オテズラ始動

オテズラ錠発売記念講演会が東京のホテルで開催されました。乾癬を診療している皮膚科の医師500名余を全国から集めての記念講演会で25年ぶりの乾癬の内服治療薬の登場とあってセルジーン株式会社の熱の入れようも相当なものでした。このところ乾癬治療は生物学的製剤の相次ぐ登場で、バイオ時代とも呼ばれますが、使用出来るのは大学病院などの基幹病院で、開業医は蚊帳の外の感がありました。勿論、病診連携がうたわれてはいますが、大学などに患者さんを紹介して後は、その後の治療をお願いしたまま経過はみないような、なかなか開業医には敷居が高い薬剤という思いでした。久しぶりに開業医でも難治性の乾癬の治療に参画出来る感があります。

講演は、次のような内容でした。
🔷講演1 
「乾癬ジャーニーへの旅立ち」 森田明理先生(名古屋市立大学)
乾癬の治療の歴史的な流れと、オテズラの皮膚だけではなく、関節症状、quality of life(QOL)、難治性部位(頭部、手、爪など)に対する適応への可能性、有効性のイントロダクションとオーバービューでした。

🔷講演2
「製品プロファイル」
➊ アプレミラストの製品特性 飯塚 一先生(札幌乾癬研究所/旭川医科大学)
オテズラのPDE4阻害剤としての作用メカニズムの基礎的な解説でした。極めて基礎的で、小生の頭では理解できませんでした。
要約すると乾癬はTh17 (γδTh17, ILC3)性疾患で、さらにTreg(制御性T細胞)の機能不全が生じている。
cAMPはTregの発現を上昇することによって、過剰なTh17の発現を抑制する。PDE4はcAMPを不活性型のAMPに分解する酵素です。経口PDE4阻害剤であるオテズラはPDE4を阻害し、細胞内cAMP濃度を上昇させます。先の原理によってTh17の発現を抑制し、乾癬の炎症を抑えて、乾癬に効くという理論です。
TGF-β,PKA,CREB,IL-6,STAT3,RORγtなどもでてきましたが、その流れはよく理解できませんでした。(以前慶応の吉村先生の話を聞いてもやはりついていけませんでした。でも性懲りもなく、仙台の日本皮膚科学会のシグナル伝達の講演を聴きにいく予定ですが。)
上記以外にも「今日は時間が限られているので、免疫細胞(Treg)だけを話しましたが、実はcAMPは表皮細胞(の増殖)にも働いているのです。」とのことで実際のメカニズムはさらに複雑そうです。最後に座長の根本 治先生の「cAMPはセカンドメッセンジャーとして作用しているのですね。」の言葉で何となく納得、安心したような気になりました。
➋アプレミラストの臨床成績 今福信一先生(福岡大学)
海外の臨床成績のオーバービューをされました。16週でのPASI75達成率は33.1%,NAPSIスコア変化率(爪乾癬の症状)は-22.5% ,ScPGAスコア0/1達成率(頭皮乾癬の改善)46.5%,VAS(痒みの改善)2週目から-30~40%, DLQI(皮膚疾患に特有なQOLの改善)16週で-6.6点、PALACE-1試験(関節症性乾癬)でACR20達成率は-38.1%でした。
投与16週でのPASI75達成率は日本人でも28.2%と海外と似たような改善率を示しました。
さらに最近の海外報告ではESTEEM-1,2試験で156週の長期投与においても重篤な副作用の報告はありませんでした。
軽度の副作用は感染症と消化器症状ですが、吐き気、下痢などの副作用はむしろ薬理作用といってもよいものです。大部分はコントロール可能なものです。

