じんま疹2017

先日仙台で行われた日本皮膚科学会総会で、久しぶりに蕁麻疹の教育講演を聴きました。
「新時代を迎えた蕁麻疹治療」と銘打って行われたように、海外、国内ともにガイドラインが改訂され、非鎮静性抗ヒスタミン薬や抗IgE抗体薬の新規導入など、蕁麻疹治療は大きな変革を迎えたそうです。そのさわりを。
はじめの4題は専門的な要素の強い部分なので、一般的な外来診療などにおいては治療の新規導入薬の最後の題のみをチェックするだけでよいのかもしれません。

🔷海外の蕁麻疹診療ガイドライン改訂の動向 秀 道広 先生(広島大学)
ガイドラインは各国、独自のものがありますが、国際的には欧州のEAACIが主導、作成したものと、米国のAAAAIが国内アレルギー関係団体とともに作成したものがあります。最近各国も独自のガイドラインを作っていますが、EAACIが最も多くの国の学会の認証を受けた基本形です。日本のガイドラインもかなり早い時期に制定された詳細なものです。2016年にはEAACI改訂のための国際コンセンサス会議が開かれ、さらに近々AAAAIも参加して、各国の摺り合わせが行われグローバルなガイドラインが出来上がる見通しとのことです。
大きな変更点(予定)は食餌療法の推薦文が取り下げられること、治療のアルゴリズムで第3ステップの治療におけるオマリズマブがシクロスポリンより優先されること、モンテルカスト、H2拮抗薬、ジアフェニルスルフォンなどがその他の治療薬としてアルゴリズムの他に列挙されることなどです。

🔷国内の蕁麻疹診療ガイドライン改訂版 福永 淳 先生(神戸大学)
日本国内のガイドラインの作成は国際的にもかなり早く、2005年に蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドラインが、2011年に蕁麻疹診療ガイドラインが策定されました。近年の国際的なガイドラインの改訂や新規薬剤の開発に伴って、国際的なものとの整合性を得るべく最近本邦でも第3版改訂版が策定されました。今回の改訂では、「蕁麻疹診療における行動指針集」としての役割を主眼においたそうです。臨床的な診断の重要性、患者さんに先々の見通しを説明すること、生活指導をして寛解に誘導していくことの重要性をうたっています。また治療ステップごとの薬剤の使用指針も示されています。慢性蕁麻疹は本邦では従来4週間以上とされていましたが、国際基準に倣って6週間以上となるそうです。

🔷議論の尽きないコリン性蕁麻疹~複雑な病態とその治療 青島正浩 先生(浜松医科大学)
コリン性蕁麻疹は個疹が点状の小さな膨疹、紅斑であり、運動や入浴、精神的緊張などの発汗刺激で生じます。いくつかの亜型に分類されますが、大きくは汗アレルギーの有無、発汗異常の有無によって2型に分類されます。
汗アレルギーのあるタイプでは、アセチルコリンによって発汗が促され、汗管閉塞などによって汗が真皮に漏れ出して蕁麻疹が生じると考えられています。一方発汗低下を伴う減汗性コリン性蕁麻疹では、エクリン汗腺上皮細胞のアセチルコリン受容体発現が低下しているために減汗となり、蕁麻疹が生じると考えられています。治療は両者で異なり、前者では抗ヒスタミン剤、漢方薬などを使用します。発汗で悪化しますのでそれを避けるように指導します。後者ではステロイドパルス療法が適応となります。汗で改善するために発汗訓練なども行われます。検査はヨー素デンプンを使用した発汗テストを行いますが、専用の部屋などが必要で一部の専門医療機関で施行されているようです。

🔷血管性浮腫の診断と治療 猪又直子 先生(横浜市立大学)
血管性浮腫は蕁麻疹と同様に血管透過性の亢進によって皮膚や粘膜が一過性に腫れます。蕁麻疹様の赤み、痒みを伴うものと、むくみ(浮腫)のみの場合があります。
蕁麻疹類似の機序で生じるマスト細胞メディエータ起因性と、ブラジキニン起因性に分類されます。後者には遺伝性血管性浮腫(HAE)、後天性AE、アンギオテンシン転換酵素阻害薬などが含まれています。治療法はタイプ、重症度で大きく変わってきます。近年カリクレインーキニン経路をターゲットにした薬剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、C1NH濃縮製剤の自己投与などの選択肢が増えてくる予想があります。
(当ブログの2013.6.16 蕁麻疹(5)血管性浮腫も参考にして下さい。)

