メラノーマの手術療法 (2)

【センチネルリンパ節生検とリンパ節廓清】

センチネルリンパ節(sentinel lymph node (SLN))とは最初に腫瘍の転移が始まる可能性のあるリンパ節のことをいいます。
SLNを同定して、SLNへの転移を発見することは、悪性黒色腫の予後を改善する重要な因子です。
◆適応
皮膚悪性腫瘍ガイドラインによれば、腫瘍厚が1~4mmとされています。しかし実際にはダーモスコピーなどで明らかなin situ病変でない場合や臨床的に明らかなリンパ節転移がない場合に実施されているようです。
◆種類
その方法は使われるトレーサーによって数種類があります。トレーサーを原発腫瘍の約1cm外側に数か所皮内注射します。
1)色素法
生体染色色素を用いる方法で、ラジオアイソトープなど特殊な器械を用いないで施行できますが、手技に熟練が必要なこと、同定率が低いこと、検索が予測領域で皮膚切開を加えた部分に限られることなどの欠点もあります。
色素としてはパテントブルー、インジゴカルミン、インドシアニングリーン(ICG)などがあります。特に最近はICG蛍光法などにより同定率を高める方法がとられつつあります。超音波診断や造影CTリンパ管撮影を併用して同定率を高める方向にあるようです。
2)リンパシンチグラフィー
放射性同位元素(RI)をトレーサーとして、シンチカメラで撮影してSLNを同定する方法です。99mTc標識 ヒト血清アルブミン、フチン酸、スズコロイドなどが使用されます。dynamic lymphoscintigraphyにより観察されます。前者は投与後30分以内で、後者は3-6時間後に描出されるそうです。RI設備のある施設限定となりますが、腫瘍が体幹や頚部など複雑なリンパ流でSLNが分かりにくい場合や途中のinteraval nodeの検出も可能となります。
3)ガンマプローブ法
色素法と併用して手術中のトレーサーとして使用されます。体表にγプローブを当ててカウントのある部位にマーキングを行い、さらに皮膚切開を加えた後に、カウントの多い方向に剥離を進めてSLNを摘出します。
◆摘出標本
術中迅速診断での信頼度は低いとされ、通常のHE染色以外に免疫染色(S-100, HMB-45, MART-1, Melan-A)なども併用が推奨されています。
◆リンパ節廓清
SLN生検(biopsy)(SLNB)で病理組織検査の結果転移が陰性であれば経過観察となります。
陽性であれば治療的リンパ節廓清を施行します。しかしその先のnonSLNに転移を認める確率は10~20%とされています。すなわちSLN転移陽性であっても約80%はリンパ節廓清を必要としない可能性もあります。
一方臨床的(肉眼的)にリンパ節転移がある場合は遠隔転移がなければ根治的リンパ節廓清が施行されます。予後は年齢、部位、リンパ節転移の数などによって異なってきます。従って至適な廓清範囲は個々に異なってくるそうです。

SLN生検は有用な方法で、メラノーマの予後改善に役立ちますが、薬物療法の進歩も相俟って陽性の場合のその後の手術、廓清範囲などの取り扱いにはさらなる検討、臨床研究が求められています。
Multicenter Selective Lymphadenectomy Trial(MSLT)-Iでは腫瘍厚が1.2~3.5mmの中間群でSLNB施行群の10年疾患特異的生存率が高くでましたが、腫瘍厚が3.5mm以上の群では経過観察群との差はでず、SLNBの意義に否定的な結果でした。
現在はMSLT-IIで追加のリンパ節廓清の有用性の検討がなされています。
また、生体色素薬は臨床医薬品ではなく、放射線同位元素は保険適応外(色素法とRI法を併用した場合は保険適用)であるなどの問題点もあり、倫理委員会の承認が必要などの注意点もあります。

参考文献

堤田 新.センチネルリンパ節生検と根治的リンパ節廓清の最新情報 ◆特集/メラノーマ最新情報 ◆編集企画◆宇原 久 MB Derma. 230: 31-36,2015.

加茂 理英.センチネルリンパ節生検 皮膚外科学 日本皮膚外科学会【監修】秀潤社、東京 pp258-267 2010

林 宏一 宇原 久. 悪性黒色腫のセンチネルリンパ節生検の意義 MSLT-Iの最終結果:臨床皮膚科 70(5増);170-172,2016