🔷特別講演
John Koo 先生(UCSF Medical Center)
元々精神科を専攻された先生ですが、皮膚科では乾癬の外用剤、光線療法に造詣が深く、週日のビタミンD3製剤、週末だけのデルモベート外用剤(strongest)を使用するsequential therapyを提唱して、ステロイド剤、ビタミンD3合剤の先駆けを作ったともいえる先生です。中国系アメリカ人で小学校まで日本に住んでいたとあって、日本語は堪能で、現在はサンフランシスコにいながら漫画本、DVDなどで日本語を維持しているそうです。そういったことで、日本にもよく招待されている先生です。所々変な日本語はありますが、ほぼ完璧な日本語の講演で楽でした。
本人の使用経験を基にしながら、オテズラのオーバービューをされました。精神科、臨床心理学などの素養をベースに患者サイドにたった、患者の心理や希望を踏まえた上でのオテズラの使い方(doctor center practiceからpatient satisfactory practice medicationへ) のノウハウを教えていただきました。またアメリカの医療保険事情も、ざっくばらんに話され、非常に興味深く、参考になりました。しかしながら、当然彼我の医療保険、行政の違いからオテズラについても使用法など多少の違いがあり、そこは参考程度に留めて日本の使用法を遵守するのが必要かと感じました。
【オテズラの特徴】
*内服薬であること
*検査(採血、レントゲン検査、結核、癌に対する検査など)一切不要
米国では下手に検査すると、その後その異常で後に問題になったら、放置していたと責任問題(訴訟)になりうる、それならEBMで検査不要のオテズラに敢えて検査をして、後でクレームになることは避けたが無難。
*「免疫抑制」との表示がなく、生物学的製剤やその他の免疫抑制剤より、受け入れられ易い。米国では免疫抑制とか、副作用に過敏に反応し、嫌がる傾向がある。最近PASI clearなど劇的に効くバイオ製剤を差し置いて、オテズラが非常に好まれ使われ、宣伝も盛ん。
*それ程効かないが、それでもバイオ製剤のエタネルセプト(エンブレル)とほぼ同等の効果がある。
*副作用は下痢、吐き気、頭痛が主。
*関節症性乾癬にも効く。
*頭部、手、足、爪などの難治部位の乾癬にも効く。
*2つのインパクトがあった。1つは生物学的製剤を使うほどの重症例でもオテズラが役立った。長期の注射、癌、結核などの感染症への不安、精神的な心配からなかなかバイオ製剤に踏み出せず、医師側の患者への説明も長い時間がかかった。それでも多くは拒否された。オテズラはその高いバリアを非常に下げた。オテズラなら飲むか、それで大丈夫ならバイオもトライするか、という心理的な負担の減少がみられた。(ice breaking effect)。
もう一つはオテズラはほぼ全ての多剤との併用が可能であり、また相乗効果がある。バイオとの併用も可能。(保険でカバーできるかどうかは別問題)。
*注射の嫌いな人(needle-phobia)に向いている。
*途中で投薬を中断しても、リバウンドはほとんどない。勿論徐々に悪化して元に戻っていくが、再開してもまた効く。さらに2度目は腸が慣れているので、スターターパックは不要。
*オテズラは早く効く人(fast responder)と遅く効く人(slow responder)がある。
*副作用、特に下痢への対応が成功の鍵。前もって十分に起こりうる副作用を説明しておけば、患者はパニックにならない。後から説明すると言い訳となり不信感を増す。スターターパックを活用する。必要ならそれを2つ、3つ使用してゆっくり増量していく。あるいはpill cutter(錠剤をカットする器具)を利用して2分割、4分割として少量から増量する。(日本ではこれは認められていませんのでカットしないで下さい。--- 会社からの回答)。ビスマスなどのOTC製剤を使用させる。日本ではビオフェルミン、ラックB,正露丸などが良いとの医師からの報告あり。下痢があっても少量でも続ける。耐えられる量まで落として続ければいずれ慣れる。そしたら徐々に増量する。無理に我慢すると挫折する。
【使用方法への質問】
*増量は可能か?・・・米国では150Kg超の体重の人はざらにいる。増量すれば効くでしょうが、下痢、吐き気も増すでしょう。それよりも保険会社が支払わない。
*小児に使えるか?・・・米国では18歳以上となっている。日本では「低出生体重児、新生児、乳児、及び小児に対する安全性は確率していない。」との記載があるが何歳以下はダメとの記載はない。むしろファジーで使えるかもしれないが、今後の検討事項とのこと。米国では現在phaseⅡ、Ⅲのトライアルが進行中で12-18歳、6-12歳の結果がそのうちでてくる予定と。(メーカー米国担当者よりの回答)
*妊婦へは使えるか?・・・米国ではFDAでランクCに位置づけられており、妊婦へも使用可能。但し、日本では使用禁忌です。

