固定薬疹

固定薬疹(fixed drug eruption:FDE)は皮膚粘膜移行部(口囲、口唇、外陰部など)や四肢によくできるタイプの薬疹です。
境界は明瞭で貨幣大から手掌大までの紅斑で、中央を部は紫紅色を呈し時に水疱、びらんとなります。同一部位に繰り返して生じることが最大の特徴です。原因薬剤を摂取後30分から1時間後にに局所の灼熱感、かゆみを伴って発症し、数時間後には以前生じた色素沈着部に一致して紅斑を生じます。2~5週間の経過で色素沈着を残して治癒します。しかし、薬剤の再投与で再発し、再発ごとに色素沈着も強く、個疹の数も範囲も拡大する傾向にあります。一見軽症型の薬疹のように思われがちですが、進行するとSJS(Stevens-Johnson)症候群や中毒性表皮壊死症型薬疹と類似した病状を呈することもあるので注意が必要です。
病理組織学的所見でも、FDEとSJSには類似点もみられます。表皮基底層の液状変性や表皮細胞のアポトーシス(細胞死)、真皮上層のリンパ球浸潤などは共通してみられる所見です。ただSJS/TENでは多数の表皮細胞のアポトーシスがみられ、表皮は全層性の壊死に陥ります。具体的には少なくとも顕微鏡の200倍視野で10個以上の表皮細胞壊死を認めます。
また浸潤する細胞の類似性も指摘されています。両者ともに細胞障害性のCD8+T細胞が表皮基底層にみられます。そして薬剤の摂取によって局所でインターフェロンγ(IFN-γ)を速やかに発現して炎症反応を惹起します。
しかし両者での臨床症状では、前者では局所に留まり、後者では全身に拡大重症化するといった違いがあります。組織学的な違いはどこか?最近両者におけるTregの差の重要性が指摘されています。
抑制性の機能を有するT細胞(CD4+CD25+Foxp3+T cell: regulatory T cell: Treg)の機能低下がTENの発症に重要な役割を果たしていることが動物モデルを使って明らかにされました。
一方、FDEでは多発性であっても病変局所にTregが効率よく集積して、表皮障害の進展を食い止めている可能性が示唆されています。
FDEの診断にはパッチテストが有用であるとされます。なかんずく皮疹部位へのパッチテストは陽性率が高いです。陽性になるにはTc1/Th1細胞が関与し、薬剤が角層にトラップされず、薬剤代謝産物が抗原でないことなどの条件を満たす必要性がありますが、FDEが最も要件に合致しています。
例えば、カルボシステインによるFDEでは原薬剤は陰性ですが、その代謝産物であるチオジグリコール酸(TDA)が陽性になると報告されています。
内服テストは最も再現性が高いですが、多発性の場合は誘発によってEM majorなど重症化する危険性もあります。

具体的にどのような薬剤でFDEが発症するかについて、薬疹情報(第14版)を基に多い順に調べてみました。この版は若干古く2010年までの集計(今年第16版が発売予定です。)また報告の多さが発症頻度と一致するとは限りませんが、多く発症する頻度を表していると思います。
1.アリルイソプロピルアセチル尿素(AIAU)(アプロナール:イブクイック、イブA錠、イブ錠EX、新セデス錠、セデス・キュア、ノーシンピュア、バッファリンプレミアム、バッファリンプラスS,などの配合成分の1つ)(89)
2.ポンタール(54)・・・非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
3.エテンザミド(34)・・・サリチル酸系の解熱鎮痛剤、市販の頭痛薬や総合感冒薬に多く含まれる。ノーシン、ハッキリエース、新セデス錠、ナロンエースなど
4.バルビタール(28)・・・催眠鎮静薬
5.アセトアミノフェン(23)・・・非ステロイド抗炎症薬
6.ミノマイシン(19)・・・テトラサイクリン系抗菌薬
7.ムコダイン(16)・・・気道粘膜修復薬
8.スルファメトキサゾール(15)・・・抗菌剤
8.アスベリン(15)・・・中枢性非麻薬性鎮咳薬
10.フェノバルビタール(13)・・・抗てんかん薬
10.バキソ(13)・・・非ステロイド抗炎症薬
12.メチロン(12)・・・ピリン系非ステロイド抗炎症薬
13.クラビット(10)・・・ニューキノロン系抗菌薬
14.テグレトール(8)・・・抗てんかん薬
14.イソプロピルアンチピリン(8)・・・ピリン・非ピリン配合鎮痛剤(SG剤)、偏頭痛治療剤(クリアミン)
14.アロプリノール(8)・・・痛風・抗尿酸血症治療薬
14.プロメタジン(8)・・・第1世代抗アレルギー薬
18.タリビット(7)・・・ニューキノロン系抗菌薬
18.オゼックス(7)・・・ニューキノロン系抗菌薬
18.イオパミロン(7)・・・造影剤
18.PL(7)・・・アセトアミノフェン配合剤、鎮痛剤
22.アプシード(6)・・・持続性サルファ剤

一番多くみられるAIAUについての報告がありましたので、抜き書きしてみます。(上野あさひ)
AIAUは催眠鎮静作用を有するモノウレイド系薬物で、鎮静補助剤として多くの市販薬に配合されています。1995~2015年間では107例の薬疹報告があります。102例(95%)が固定薬疹で多発型が79例、またSJS 2例、TEN 2例、AGEP 1例の報告があります。パッチテストの陽性率は82%で、皮疹部でのパッチテストは全例陽性であった、と述べられています。それに対してDLST(薬剤誘発性リンパ球刺激試験)は施行された12例全例で陰性であったとのことです。
DLSTは薬剤によって、また施行時期によって陽性率が大きく異なり、参考程度の検査のようです。

上記のように総合感冒剤、中枢神経薬、抗生剤などが上位に挙がっています。
ただ普段”軽い薬”と思われて頻用される薬剤の中にもFDEを起こすものもあります。一寸意外と思われるものも列記してみます。ムコダイン、アスベリンは風邪の際にセットとして小児科でよく処方されます。トランサミンは肝斑の薬として患者さん自ら指定して貰いにくる人もありますが5例のFDEの報告がありますし、中にはSJS,アナフィラキシーの報告、血栓症の報告もあります。漢方薬は安全との意識がありますが、少ないながらも報告があります。ウコン、葛根湯、当帰芍薬散など。抗ヒスタミン剤はむしろこれらの治療に用いられますが稀に報告があります。セルテクト、メキタジン、タベジール、ポララミンなど。果物、食物にも報告があり、驚かされます(食物固定疹;カシューナッツ、アスパラガス、イチゴ、イクラ、レンズ豆)。ジントニックなどに使われるトニックウォーターはキニーネを含んでおり、4例の報告があります。
このように思いがけない薬剤などでも発症することはあり、繰り返し粘膜部に紅斑、水疱がでるようなら注意が必要です。

参考文献
薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編  東京 医薬ジャーナル社、 2016

薬疹情報 第14版 Ⅰ980-2010 編集 福田皮ふ科クリニック 院長 福田英三

中村香代 ほか: トニックウォーターによる固定疹の1例.皮膚科の臨床 58(3);338~339,2016

上野あさひ ほか: 皮疹部のスクラッチパッチテストが陽性であったアリルイソプロピルアセチル尿素による固定薬疹の1例.皮膚科の臨床 59(1); 18~19,2017.