🔷蕁麻疹治療における新規導入薬 千貫祐子 森田栄伸 先生(島根大学)
蕁麻疹治療の基本は非鎮静性抗ヒスタミン薬です。いわゆる第2世代の抗ヒスタミン薬です。眠気の強い第1世代の抗ヒスタミン薬は次第に避けられるようになっています。
臨床医が抗ヒスタミン薬を選択する基準は種々ありますが、効果、眠気などの副作用、効果発現の早さ、効果持続時間などによって使い分けられています。それには薬剤の最高血中濃度到達時間(Tmax)や血中濃度半減期(T1/2)、薬剤の構造式なども勘案されます。
第2世代の中ではザジテン、ゼスラン(ニポラジン)などは比較的第1世代に近い薬剤です。第2世代の中でも、効果重視の薬剤がアレロック、セチリジン、ザイザルなどです。中間型がタリオン、エバステル、アレジオン、眠気重視の薬剤がアレグラ、クラリチンといえます。(あくまで相対的な仕分けですが)。
2016年11月に三環系のデスロラタジン(デザレックス)とピペリジン系のビラスチン(ビラノア)が同時に発売になりました。両剤ともに1日1回服用で、眠気が少なく効果は比較的高い傾向にあります。デザレックスはクラリチンの活性代謝産物を成分としているので両者は似ていますが、効果発現時間は速いといえます。
デザレックスとビラノアは比較的似た傾向の薬剤ですが、多少の使い方の違いがあります。デザレックスは食事の影響は受けないので任意のタイミングで服用できますが、ビラノアは食後に服用すると血中濃度が下がるので空腹時使用という指示があります。また年齢制限があり、使用対象はデザレックスは12歳以上、ビラノアは15歳以上です。一方効果の強さはややビラノアの方が強いという調査があります。
いずれも新薬ですので、1年間は2週間以内の処方というしばりがあります。抗ヒスタミン薬には適宜増量という記載があり、2倍量を使用できる薬剤も多いのですが、この2剤についてはその記載がなく、増量はできません。
また難治性の慢性特発性蕁麻疹に対して抗IgE抗体療法(オマリズマブ)の臨床試験が行われて、その有効性、安全性が確認され、本邦でも保険適応の運びとなりました。

*オマリズマブ(omalizumab)の作用
即時型アレルギー反応を起こす蕁麻疹は、マスト細胞(肥満細胞)上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に抗原が特異的IgEに結合し、2つの受容体分子が抗IgE抗体によって架橋することによって活性化します。そしてヒスタミンなどのケミカルメディエーターを細胞外に放出して蕁麻疹を発症します。オマリズマブはFab領域の抗原結合部以外のアミノ酸配列をヒト化した抗ヒトIgEモノクローナル抗体で、IgEが受容体に結合する部分(Cε3ドメイン)に結合します。そのためにすでに受容体に結合したIgEには結合せずに、フリーのIgEが受容体に結合することを阻害します。細胞表面でIgEが結合しない受容体は徐々に細胞内に取り込まれるために、即時型反応も減少していきます(下図 参照)。
*慢性蕁麻疹に対する効果
様々な臨床治験がなされ、オマリズマブはマスト細胞以外に病態の中心を持つ遺伝性血管性浮腫などの特殊な病型を除いて、ほぼすべての蕁麻疹の病型に対して効果が期待できるそうです。ただし、適応症は特発性の慢性蕁麻疹に限られています。1回の投与効果は4週間程度にとどまり、治療を中止すると徐々に症状が戻るとのこと。また抗体製剤なので薬価は高価です。
薬剤名               薬価
ゾレア皮下注用150㎎……………45578.0円(150㎎1瓶)
ゾレア皮下注用 75㎎……………23128.0円(75㎎1瓶)
効能又は効果
特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)
用法及び用量
特発性の慢性蕁麻疹
通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブ(遺伝子組み換え)として1回300㎎を4週間毎に皮下に注射する。
承認取得日:
2017年3月24日
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社

日本皮膚科学会のオマリズマブ(ゾレア)使用可能施設についての注意喚起
日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン作成委員会では、オマリズマブ(ゾレア)が生物学的製剤の1つであることを鑑み、適正使用を推薦する視点から、蕁麻疹に対する本剤の使用を当分の間、次の様に限定するように注意喚起いたします。
「皮膚科専門医またはアレルギー専門医が、喘息およびアナフィラキシーに対応できる医療施設で使用すること」
平成29年5月12日 日本皮膚科学会

参考文献
秀 道広: 抗IgE抗体による難治性蕁麻疹の治療. 臨床皮膚科 71(5増):180-182,2017

 参考文献より