乾癬の治療薬ー生物学的製剤2016

先日の日本乾癬学会で紹介された乾癬の新規治療薬についてレポートしたいと思います。まずは生物学的製剤から。
現在までに生物学的製剤はレミケード、ヒュミラ、ステラーラ、コセンティクスと4剤が発売されました。
佐伯先生による乾癬病態に関係のある細胞とサイトカインの図は薬剤がどこに効くかがわかり易いと思います。
さらに、最近になってトルツとルミセフというIL-17に作用する生物学的製剤が承認の運びとなりました。
それぞれの薬剤の作用点と特徴、注意点について簡単に述べてみます。

◆レミケード(インフリキシマブ)・・・田辺三菱製薬から2010年発売。キメラ型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤。
1990年に米国セントコア社(現Janssen Biotech. Inc.)が創製。マウス型モノクローナル抗体由来の可変領域とヒトIgG1の定常領域を有する。2010年に尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症に承認、2016年5月には用量変更(増量、投与間隔の短縮)が追加承認された。体重1Kg当たり5mgを2時間以上をかけて緩徐に点滴静注する。初回後、2週、6週、以後8週間隔で投与する。効果不十分の場合は10mgまで増量可。投与間隔を短縮した場合は6mgまで増量可。
2015年7月にはバイオ後発品(バイオシミラー、インフリキシマブBS)が適応承認された。
医療費が軽減されることは朗報であるが、先発品と同等の効能、副作用であるかの市販後調査が必要な事、薬剤費が軽減するために高額療養費制度が使用できなくなり、かえって患者負担が増える可能性があることなどの問題も指摘されている。
投与時反応(infusion reaction)、二次無効などの問題が指摘されていたが、MTX(メトトレキサート)の併用で軽減された。但し、MTXは乾癬には適用外使用であるために現在皮膚科学会から公知申請にむけ陳情中とのことである。
乾癬の病態に中心的な役割を果たしているとされるIL-17の上流の炎症性サイトカインであるTNFαの作用を抑えて、乾癬の炎症性細胞の活性化、細胞増殖を抑え、乾癬の病状を寛解させる。点滴静注なので血中濃度の速やかな上昇とともに即効性が期待できる。関節症性乾癬には第一選択。一方、マウスとのキメラ抗体製剤であるために二次無効、再投与時の投与時反応に注意を要する。

◆ヒュミラ(アダリムマブ)・・・アッヴィ合同会社が製造、エーザイ(株)販売。完全ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤。2010年1月に尋常性乾癬、関節症性乾癬に承認された。
初回に80mgを皮下注射し、以後2週に1回、40mgを皮下注射する。効果不十分な場合は80mgまで増量可。関節症状にも効果がある。体重による用量調節の必要がなく増量、減量が容易。自己注射が可能。注射部位の紅斑、腫脹反応がみられることがある。重篤な副作用の報告は少ないがアナフィラキシー反応、De novo肝炎の報告がある。レミケードと比較すると効果発現は遅いが、ヒト型抗体製剤であるために二次無効が少ない。休薬後の再投与でも効果は期待でき、増量も可能。

近年乾癬は皮膚のみではなく糖尿病や心血管系疾患などのメタボリック症候群の合併が多いことから乾癬は単なる皮膚疾患ではなく、全身性炎症性疾患と捉えられつつある。上記の抗TNFα製剤は心血管系疾患を軽減することが明らかになってきており、その面からも抗TNFα療法は理に叶った療法であるとされている。
一方、抗TNFα製剤にはパラドックス的副作用が時としてみられ、乾癬や掌蹠膿疱症類似の皮疹を惹起することもある。また、ループス様症状を生じることも報告され注意が必要である。

◆ステラーラ(ウステキヌマブ)・・・ヤンセンファーマ(株)が製造、販売。完全ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤。2011年3月に尋常性乾癬、関節症性乾癬に対して承認された。1回45mgを皮下投与する。初回、その4週後、以降12週間隔で投与する。効果不十分な場合は1回90mgを投与できる。IL-12,23の両方を抑制する。当初IL-12に対する効果が期待されたが、むしろIL-23を抑制することによって効果を発現することが明らかになってきた。効果発現は抗TNFα製剤と比較すると立ち上がりは遅いが、長期投与でも安定した効果が持続する、また抗体出現率も少なく二次無効が少ないことで、最も脱落率が少ない。但し、関節症性乾癬に対する効果は弱く、第二選択剤である。米国では12週という通院間隔の長さ、感染症のリスクが比較的少ないことなどから、ステラーラの使用頻度が増加傾向にあるという。

