酒さ2017

先日、日本臨床皮膚科医会総会が神戸で開催されました。その中でいくつかのトピックを。
まずは、酒さについて、過去数回ブログにアップしており、繰り返しにはなりますが、今回は日常のtipsを中心に。

酒さでは毎度おなじみの東北大学の山﨑研志先生、菊地克子先生、それに開業医ながら酒さ、ニキビ、スキンケアなどに対し広く講演活動をされている小林美和先生による「がんこな顔面皮疹:脂漏性皮膚炎と酒さの一手・決手」というシンポジウムでした。
◆山﨑研志先生
酒さの自然免疫機構が関与する炎症モデルとしての酒さの病因論は先生の真骨頂ですが、過去に何回もアップしましたので今回は割愛。ただ、その研究を成し遂げたカリフォルニア大学Gallo研究室ではずっと長年に亘って抗菌ペプチドの研究がなされていました。アトピーでは低下、乾癬では上昇などのデータはありましたが、なかなかすっきりしたストーリーとはならず、フレッシュマンにとっても敬遠され、煮詰まったテーマだったそうです。それを敢えて引き受けて酒さにおいて研究し、まとまったストーリーとして確立したのが山﨑先生だったとの逸話は若い研究者にはためになる話だったと思います。
❖酒さの悪化要因はいろいろありますが、夏は湿気、温度が、冬は乾燥、寒暖差が悪さをします。日本には四季がありますが、植林が進み春には杉、秋にはイネ科の花粉症が多くみられます。結構これが悪化要因になっている人も多く、四季を通して顔の調子が悪い人も見られます。また大気汚染(pm2.5なども)、紫外線の影響も無視できません。
❖上記ともかぶりますが、酒さの患者さんをみていると酒さ単独の人はほんの1~2割程度です。その他はアレルギー性皮膚炎、接触皮膚炎などとの合併例とのことです。これらは酒さの診断において除外項目ではありますが、あえて除外する必要はないとのことです。ある時点で診ると、皮膚の状況は異なり医師ごとに診断が異なる⇒医療不信となる⇒ドクターショッピングをする、という経緯を辿ることになります。年間を通して信頼できる主治医にじっくりみてもらう必要性も指摘されました。
❖最近、パーキンソン病に酒さが多いという報告があり、神経疾患と酒さとの関連も考えられています。
❖脂漏性皮膚炎やニキビ(尋常性ざ瘡)との鑑別も問題になり、また合併もみられます。脂漏性皮膚炎では皮表のマラセチア菌が悪影響を及ぼします。マラセチアは脂肪酸合成遺伝子を欠損しており、リパーゼがトリグリセリドを分解しオレイン酸、リノレイン酸を作り角化、炎症を引き起こします。病理学的には脂漏性皮膚炎は表皮を主体にし、酒さは脂腺性毛包周囲の炎症を、ニキビは脂腺性毛包内の炎症を示します。これらは皮表の細菌や真菌の影響をうける疾患ですが、Toll-like receptor 2(TLR2)、Dectinなどの自然免疫機構の関与の解明で病態の解明とその経路を制御することによる治療が進んできています。
◆菊地克子先生
❖頑固な顔面皮疹が治りにくいのは、種々の理由があります。
*本邦で認可された保険治療薬が少ない。
*接触皮膚炎をみのがしたり、可能性が多すぎてをスルー(見て見ぬふりをしたり)することがある。
*上記の原因検索よりも皮膚炎の治療に対し、安易にステロイド、タクロリムス(プロトピック)を使用し、酒さ様皮膚炎をもたらす。
*アトピー素因が隠れていることもある。
❖顔面の皮疹には多くの疾患が含まれています。それを鑑別することが重要です。
・脂漏性皮膚炎 ・乾癬 ・酒さ ・酒さ様皮膚炎 ・接触皮膚炎 ・アトピー性皮膚炎 ・好酸球性膿疱性毛包炎 ・肉芽腫 ・光線過敏性皮膚炎 ・薬剤性皮膚炎 ・真菌症 ・膠原病 ・リンパ腫 などなど
❖口囲皮膚炎と脂漏性皮膚炎との鑑別
決め手は酒さは真皮の疾患なので丘疹、毛細血管拡張が主体で、フラッシングがみられるが、脂漏性皮膚炎は表皮の疾患なので紅斑落屑がみられること。
❖診断のためには、患者さんの普段の化粧行動や習慣のなかに思わぬピットホールが潜んでいる可能性もあるので丁寧に問診して、増悪因子や寛解因子を見出す努力が必要です。パッチテストでは持参した化粧品だけではなく、パッチテストパネルなどのジャパニーズスタンダードアレルゲンを施行することで思わぬ接触源がみつかる場合もあります。
❖何かおかしいと思ったときは皮膚生検などを行ったり、リンパ腫や膠原病などの全身疾患を考えておくことも必要です。唾液腺が腫脹してミクリッツ病であったケースもありました。
❖酒さの治療では外用薬による接触皮膚炎や酒さ様皮膚炎を診ることもあり、そういった場合はリバウンドを避けるために外用薬を中止して短期間プレドニン10㎎程度の内服を行うこともあります。またメトロニダゾールの内服を行うこともあります。海外ではレチノイドが使われますが日本人には刺激が強いようです。
また治療の前提として、慢性の疾患であることを説明し、日々の正しいスキンケアの重要性や増悪因子を避ける重要性を説明します。
❖アトピー性皮膚炎を合併した酒さの人ではプロトピックは使えなくても、小児用プロトピックならば、刺激も少なくニキビも出なく使用できるケースもあります。
❖neurogenic rosaceaといって精神的な要因が引き金になる一群もあります。
◆小林美和先生
❖酒さでは、酒さ様皮膚炎、毛包虫によるざ瘡、脂漏性皮膚炎、更年期障害、カルチノイド症候群、クッシング症候群、肝機能障害によるクモ状血管腫、糖尿病性ルベオーシスなど顔が赤くなる疾患の鑑別が重要です。カルチノイド症候群では顔面の紅斑、フラッシングの他に頭痛、下痢を伴いますのでこのようなケースでは消化器内科へ相談します。
❖脂漏性皮膚炎の治療においては皮表にマラセチアが多数みられる場合があります。マラセチアはディフ クイック2液で短時間に確認することができます。このようなケースではケトコナゾールなどの抗真菌薬が奏功します。一方頭皮の痒みが続く場合は洗髪を見直す必要もあります。最近一部で勧められる”湯シャン”では皮脂はとれません。シャンプー洗髪は必要ですが、シャンプーが合わないという人もいます。実際に成分で接触皮膚炎を起こすケースもありますが、実はシャンプーの仕方がよくないことも多くみられます。洗髪は後頭部、首の後ろからはじめ、前の方へ洗い流します。直にシャンプーを頭皮につけず泡立ててから使います。また爪先で擦らず、指を伸ばして、指腹で優しく洗いますが、洗い残しがないように洗います。乾かすときはドライヤーで素早く乾かします。こういった適切なシャンプーの方法を実践することで、自分に合うシャンプーを探しまわるよりも効果があることもあります。
❖酒さの公式な情報サイトは国内ではあまりありません。海外ではいくつか信頼できる酒さのサイトがあります。
American Academy of DermatologyのRosaceaのサイトでは酒さの詳細な情報が得られますし、関連したサイトも挙げられています。参考にされるとよいと思います。小林先生も最新の情報、治療のヒントはここから得られているとのこと。