表皮バリア、タイトジャンクションの仕組み

慶應大学の久保亮治先生は表皮バリア、タイトジャンクションの研究をリードしてきた先生です。
表皮バリアには角層バリア、その下のタイトジャンクション(TJ)があります。TJについては過去に当ブログでも久保先生の講演内容を書きましたので、詳しくはそちらを参照して下さい(2016.3.27アトピー性皮膚炎とバリア障害)。
久保先生はクローディン分子が重合してジッパーのように細胞同士を密着させ細胞の辺縁を縁取るTJの構造を解明し、3Dイメージングで可視化してきました。しかし、6角形をした細胞(顆粒層)がどのようにターンオーバーし、TJが入れ替わっていくのか長年の疑問だったそうです。当初は6角柱が積み上がって剥がれるモデルを想定していたそうですが、これだと細胞間のデスモゾームを全て切り離して、上に剥がれて入れ替わる必要があります。この長年の疑問を解決したのが、今年の皆見省吾記念賞となった横内麻里子先生のケルビン14面体モデルの論文です。
Epidermal cell turnover across tight junctions based on Kelvin’s tetrakaidecahedron cell shape
<eLife,5,e19593,2016.>

横内先生は実際に紙でこの多面体をいくつも作り、それが規則正しく並び、決まった順番通りに入れ替わっていく様を提示されました。それは細胞とTJを染め分けた詳細な2光子顕微鏡観察に基づくもので、コンピューターシミュレーションでも実際の細胞のターンオーバーの動態と合致することが解明されました。
 このモデルだとデスモゾームを切る必要がなく、スムーズに細胞が入れ替わり、TJも破綻しません。
 人の皮膚の細胞は1時間当たり2億個皮膚から剥がれ垢となって次々に細胞が新しく入れ替わっているそうです。
 ケルビンの14面体とは、19世紀末、英国の物理学者ケルビン卿が提唱した6角形8面正方形6面からなる14面体で、空間を同じ体積を持った細胞で埋めるときに、それぞれの細胞の表面積を最小に、最も効率よく充填できる多面体の解答として提唱されたものだそうです。
 この秩序だったパターンは自然界でもみられるそうで、ザクロの実や石鹸の泡もその例です。
 1976年にはAllenが角質細胞はケルビンの14面体を押しつぶした形であることを発表しています。それが今回の横内先生のモデルの発想のもとになったようです。
 TJは新しく入れ替わる際に一定時間2重になります。そして必ず新しいものが、古いTJより10%小さく内側にできます。大きさの異なる6角形、これもケルビンの⒕面体モデルへの発想となったそうです。
 シート状に並べられた6角形、中央が黄色、その周りを赤、青が3つずつ取り囲んだ絵図、それがわずかな段差をもって上の方から黄色➡赤➡青➡黄色と繰り返しながら入れ替わる様をコンピューターグラフィック上でみせてもらいました。

 人の皮膚のバリア構造の精緻で巧妙なこと、その一部をきっちりと解明した研究が日本人皮膚科医の手でなされたことは素晴らしいことと思われました。

 久保亮治:臨皮 65(5増): 38-43,2011より

 皮膚が新陳代謝しつつバリアを維持する仕組みを解明

ー細胞の形が解き明かす瑞々しい皮膚が保たれる秘密ー 慶應義塾大学 プレスリリース 2016.11.30 より