◆コセンティクス(セクキヌマブ)・・・ノバルティスファーマ(株)が製造、マルホ(株)が販売。完全ヒト型IgG1抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤。2014年12月尋常性乾癬、関節症性乾癬に対して適応承認された。2015年12月には膿疱性乾癬にも追加承認された。初回300mgを皮下投与する。その後1週、2週、3週、4週後の合計5回皮下投与する。以降は4週間の間隔で皮下投与する。12週後のPASI75 ,PASI100の達成率は体重60Kg以下では150mg,300mgいずれの投与群でも差がなかったために60Kg以下の人は150mg投与でも構わない。2つの大規模臨床試験がなされ、いままで発売されたどの生物学的製剤よりも、PASIクリアー率が高い。300mg12週後の成績ではPASI75,90,100達成率がそれぞれ81%,59%,28%であった。すなわち3割近くはほぼ完治の状態に到達したということである。全体的には300mg投与の群の方が、150mg投与群より成績が良い。またステラーラとの直接比較によると、効果発現はコセンティクスの方が早い。52週でのPASI100達成率は41%であった。関節症状に対してもかなり良好な成績を示した。IL-17は好中球数の維持、好中球活性化、カンジダ感染を含む真菌と黄色ブドウ球菌に対する宿主防御免疫において重要であることが知られている。しかし、現在のところ、重篤な感染症の副作用の報告はないが、今後の検討事項となっている。またクローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を増悪させることなど注意を要する。
またこの製剤は抗薬剤抗体の発現頻度が他剤に比べて極めて低いのも特徴である。まだ、発売から日が浅いために今後の動向が注目されている。

◆トルツ(イキセキズマブ)・・・イーライリリー(株)が製造、日本イーライリリー、鳥居薬品(株)が販売。ヒト化IgG4抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤。2016年7月尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症に対して適応承認された。初回に160mgを皮下投与する。2週後から12週後までは1回80mgを2週間隔で皮下投与し、以降は1回80mgを4週間隔で投与する。8月31日薬価収載予定だったが、類似薬コセンティクスに比べ、高薬価であったため使用について、類似薬優先の方針が示されたため、会社は薬価収載を取り下げた。現在薬価再申請に向けて当局と協議中とのことである。投与12週時のPASI 75,90,100の達成率は89.1%,70.9%,35.3%と高い。投与52週時のPASI 75,90,100の達成率は92.3%,80.8%,48.7%と極めて高い。

◆ルミセフ(ブロダルマブ)・・・協和発酵キリン(株)が製造販売。ヒト型抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体製剤。2016年7月尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症に対し適応承認された。初回に1回210mgを皮下投与する。次いで1週後、2週後に同量を皮下投与、以降2週間隔で皮下投与する。投与12週時のPASI 75,90,100の達成率は94.6%,91.9%,59.5%と極めて高い。52週時のPASI 75,90,100の達成率も97.2%,88.9%,63.9%と極めて高い。

上記の2剤は国内ではまだ実臨床で使用されていないので、これから効果、副作用などの情報が集積されていくものと思われる。ただ、治験段階において抗IL-17抗体製剤は数字の上では従来の生物学的製剤よりも高い有効率のデータを示している。
安全性においては、粘膜カンジダ症、好中球減少、クローン病など炎症性腸疾患の悪化、新生に注意を要する。

◆IL-23p19阻害薬・・・乾癬がTh1系疾患と考えられていた時期(ちなみにアトピー性皮膚炎はTh2系)、Th1を分化誘導する樹状細胞が産生するIL-12p40を阻害すれば乾癬に有効であろうとして開発されたのが、ステラーラである。しかし、その効果を示すターゲットはIL-12ではなく、IL-23ではないかということが明らかになってきた。
ちなみに、IL-23はジスルフィド結合でp40とp19が結合したヘテロダイマーで、IL-12はp35とp40の2つのサブユニットを持つ。ステラーラは抗p40抗体である。
最近、IL23のもう一つのサブユニットであるp19をターゲットにした薬剤の開発が進み3剤(Tildrakizumab, Guselkumab, Risankizumab)の臨床試験がphaseⅢに入ってきた。それぞれに若干の違いはあるものの、ステラーラと比べて、より速い効果発現が得られ、有効性も高い。投与間隔も長いなどの利点があるとのことだ。IL12が防御・腫瘍免疫に関与していることを考慮するとp19のみを抑制できるこちらの製剤はより理に叶っているかもしれない。

以上、最近の乾癬に対する生物学的製剤の開発状況をまとめてみました。すでに販売されているもの、開発中のものを含めると9剤、さらにもっと後に控えているそうです。バイオシミラーも巻き込んで、まさに戦国時代の状況だと形容する先生もいました。ますます効果の高い薬剤がでてきて、乾癬治療は格段に進んでいる感がありますが、適切な使い方、副作用の点、薬剤費の問題など注視すべき問題もありそうです。

参考文献

多田弥生 抗IL-17抗体による乾癬治療 臨床皮膚科 70(5増) :113-116,2016

多田弥生 生物学的製剤の今後 日皮会誌:124(13),2774-2776,2014

佐伯秀久 生物学的製剤による乾癬治療の工夫と注意点 J Visual Dermatol 13:230-234,2014

乾癬図 佐伯 原図