかに早期に確定診断をして厳密な遮光を徹底できるかということが重要です。(遺伝子診断などについては後述)。紫外線はUVB(中波長紫外線)~UVA(長波長紫外線)にわたる防御が必要となります。
紫外線対策
・外出時には高SPF値(SPF30以上)、高PAグレード(PA+++)のサンスクリーン剤を使用すること、適量、十分量を塗布すること、汗や手で拭ったりして落ちることを想定して2時間ごとに塗りなおすことが必要です。
・衣服は長そで長ズボンで外出時は遮光生地やフィルムで作った頭布、帽子、紫外線防護服、UVカット眼鏡を着用することが必要です。
・屋内や車中でも窓ガラスからの紫外線を考慮し、遮光フィルムや遮光カーテンを使用します。就学児童の場合は学校の窓にもUVカットフィルムを貼り、紫外線防御への配慮をすることも必要です。
・皮膚癌に対しては、早期診断、早期治療が鉄則です。最近はダーモスコピーが活用されますので、ごく初期、小さい腫瘍の診断、治療も可能となってきています。
<XPの神経症状への対応>
神経型XPは全身性疾患といってもよく、その神経変性に対しては未だ原因不明のために有効な治療方法がなく、、進行抑制のために早期から脳の刺激や、聴覚の刺激を行い、運動、マッサージ、リハビリなどが必要となってきます。
診療、治療は皮膚科医が中心となるものの、小児科、眼科、整形外科、耳鼻科、理学療法科、看護・介護部門などと連携しながら全身的にケアしていく必要性があります。

XP-V  顔面の色素斑と皮膚腫瘍(基底細胞癌)の多発、皮膚は乾燥してキメが粗い。

黒色腫瘤近傍の病理組織像 基底細胞癌、真皮内に腫瘍塊を認める

色素性乾皮症診療ガイドライン より

色素性乾皮症診療ガイドライン改訂委員会 森脇 真一 他

日皮会誌: 125(11), 2013-2022,2015(平成27)