🔷パネルディスカッション
乾癬の専門家の先生方によるオテズラについての討論が行われました。
John Koo先生(UCSF Medical Center) 今福信一先生(福岡大学) 五十嵐敦之先生(NTT東日本関東病院) 安部正敏先生(札幌皮膚科クリニック) 小宮根真弓先生(自治医科大学)
様々な討論の中で参考となるものの抜粋
【これまでの乾癬の治療の実態と課題】
外用剤も配合剤が発売され、光線療法(ナローバンドUVB,エキシマランプ)、チガソン、シクロスポリン、生物学的製剤と治療の選択肢は大きく拡大し、乾癬治療は近年長足の発展を遂げた。しかしなかなか満足できる域までは達していない。オテズラはunmet needs(満たされない要求)に答えてくれる使いやすい薬剤と思われる。
安全な薬剤で、クリニックレベルでも使える内服薬だが、どう安全に使っていくか、が重要。
治療は確かに長足の進歩を遂げてきているが、医師と患者の考えのギャップがある。患者満足度は必ずしも高くないのがアンケート調査でみてとれる。重症でも全身療法を受けていない人が1割もいる。また多くの人は軽症(4割以上)だが、これらの患者さんは、バイオの恩恵は受けていない。今まで痒みは医師の目に触れないためにPASIの項目にも入っておらず、盲点だったが意外とQOLを障害する。オテズラは早期から痒みに効くことでQOLの改善に役立つ。
【新たな選択肢が乾癬治療に与えるインパクト】
重症の患者さんは、今までは光線療法、シクロスポリン、バイオなど主に基幹病院でなされるという制約があった。オテズラは入院も必要なく、敷居が低く誰でも使える(皮膚科医も患者も)ようになった。
そして、シクロスポリンでもMTXでもバイオでもいろいろな要因で使いづらい患者さんが大病院でもたまってきていた。オテズラはそういう患者への希望となりうる。保険での使用範囲内かどうかを度外視すれば生物学的製剤など他剤との併用が多く可能である。
【今後の乾癬治療のアルゴリズム予測】
乾癬のピラミッド計画(飯塚)の中間、第2-4段の紫外線、チガソン、シクロスポリンなどからの変更、またオテズラからこれらへの移行などの位置づけとなりうる。米国ではなるべく安全な治療を先に提供するのが普通の考えであり、免疫抑制もなく、定期的な副作用検査も不要なオテズラは広く受け入れられ易い素地があった。現在多くの患者が使用し始めて爆発的に売れている。日本ではどうなるか?
乾癬治療は外用から生物学的製剤まで広いスペックがある。例えていえば、コンピューターの世界に置き換えられる。生物学的製剤をハイスペックなコンピューターとすれば、オテズラはエントリーモデルに位置付けてもよい。入りやすく、使いやすい。
【今後、日本の乾癬治療の目指すべきゴールと新薬への期待】
オテズラは中等症の乾癬の治療に対して、バランスがとれた安全性の高い薬剤で、併用が可能。
副作用も156週もの長期検討でも重篤なものはなかった。
*悪性腫瘍の発生率の増加はなかった。
*感染症でも重篤なものは見られなかった。上気道感染、細菌感染症などがみられるが軽度。
*妊婦への使用について
オテズラは構造式でサリドマイドやポマリドミドなどの化学構造を構成しているフタルイミド基を含む化合物。しかし催奇形性を有するのはグルタルイミド基とされる。オテズラはグルタルイミド基を持っていない。したがって、米国では妊婦への使用も認められてはいる。
臨床試験では催奇形性は認められていない。しかし、「マウスで臨床用量の2.3倍に相当する用量で早期吸収胚数及び着床後胚損失率の増加、胎児体重の減少、骨化遅延が、サルで臨床用量の2.1倍に相当する用量で流産が認められており、ヒトにおいて胚胎児毒性を引き起こす可能性が否定できない」と添付文書に記載がある。
従って、日本では妊婦への使用は禁忌‼️。

オテズラは安全に使用できて、中等度の乾癬への効果が期待できる新規薬剤です。
しかし、クロージングの挨拶で大槻マミ太郎先生がいみじくも述べられていたように、全ての患者さんに効く訳ではありませんし、使ってみないと効果のある人か否かも分かっていません。それに、やはり生物学的製剤と比較すると効果は劣ります。
胃腸症状などの初期対応に失敗すると、悪い印象を与えてしまい医師への信頼感も薬への信頼感もなくして治療全体への意欲も落としかねません。
十分に薬剤を知り、慎重に適応を判断して使うことが求められています。そして乾癬の専門病院への紹介が遅れて適切な治療の機会を失うことのないような心がけが必要となります。