メラノーマの薬物療法 (5) 免疫療法3.

【イピリヌマブ】
抗CTLA(cytotoxic T-lymphocyte)-4抗体 (イピリムマブ: ヤーボイ)はIgG1型完全ヒト化モノクローナル抗体です。CTLA-4に結合してT細胞の活性化と増殖を促進します。
この薬剤と、メラノーマ特異抗原であるgp100ワクチン単独、またこの両者を使用した3群間でダカルバジン既治療のメラノーマ患者の比較試験が行われました。その結果併用群の全生存期間の優越性が明らかになりました。
また無治療メラノーマ患者に対して、イピリヌマブとダカルバジン併用群、ダカルバジン単独群間の比較試験が行われました。その結果併用群の全生存期間の優越性が明らかになりました。
その差は当初は変わらず、3ヶ月後から徐々に明らかになり、特徴的なことはイピリヌマブ併用群では2年以降の生存率の低下が止まっていることでした。すなわち一部の例ではありますが、奏功例では長期の生存がのぞまれるという事です。
2011年には米国のFDAで認可されました。本邦でも2015年7月に認可されました。
3mg/kgで3週間おきに4回使用します。奏功率は国内外ともに同等とされます。
【ニボルマブ】
1992年に京都大学本庶佑研究室(石田、岩井ら)によってPD-1(programmed cell death 1) が発見されました。T細胞の細胞死に際して発現される遺伝子ですが、当初はその機能は不明でした。その後、抗原提示細胞上に発現するリガンドPDL-1, PDL-2がT細胞表面のPD-1と結合するとT細胞に抑制的シグナルが伝達されT細胞活性化を抑制することが判明しました。またPDL-1はメラノーマを含め様々ながん細胞にも発現しており、活性化T細胞のアポトーシスを誘導していることも判明しました。
2005年、抗PD-1完全ヒト型IgG4モノクローナル抗体であるニモルマブが作製され、2006年から米国 、2009年から本邦で臨床試験が始まりました。
外国では3mg/kg 2週ごと、国内では2mg/kg 3週ごとに投与する試験が行われ、ダカルバジンに対して優越性が示されました。そして2014年9月に世界に先駆けて本邦でオプジーボとして切除不能のメラノーマに対して上市されました。発売後1年間ですでに1000例以上使用されているとのことです。
米国では2014年に別の抗PD-1抗体であるペンブロリズマブがFDAにより認可されています。
【併用療法】
抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体は作用点が異なるので理論的に併用が可能です。実際に併用療法は海外において臨床試験がなされています。その結果では併用群、ニボルマブ単独群、イピリムマブ単独群の順に生存率が高かったとされます。併用の効果はPDL-1陰性の患者に大きくみられました。
またイピリムマブとBRAF阻害薬であるベムラフェニブとの併用試験も行われましたが、重篤な肝障害のために中止になっています。
いろいろな形での併用療法は試みられているものの、有害事象や薬剤が高価であることなどもあり、安直に試みるべきではなく、まだ試験段階のようです。
免疫チェックポイント薬はメラノーマだけではなく、肺癌など他の癌治療にも有効でブレークスルーと言われるほどに癌治療に革命的な変化をもたらしましたが、数割程度の患者にしか効かない、非常に高額であり医療費の高騰をもたらし、いわゆる「経済的有害事象(financial toxicity)」という言葉も使われるなど経済的な懸念もあります。
最近免疫チェックポイント阻害薬の有効性が事前に判定できるバイオマーカーの研究も進んでいるとのことです。
PDL-1の発現の多寡、IL-9の発現なども報告されています。前もって効果のある患者さんが分かれば医療費の節約にも寄与すると思われます。

参考文献

宇原 久 メラノーマに対する免疫チェックポイント阻害薬 
第46回日本皮膚科学会生涯教育シンポジウム 新規に登場した薬剤の使い方 より 2016.8.21

山﨑直也 免疫チェックポイント療法とその副作用対策:臨床皮膚科 70(5 増): 131-136,2016

為政大幾 特集◆メラノーマの薬物療法 ニボルマブ――効果と安全性について―― 皮膚臨床 57(11);1647~1653,2015

吉野公二 悪性黒色腫における薬物療法の展望 J Visual Dermatol 15:558-562,2016
特集 免疫チェックポイント阻害薬のirAE 責任編集 吉野公二