SJS/TEN 発症機序

SJS/TEN型薬疹は重症薬疹の代表ともいえる疾患です。
一般的には薬疹は薬剤が外来抗原と体に認識され、免疫反応が起こることによって発症すると考えられています。薬剤及び薬剤の代謝産物が抗原となり得ますが、これら非常に小さな分子であるために、それ自身では抗原とは認識されません。生体内のたんぱく質と結合して初めて抗原性を示します。このような抗原をハプテン抗原と呼びます。
ハプテン抗原は外来抗原を補足する抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)に食べられて、抗原特異的なT細胞に抗原を提示します。
ここから一寸免疫学の基礎的なこ難しい話になりますが、ご容赦を
【HLA】
細胞には自己と非自己を認識し、区別するために主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)があります。ヒトではMHCはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)とよばれており、HLA class Ⅰ(HLA-A,B,C)とHLA class Ⅱ(HLA-DR,DQ,DP)に分けられています。細胞は細胞表面にクラスⅠ分子とクラスⅡ分子を乗せています。抗原はMHC分子の上に乗った形でT細胞に抗原を提示します。クラスⅠは抗原をCD8+T細胞(細胞障害性T,キラーT細胞)に、クラスⅡはCD4+細胞(ヘルパーT細胞)に提示します。クラスⅠはほぼすべての体細胞に、クラスⅡはマクロファージ、樹状細胞、B細胞といった抗原提示細胞に現れます。
T細胞受容体はある特定のHLAと結合した抗原ペプチドのみを認識して結合し、その他の抗原とは反応しません(HLA拘束性)。
SJS/TENにおいては、特定のHLAを有する人が発症する確率が高いことが分かっています。台湾の漢民族ではHLA-B*15:02を有する人はカルバマゼピンによるSJSの発症頻度は持たない人の2500倍も高いことがわかっており、薬剤使用前にHLAを測定することによって重症薬疹の発症頻度を格段に低下させることができたそうです。但し、日本人ではこのHLAの頻度は非常に低く、薬疹予防のマーカーとしては有用ではないようです。
【発症機序】
SJS/TENの発症機序は完全には解明されていませんが、その中心になるのが細胞障害性T細胞(CD8+T細胞)による免疫反応であるとされています。薬剤特異的CD8+T細胞がMHC-クラスⅠ拘束性に表皮細胞を攻撃して表皮細胞死をもたらし、水疱、びらんをきたします。様々な細胞障害物質(グラニュライシン、パーフォリン、グランザイム、TNF-αなど)が放出され細胞死をもたらすとされます。ただ、それ以外の細胞、CD4+細胞、NK細胞などの関与もあるとされています。とりわけ制御性T細胞の機能不全は重要で、免疫反応のさらなる進展、薬疹の重症化に関与しているとされています。それ以外の機序も種々提唱されているようで、さらなる病態解明は今後の研究に待たれるところです。

特定のHLAを有する個体に特定の重症薬疹が発症し易いことは、上記のカルバマゼピン以外にもアロプリノールでは人種に関係なくHLA-B*58:01がSJS/TEN, DIHSを高率に発症し、HIV治療薬のアバカビルの薬疹は白人ではHLA-B*57:01で高率に発症することがわかっています。
しかし、現時点では重症薬疹のみに関連し、軽症の薬疹には関連しないというHLAの報告はカルバマゼピンにおけるHLA-B*15:02のみとされます。HLAのタイピングは薬疹の発症に関与し、重要な一要因ではありますが、それだけが全てではないようです。将来はGWASや次世代シークエンサーの導入によって薬疹の発症リスクに関連する遺伝子が同定されることが期待されます。

参考文献

筵田泰誠 ファーマコゲノミクスに基づく重症薬疹の発症リスクの予測 日皮会誌:124(13),3087-3089,2014

薬疹の診断と治療アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016
5. 薬疹の重症化をもたらす要因 高橋勇人 p52-59
7. 薬疹の動物モデル 中島沙恵子・椛島健治 p68-74
13. Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の発症機序 阿部理一郎 p118-124

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 中山書店 2011
18. SJS/TENの発症機序 池澤善郎 p79-89